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IYC記念滋賀県協同組合協議会講演会(4)

滋賀の生協 No.170(2015.4.28)
IYC記念滋賀県協同組合協議会講演会
不確実性の時代をよむ
~“アベノミクス”は暮らしにどう影響を及ぼすか~

三月一九日(木) ピアザ淡海(県立県民交流センター)203会議室

講師 柴山 桂太氏
(滋賀大学経済学部准教授)

   日本の問題⑥「農業の構造改革」

 今年二月の安倍首相の施政方針演説で、真っ先に取り上げたのが農業の構造改革です。首相の施政方針演説で農政問題が先に取り上げられた。これは初めてじゃないですかね。
 かつ、その一発目が農協改革です。しかもJA全中の事実上の解体です。たぶん、これはTPPへの批判封じでしょう。牛肉、豚肉、米、その他の問題で、もう完全に譲歩する気なのですから、事前に反対をつぶすために先手を打ってきた。狡いやり方です。こんな誰が見てもわかることも、マスコミは報じませんね。

 それに、構造改革というのは規制緩和と新規参入を増やして、競争していこうという話です。競争原理が進めば、当然競争についていけないところが脱落していきます。中山間地は厳しくなる。地域格差が広がるのは当たり前じゃないですか。安倍さんは「棚田を守る」と言うけど、競争原理を導入してどうやって守るのでしょう。

 農産物輸出も結構ですが、竹中平蔵氏は「オランダを真似しよう」と言っている。無理です。オランダが儲かっている理由は、その日のうちに野菜や生花をドイツに運べるからです。ユーロですから為替使う必要もありません。どんなに輸出が増えても通貨高にならない。為替変動リスクがないのです。
 日本はどことやるのですか。それに為替リスク。為替って大変ですよ。大量に作っても、円高が急に進めば全部廃棄しなければいけない。その事業リスクは誰が取るのですか。そんなに儲かるなら商社がとっくにやっていますよ。しかも、日本には穀物メジャーはありませんから、価格支配力も持っていないです。

   構造改革はうまくいった前例はない

 そもそも、構造改革がうまくいった試しがありますか。郵政改革。郵便事業は連続で赤字です。郵貯も赤字です。郵便サービス良くなりましたか。地方では撤退しています。
 雇用分野での構造改革も、派遣社員の規制緩和で良くなりましたか。今や非正規雇用の割合は三五%です。あと五年もすれば、国民の四割以上は非正規雇用ですよ。働いても年収二百万円越えないワーキングプアも急増している。これが成功と言えるでしょうか。過去の構造改革は全部失敗しているのです。それなのに、なぜまた農業の構造改革なのですか。

   日本の農業は「弱い」のか?

 日本の農家は、補助金や関税等で守られているというイメージがあります。それは間違ではないでしょう。しかし、北海道の酪農、ミカン農家の現場を歩いてみてわかったのは、農家は努力をしているという当たり前のことです。日本の消費者ってうるさいです。消費者の要望に合わせるために、借金を背負って、美味しい牛乳、美味しいみかん、美味しいお米を作るために努力をしているわけです。
 酪農なども機械化がすごく進んでいる。機械化とは借金するということです。つまり、ある程度の将来の収益を見込みながら借金をして、事業経営を行っているわけですね。

 しかも、仮に三〇%関税があっても、アメリカの農家がコストを三〇%削減すれば入って日本市場で勝負できるわけです。つまり日本の農家は、国内の競争だけでなく、海外との競争もある。関税は、競争を和らげるだけで、失くすわけではないのです。
 日本の農業がたるんでいるとは思いません。むしろ、相当努力している。だけど努力だけではどうにもならないものもあるのですよね。

 みかん農家が言っていました。「俺たちは一個ずつ摘んでいる。向こうは移民使って、果樹をゆすって落として、つぶしてジュースにする。コストで勝てるわけがないでしょう」。しかも、愛媛県は元々国策でみかんを植えた。ところが、漸く成功した頃に、牛肉・オレンジ交渉で関税を下げられた。「国に振り回されている」という怒りがあるのです。
 「たるんでいて補助金漬け」という話は誇張され過ぎている。もっと農業の現実から、農業や農業政策を考えるべきだ。少なくとも構造改革をして競争すれば何とかなるなんて、単純な話ではないですね。

   問題はすべてつながっている

 今日本の最大の問題は、デフレ―ションです。しかし、デフレだけではないのです。
 東京一極集中が進んでいる。地方はどんどん衰退している。これから大規模化が進めば、農業の従事人口がますます減ります。本当にそれで地方再生ができるのですか。
 「東京オリンピック」なんて余計なものを招致して、公共事業は全部東京に集中する。ますます東京一極集中の構造が、安倍政権の政策の下で進んでしまう。

 震災リスクのある東京に一極集中が進めば、日本経済の基礎が脆弱になる。加えて、都会のサラリーマン層にばかり富が集中して、格差が広がる。
 その上、TPPに入る。「農業改革」をする。雇用もさらに「改革」をする。竹中さんは、「正社員を失くせ。全部非正規なら問題はない」と言っていましたよね。医療に関しても、混合診療を認めていくべきだという声もだんだん広がっています。

 「岩盤規制」改革とは、生活に最も関わる部分を守るための堅い規制を砕こうという話です。「市場原理に則る」とは、一部の企業に利益を付け替えるという話です。
 こういう構造ですから、デフレ脱却の「第一と第二の矢」はおおむね正しい。だけど、それ以外は全部間違っている。特に「第三の矢」のほとんどは、今の日本の問題を悪化する方向に働きますので、強く反対していくことが必要ではないかと思います。

   日本の未来

 しかし考えてみると、日本は他の国と比べて、プラスの部分があるのですね。
 一つは、今世界全体がバブル崩壊で苦しんでいます。でも日本は一周廻って先に来ました。これからは、世界が日本化するのです。少子化問題、デフレ問題、全部起こります。
 中国はデフレ直前です。EUはデフレに入っています。アメリカはあと四、五年もすると入る可能性があります。日本だけは漸く不良債権の処理も終り、デフレから脱却し始めている。

 山下一仁氏の農協批判の本に、「農協が農業と関係なく、地域のコンビニとかガソリンスタンドで儲けてけしからん」と書いています。そうではなく、むしろ地域のまとまりを作っているわけです。若年失業率が日本は低いです。みんな家事手伝いをやるからです。子どもがかわいそうだから、親が面倒を見るわけです。企業も、中小企業なんかは人情で、「従業員の首を切りたくない」と、社長の給料を削っても、従業員の雇用だけは守る。
 このような社会の秩序を守るシステムがうまく働いている。だから日本は十五年間デフレが続いても、社会に暴動が一件も起こらないというすごい状況ですね。この「すごい状況」は、日本人みんなが少しずつ犠牲を払い社会を支えているからです。

 でも、これから多少でも景気が良くなって行けば、安定した社会システム(家族・企業・地域の役割と国家支出)をうまく維持しながら、日本型の福祉社会、日本型の経済社会を作ことができるのですね。「第三の矢」を折りさえすればね。アメリカの猿真似のようなことをやめて、日本の本来の姿に戻していく。そのようなことをやっていく必要がある。
 これから世界全体が低成長化する中で、そんなに爆発的に成長はしないけど、社会は安定して、福祉など不安もなく、お金を国内で回し合っているような、そういう二一世紀型の社会を日本が最初に作る。こういうチャンスが今来ているのですね。

   「協同組合」の可能性

 「時代遅れと見なされていた中に可能性がある」そういう時代が来ています。
 農協を含めて、日本の協同組合のモデルは、海外で評価されています。これだけ律儀に、農協組織のようなものが残っている国はないですよね。それは「改革派」からすると、日本は時代遅れだというのですけど、そうではなくて、むしろ先んじているのです。

 さんざん自由競争で暴れたあげく、社会が崩壊して今さら慌てているアメリカ。一方、競争概念におどらず、自分たちの社会をしっかり持ってきたあげく、その意味を再評価する日本。こういう日本の方が一周回って先に来ているのです。

 そういう意味では、今後とも、農協、生協含めて、日本のやり方はおおむね正しかった。その意義を確認しつつ、その上で、さらなる社会の発展につなげるために、何をすべきかという運動や思考を展開していかなければならないと思っています。
 ご清聴ありがとうございました。

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