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IYC記念滋賀県協同組合協議会講演会(1)

滋賀の生協 No.170(2015.4.28)
IYC記念滋賀県協同組合協議会講演会
不確実性の時代をよむ
~“アベノミクス”は暮らしにどう影響を及ぼすか~

三月一九日(木) ピアザ淡海(県立県民交流センター)203会議室

講師 柴山 桂太氏
(滋賀大学経済学部准教授)



  アメリカ、EU、中国など、世界経済の動向の中で、日本経済の現状をどう評価すればいいのか。また今後の展望にアベノミクスはどう位置づけられるのか。さらには、農業と暮らしに果たすべき協同組合の役割について語っていただきました。

◆プロフィール 柴山 桂太(しばやま けいた)
専門は経済思想、現代社会論。
著書 「静かなる大恐慌」(集英社新書)、「グローバリズムが世界を滅ぼす」(共著 文春新書)等
   農業問題との出合い

  二〇一三年に、NHKスペシャルでTPP問題をテーマに、甘利明TPP担当相も参加した討論番組がありました。私は反対派として参加しました。見ていた人に言わせると、「反対派の方がちょっと勝った」ということでした。放送の翌日、全国の農業関係者から「よくぞ言ってくれた。とにかく酪農の現場に来てくれ」「みかん農家をやっている、一度遊びに来てくれ」等の電話がいっぱい掛かって来たわけです。

 実は私のTPP反対の理由は、主権侵害や地方経済の衰退が念頭にあり、農業の視点ではなかったのです。しかし、「これも一つの縁かな」と、一年間講演をしながら全国の農業の現場を見て歩きました。すると、マスコミが報道するイメージと現実の農業には、大きな開きがあったのです。農業関係者には、「消費者のために頑張っても、国は見捨てるようなことを言う」「マスコミは全く自分たちの現実を取り上げてくれない」という不満がありました。この話は後程したいと思いますが、私にとって、農業問題を踏まえて、世界経済と日本経済の問題を考える貴重な一年でした。

   世界のGDPランキング

 現在、「アベノミクス」で株価は上がり、景気は順調だと言われています。一方で地方経済にはまだまだ波及がない。先が読み取りにくい状況に日本はあります。
 世界はグローバル化しています。国境なく物やお金が移動する時代ですから、世界全体を見ないと、日本経済が今年どうなるか、アベノミクスが成功するかも分かりません。
 世界に約二百の国がありますが、アメリカがダントツに経済力を持っています。アメリカのGDPは、日本の三倍以上、中国の約倍です。(表1)

 日本は最近までアメリカに次ぐ経済大国でした。今でも、大きな経済力を持っている。
 最近、経済発展著しいブラジル、ロシア、インドのGDPも、日本の半分以下です。アセアンは全部足しても、インドと同じぐらいです。
 韓国のGDPは五分の一以下です。韓国は国内市場が弱いから輸出しかない。だから韓国はサムソンにお金を投入し、日本企業のシェアを奪って世界の市場を獲得しているのです。韓国にはサムソンなどごく少数の財閥系企業しか優良な就職先がない。自殺率は日本の倍という歪な社会構造になっています。
 日本はまだ内需が非常に大きい。この七〇年間、コツコツと頑張って蓄積してきた遺産のおかげでなんとか食えている状況です。

 世界経済GDPシェアは、アメリカが二三%、EUが二三%を占めています。中国が一三%、日本が六・七%。世界経済の今後は、この四大エンジンが機能するかどうかにかかっています。特にアメリカ経済が失墜すると、一番大きなエンジンがこわれてしまいますから、墜落します。リーマン・ショックはまさにそういう危機でした。


(表1)

   世界経済の現状①アメリカ

 実はアメリカは今景気が良くなっています。
 二〇〇八年のリーマン・ショックとは、簡単に言うと住宅バブルです。二〇〇二年から二〇〇七年までの五年間で、いきなり住宅価格が倍になるという、凄まじいバブルが起こった。人々は「今のうちに」と、無理して借金して買う。さらに「自分は住まないけど、資産運用目的で」と借金して買う。そういう状況だったのですね。

 しかし、バブルは五年ほどしか続きません。日本は一九八六年から一九九一年まで、アメリカも二〇〇二年から二〇〇七年までです。
 二〇〇七年にバブルが弾けます。一九二九年の世界恐慌の時は、「株が儲かる」と、みんな株の買占めをした。リーマン・ショックの時は、「土地が儲かる」と土地を買って、そして弾けた。それで銀行は倒産していく。人々は「景気が悪くなったぞ」ということで財布のひもを締めますので、一挙に景気が悪化していく状況だった。

   QE(量的緩和)が支えた住宅市場

 二〇〇八年に、リーマン・ショックが起こった段階で、アメリカ政府が即座に行ったのが「QE(量的緩和)」です。中央銀行がひたすらお金を刷って市中に流す。しかし、お金を刷っても、人びとがお金を使わなければお金は回りません。そこで、中央銀行は、銀行がもっている不良債権(不動産担保証券)を買取る策に出ました。今まで誰もやったことのない政策です。

 バブルがはじけると、担保価値が毀損され不良債権となります。だから銀行は貸し渋りをする。これは日本のバブル崩壊でも起こりました。ベン・バーナンキ中央銀行総裁は、日本のバブル崩壊の研究もした人なのです。彼はバブルが弾けるとわかっていましたから、弾けると同時に、不良債権を買い取った。それで、土地とか株の値段が下げ止まったのです。QEを三回やって漸く地価が下げ止まった。

 株価はどうだったか。日本の場合は、株が一回下げ止まって、一九九七年頃から更に奈落の底まで落ちていった。だけどアメリカの場合は、一回落ちた二〇〇九年に、大量に資金を注入しましたので、だんだん持ち上がってきて、今リーマン・ショック前の記録を更新するという状況です。消費者心理も持ち直して、アメリカ経済は回復に向かっているのは間違いありません。成長率もプラスになっています。

   新たなバブルの萌芽 自動車市場

 ただ問題は、中央銀行がお金をばらまいたために、バブル崩壊後必ず体験するはずの大きな不況が回避された。今アメリカは、悪酔いして吐いた時に、迎え酒を飲んでもう一回酔っぱらっている状態で、どこかでおかしなことになっている。
 今自動車ローンがどんどん大きくなっていて、「やばいのではないか」という議論がアメリカで始まっています。アメリカでは、新車を購入する場合、ローンを組むのが一般的です。そのローン残高が急速に膨れ上がっている。信用調査会社によると、二〇一四年四~六月期の自動車ローン残高は、前年同期比一一・七%増の八三九一億ドル(約八七兆円)と、過去最高を更新した。それも、返済能力に疑問のある顧客にもローンを実行する事例が目立っているようです。

   世界経済の現状②欧州

 欧州はアメリカと反対で重病です。悪くなるか、もっと悪くなるか、ユーロそのものが解体されてしまうか。この三つの選択肢しかないのです。欧州は二つの問題があります。
 一つは、ヨーロッパも、二〇〇八年のバブル崩壊に苦しんでいます。
 二つ目は、ユーロという仕組みを続ける限り、今の不況を脱するということができない。「迎え酒」を飲めないのです。それどころか、「もっと体力を絞れ」と強制する仕組みなのですね。作っている段階ではわからなかった、そういうユーロの構造がわかってきた。

 最近では、ギリシャが「これ以上の締め付けに耐えられない。ユーロを抜ける」と言い始めた。勝ち組のドイツは「出ていくなら出て行け」と、だんだん喧嘩がひどくなっていて、今年、来年とヨーロッパはかなりのヤマを迎えます。
 ギリシャが離脱すると金融市場が大パニックになります。その結果世界中を奈落の底に引き摺り込むかもしれないと言われています。

   欧州債務危機

 ヨーロッパは、国によって国民性が違います。ドイツ人は一所懸命働いて貯金し、老後に備える。フランス、ギリシャと、南に行くほど貯金もせずに楽しくやっている。そこに二〇〇二年から二〇〇七年まではバブルです。ヨーロッパ経済は一つにつながっていますから、ドイツ人が貯金したお金がギリシャやスペインに流れ込み借金を支えていた。

 バブルが弾けました。南ヨーロッパは、ドイツに「もうちょっとお金貸して」と言う。ドイツは「冗談じゃない」と言って、南ヨーロッパに貸した金を全部引上げる。すると、遊び暮らしていた南ヨーロッパは、次々とお金がなくなって、国家破産の危機になった。
 これが「欧州債務危機」です。
 その結果、ドイツだけは失業率が低下している。スペイン、ポルトガル、ギリシャはものすごい失業率で苦しんでいる。

   ユーロ離脱の危機

 ヨーロッパの今の状況は、日本のバブル崩壊のころによく似ています。
 銀行の貸出残高を見てみると、リーマン・ショック以降、貸しはがし、貸ししぶりが起こっていることがわかります。貸しはがしをしていては、景気は良くなりません。

 それから、少子化問題。リーマン・ショック後、若年失業率が四〇%とか五〇%です。親許でくらさざるを得なくなる。婚期が遅れます。女性の平均出産年齢が上がる。その結果、出生率が大幅に落ち込む。ヨーロッパの人口減少も歯止めがきかなくなっています。

 更に問題は、ユーロは共通政府になりつつあるので、各国の予算がルールで制約され、失業救済のための公共事業は、一国の勝手な判断でできないことになっています。だから、政府の景気刺激なしに、この状況を耐えなければいけない。
 これではギリシャは持ちません。ギリシャはこの危機以降GDPが三〇%下がっています。今年ようやく成長率がプラス〇・六%になりました。私の計算では、三〇%分の低下を取り戻すためには、六〇年以上かかります。

 今年の選挙で、ギリシャは反ユーロ・反ドイツ政党、急進左派連合(SYRIZA)が勝利しました。もうすぐスペインでも選挙があります。若い人たちが集まって作った、ポデモスという昔の共産党グループが勝つと言われています。これもユーロ離脱政党です。
 スペインは、GDP世界第一三位、ヨーロッパでも四番目の大国です。ギリシャはともかく、スペインが離脱となると、ユーロ体制が完全に壊れてしまいます。

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