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IYC記念滋賀県協同組合協議会講演会(2)

滋賀の生協 No.170(2015.4.28)
IYC記念滋賀県協同組合協議会講演会
不確実性の時代をよむ
~“アベノミクス”は暮らしにどう影響を及ぼすか~

三月一九日(木) ピアザ淡海(県立県民交流センター)203会議室

講師 柴山 桂太氏
(滋賀大学経済学部准教授)

   世界経済の現状③中国

 中国はもともと一〇%を越える経済成長率がありました。しかし、リーマン・ショック以降落ち込んで、今七・四%という数字になっています。(グラフ1)
 この七・四%という数字は信用できない。実は三%か四%ではないかと思います。普通どの国でも、経済統計が発表されるまでに二、三か月かかります。しかし、中国の場合は一二月に〆て、一月には出てくるのです。たぶん、前年一月、李克強首相の「今年の成長率目標は七・五%」と言った数字に影響されているのではないかと思います。

 実は今、中国でもバブルが崩壊しています。中国のバブルは、二〇〇九年から始まっています。リーマン・ショックがあって、アメリカ、ヨーロッパに向けた輸出が止まり、在庫過剰で苦しくなった。そこで、中国政府は、大量の公共事業とお金のばらまきをやりました。それが地価に火をつけてしまった。普通はイコールになるはずの実体経済と銀行の貸出残高なのに、貸し出しの方が二〇〇九年から増えている。つまり、投資目的や資産運用目的の、住民のいないマンションや稼働しない工場がつくられ始めたということです。(グラフ2)
 バブルは五年しか続きませんから、バブル崩壊の影響はおそらく今年から出てくるはずです。しかし、中国に関しては何が起こっているのかよくわかりません。


(グラフ1)

(グラフ2)
(注)約30兆元= (2013年5月末の銀行貸出残高の実績)-(発電量の伸びと同じペースで銀行貸出残高が増加したと仮定し推計した額)
(資料) CEICよりみずほ総合研究所作成

   戦前日本と似ている格差

 「中国は昭和三〇年代の日本に似ている」と言いますけれども、全然違います。(表2)
 日本の高度成長期は、「内需拡大型」の成長だった。国内の消費者向けに、車や家電を作る。消費者が買う。買うと企業の利益になる。企業が賃上げする。また物が売れる。こういう好循環が日本の発展です。だから日本の高度成長期には、格差が大幅に縮小しました。

 だけど、今の中国は、外国に向けて売る。だから、国際競争に負けないために、賃金を上げない。格差が広がる。これが中国の発展モデルです。
 今たぶん中国は戦前の日本によく似ていて、軍部を抑えきれなくなっている。国内では農民暴動が年間十万件以上起こっています。労働争議も起こって、国がもたない状況です。

 アメリカは若干景気が良いけれども、二度目のバブル状態に入っている。ヨーロッパはこのままいくとユーロそのものが危ないという状況になってきた。中国は景気が悪くなるだけでなく、軍事的にも、戦前の日本のようになってきた。
 こういう状況の中で、日本はどうなるのかという話をしたいと思います。


(表2)

   日本の失われた二〇年

 日本はバブル崩壊後、二〇一三年までの約二〇年間の平均成長率は〇・六八%。ほとんど低空飛行の状況です。成長率が下がっただけではなく、物価が下がっていく。土地の値段も、金利も下がっています。だから貯金が増えない。一九九八年頃から十五年間、ずっと慢性的なデフレーションが続いています。
 デフレの何がまずいのか?物価が下がるということは企業の業績も下がります。税収も下がります。賃金も下がります。その結果、不況が長期化します。
 よく「賃金が下がっても、物価も下がれば差し引きゼロじゃないか」という人もいます。それは全然違うのです。金利はゼロ以下にはならないから、借金だけは減らないのです。

 インフレの時は借金をした方が得です。今三千万円で家買っても、資産価値は上がる。五年後、十年後には収入も増えている。だから、みんな借金をするのです。しかし、デフレの時は、五年後、十年後、自分の賃金はもっと下がっている。金利はゼロ以下にはならないので、借金の額は減らない。だから倒産が相次ぎます。
 国の借金も減りません。今国の借金が千兆円あるのはデフレだからです。税収が上がりません。借金は減らないどころか金利を払っています。だから、デフレを脱却しなかったらこの借金を返せないのです。

   アベノミクスとは?

 リーマン・ショック後、一度民主党政権になったのですが、政策運営が稚拙だったので、三年三か月で終わり、その後自民党政権が復活し、安倍さんが総理大臣になった。
 彼は「とにかくデフレ脱却する」ための政策を掲げました。アベノミクスの「三本の矢」です。「一本目の矢」は、アメリカのような量的緩和政策を日本銀行も行う。「二本目の矢」は、財政出動を行って、公共事業を進め、景気の底上げをはかる。「三本目の矢」は、成長戦略で長期の日本の成長の道筋をつける。

 一本目の矢は、デフレを脱却するためは、中央銀行がある程度お金を刷らないとどうにもならない。これは必要だった。
 二本目の矢。確かに今「これ以上公共事業で借金するのはどうか」という意見もあります。しかし、デフレを脱却しないと、借金が減らない。だからある程度必要だった。
 問題は三番目。竹中平蔵氏が入り込んで、いつの間にか「小泉構造改革路線」に変わっている。産業競争力会議を牛耳り、「農業の成長プランを作る」とか言って、「フルーツ輸出」とか意味不明の構想を立てている。
 いずれにしても三分の二はあっているわけで、アベノミクスに対する期待は高まった。その結果を見てみましょう。

   結果①二〇一三ー一四年の日本経済 景気はどうなったか。(表3)

 二〇一一年の菅政権の時は、震災と不況が重なって、GDPはマイナス〇・五%。デフレも酷くなりました。問題は、公的資本形成がマイナス八・二%。震災で国土を破壊され、民間が弱っている時に公共事業を削り、さらに体力を奪うようなことをやったのです。

 二〇一二年の野田政権になると、個人消費は回復に向かっています。公的資本形成も増やしました。
 二〇一三年になると、消費は順調に回復に向かっています。住宅と公共事業が景気を押し上げています。安倍政権は第二の矢をいっぱい効かせました。

 二〇一四年は、輸出と設備投資が伸びている。漸くアベノミクス効果が出てきたにもかかわらず、消費税増税が足を引っ張って、個人消費と民間住宅が大幅に落ち込み、〇%成長になってしまいました。
 二〇一五年は、もし個人消費が回復して、円安モードが続いて、輸出が伸びると、全体的にプラスになるはずなのですが、問題は輸出です。二〇一四年の輸出の八・二です。輸出先はアメリカと中国です。アメリカの景気が良くなってくれないとダメです。もう一方の中国ですが、最近中国人の「爆買い」が話題になっています。この間の春節の時はすごかったです。

 しかし、中国のバブル崩壊等の世界経済の不確定要因次第では、輸出が下がる可能性がある。だから、二〇一五年に関してはどうなるか。今の段階では簡単に言えないのです。


(表3)

   結果②物価は?

 物価はどうかというと、民主党時代は、ずっと前年比マイナス。デフレ放置状況でした。
 それが、二〇一三年四月に黒田東彦日銀総裁になって変わりました。九月、一〇月ぐらいから、物価は漸くプラスになってきた。二〇一四年四月以降、消費税増税の影響分を除去すると、プラス〇・三%前後で推移しています。安倍政権になってから、物価上昇率は前年比で、プラス〇・一とか、〇・二で、少しずつ上がってきています。

 ただ、アベノミクスの目標は、二%です。現在一%に達していないです。二〇一五年四月までに二%を達成しないと日銀総裁の責任問題が発生します。たぶん黒田総裁はもう一発QEをやります。もう既に効かなくなってきているので、三発目がどこまで効くか、よくわかりません。また、「借金をこれ以上増やすな」という国民の反対も多く、政府による景気刺激も限界になってきました。
 残された道は、輸出と消費しかありません。しかし、どちらも世界経済の影響を受けやすく、日本経済の回復は日本人だけで決められないという不確実な状況になってきました。


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