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第九二回国際協同組合デー・滋賀県記念講演会(4)

滋賀の生協 No.168(2014.10.20)
第九二回国際協同組合デー・滋賀県記念講演会
地域との連携でつくる協同組合のバリューチェーン(価値連鎖)
~作る側、売る側、使う側、食べる側の持続可能なコミュニティーづくりについて~

2014年7月9日 滋賀県農業教育情報センター
主催 IYC記念滋賀県協同組合協議会

講師 青山 浩子氏
(農業ジャーナリスト)

   災害協定で都市と農村の共生

 もう一つは、「いざという時に助け合える関係を築きましょう」と、集落営農組織と仙台の地域が災害協定を結んだお話です。農村の価値、底力を見させていただいた事例です。

 宮城県加美町の上区城内営農組合は、平成一九年に七一人の構成員で発足しました。品目横断的経営安定対策という農政の意向があって、「これからは集落営農でないとお米の価格補てんが受けられない」ということで、営農組織を作り、一二〇ヘクタールの農地を集約し、稲作、大豆、タマネギを栽培、女性メンバーによる餅加工なども行っています。
 組織ができる前の平成一四年から、一時間ほど離れた仙台市泉区にある松陵中学校の稲刈りと田植えの体験授業を受け入れていました。それがきっかけとなり、営農組織と町内会(二六〇世帯)のつきあいが始まったのです。お互いに行ったり来たりして、農家が土地を貸して市民農園的に野菜をつくる。そんなつきあいでした。

 交流が深まるにつれ、お互いにどちらからともなく「行き来だけではなく、何かあった時にお互いに助け合う協定を結んではどうか」ということになったのです。
 東日本大震災の数年前、宮城で何回か大きな地震があり、その記憶が発想の根底にありました。農村は食料がある。都市には人がいる。どちらかが、「人手がいない」「食料がない」となった時に、お互いに行き来できることも必要ではないかということです。
 そして、平成二二年一〇月に、組合と町内会は、災害時に物資や人を派遣するなどの内容を盛り込んだ「災害救済活動の相互支援に関する協定書」を締結します。

 東日本大震災が起こったのはその半年後です。ダメージは、仙台市の方が大きかったのです。営農組織の組合長さんは駆け付けてみると、水がありません。灯油がありません。ライフラインもが途絶えています。自衛隊もまだ入れない状態でした。トラクターから油を抜き灯油缶に詰めて持って行ったり、水を持って行ったり、お米を持って行ったり、自衛隊や警察が入るまで、素晴らしい活躍をしました。組合長さんが救援に行った時には、まだご自分の娘さんの所在も不明だったそうです。
 そこで絆が強まったのでしょうね。その後、うまい形で子どもたちの交流は続いておりますし、組合員による朝市が、毎週日曜日に町内会の公民館で行われています。米の注文は震災前に比べると倍に増えました。

 震災を大きなきっかけとして、農村と都市が、経済活動以外の形で助け合う。これも農村の価値であり、農村の人、機能、物資の価値を都市に連鎖させていく大きな役割ではないかと思いました。

   課題を乗り越えていくために

 消費者は農業や食料に対して大きな不安を抱えています。毎日のように報道される農家の減少や、耕作放棄地の拡大など、生産基盤の維持の弱体化を心配はしています。
 ところが、自分のお財布を出すとなると「やはり安い方が良いわね」となる。なかなか頭で考えていることと行動がつながらないというのが、問題なのだろうと思うのです。

 それで、私は今回、二つの提案をさせていただいて終わりにしたいと思います。
 今日お越しになっていらっしゃる、JAグループと生協、この二つの協同組合が今後どう連携を深めていくのか。私としてはそこに期待をしています。
 震災以来、みやぎ生協と宮城県内のJAグループ、加工業者が、一次産業の復興を早くめざそうと「食のみやぎ復興ネットワーク」をつくりました。生産者と流通業者、それをつなぐ方々、九三団体が入っています。地元の宝物を発掘して、それを生産から加工、販売につなげていこうという、復興支援の活動でもあり、また「協同組合どうしで、もう一回宝物を見つけ合おうよ」という、見直しの活動でもあるわけです。
 JAグループと生協が一緒になると、いろいろなことができるなあと思います。

 例えば、今地場の伝統野菜である「仙台白菜」を作っているのですけど、生協がいくら掘り起こして販売しようと思っても、作るという部分では農協が強いわけですね。全農から単協へ指示を出して、単協の担当者が作ってくれそうな人に声を掛ける。そして各産地でそれをまとめて、全農に送る。全農はみやぎ生協と数量と単価の打ち合わせをして、各店舗でキャンペーンをはる。これは他の地域でも十分できることであり、すでにやっているかも知れませんが、農協は農協で生産者寄り、生協は消費者寄りで、「産消提携」以外の連携がまだまだできていない、足りないのかなという感じがいたします。
 「食のみやぎ復興ネットワーク」は、供給品目は既に二百を超え、主にみやぎ生協の店舗で販売をされています。販売金額は十三億円を突破していますが、それを五十億円、百億円に出来たら、今までにない協同組合の「生販協業」の事業ができるのではないかと、みやぎ生協の専務理事さんは非常に意気込んでおられました。
 今までにない価値連鎖ではないかなと思います。この生協とJA、協同組合どうしの連携というのが、一つの私の期待です。

 もう一つの期待は、協同組合に無関心な人をどう巻き込むかということです。
 「若い組合員が入ってこない」ということを、生活クラブ生協の役員をしている私の先輩が言っていました。JAは組合員の先細りが心配されるでしょうし、生協は若い新しい組合員をどう作っていくかということが、これからの課題ではないかと思うのですね。
 「入口」というものをどうつくるかという問題だと思うのです。三重県にある「伊賀の里モクモク手づくりファーム」は、上手にやっていると思います。あそこは農業テーマパークということですが、実は生協的なやり方でやっていますよね。会員に対して優先的に販売をしていく。会員が約四万五千世帯あって、カタログ販売をしていて、贈答品も作っています。年間総売り上げが約五十億円、来場者数が約五十万人。あそこの上手さは間口を広げてやっていることです。初めは「農業テーマパーク」で、「ハム作りませんか」「パン焼きませんか」「豚のレース見ませんか」というように楽しいところから始める。そして、ここの方針なり、理念なり、モットーなりに共感をしてくれたら「会員になってみませんか」「食育のプログラムに参加しませんか」というように優良顧客をつくって囲い込んでいくというやり方です。

 協同組合、生協や農協と接点のない消費者は、まだまだ多いと思うのです。どういうことをやっているかわからない。メリットもあまりわからない。「私とは違う世界なのだ」と思っている人たちがまだまだ世の中にいると思います。そういう人たちにどうやってわかりやすく伝え、誘い込むのか。
 初めはたくさん囲って、たとえ関心のある人が少なくても、そういう人たちは別の形で新しい人をつかんでいくためのアドバイザーにはなってくれると思います。新しい組合員、サポーターをどう作っていくか。ぜひお知恵を出していただければと思います。

 たぶんみなさんからしたら「それはもう知っているよ。やっているよ」という話もたくさんあったかと思いますが、私なりに第三者から見て、農村の地域の価値を一所懸命連鎖していらっしゃるのに、まだまだ発信力に欠けていて消費者に伝わっていない部分があってもったいないなと思います。私もこの価値連鎖をつなげていく一人の人間になりたいな、なれるように精進してまいりたいと思います。
 ご清聴ありがとうございました。

営農組合と町内会の交流会

今野重幸営農組合組合長(右)

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