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二〇一五年度国際協同組合デー記念講演会(2)

滋賀の生協 No.172(2015.11.2)
二〇一五年度国際協同組合デー記念講演会
コーヒーのフェアトレードとコメの産消提携
~農業を買い支える仕組みと協同組合~

二〇一五年七月四日(土) 滋賀県農業教育情報センター第三研修室

講師 辻村 英之氏
(京都大学大学院農学研究科准教授)

   コーヒー価格の乱高下とコーヒー危機

 以上のような優れたキリマンジャロ山中の農業が、今潰れかけています。

 コーヒーの価格は、ものすごく激しく乱高下します。

 そもそも農産物は、価格変動が激しい。価格が高くなっても食べないわけにはいかない。安くなっても一度に大量に食べることができない。また収穫までに時間を要するため、今の価格が高い、安いという理由で生産量を調整するのは容易ではない。このような食料・農業の性格がゆえに、特に天候に依存する生産量の増減にともない、農産物価格は乱高下する。

 コーヒーの場合はその上、先物市場で現物価格が決まるので、投機家の行動が価格変動をさらに増幅する。投機性が加わって、より大きな乱高下が実現してしまいます。

 価格安定帯を設定し、その範囲内にコーヒー価格を制御する「価格支持政策」が、一九八九年まではありました。しかし、WTO体制の強化と共に、途上国産の農産物であっても政府による価格支持政策はダメだということになって、その廃止後は価格を安定させる対策が全くなくなります。

 そして二〇〇二年に、四一・五セント/ポンドという史上最安値が実現してしまって、多くの生産者が耐えられなくなって、ついにコーヒー生産をやめてしまいました。「コーヒー危機」と呼ばれました。

   コーヒー危機の影響(1)教育危機

 一九八九年に価格安定帯が外れ、コーヒー価格が低迷傾向にあった段階で、キリマンジャロ山中のコーヒー生産者は、高価な農薬を使わなくなった。その途端に病虫害が大流行した。

 また、村人たちは相互扶助の価値観が非常に強いので、コーヒーで十分な現金収入が得られれば、村に募金が集まり、社会開発が進む。しかしコーヒーの価格低迷で、社会開発は完全停止。作りかけの図書館は十年間、放置されることになります。

 教育の面でも、小学校七年間は義務教育なので大丈夫なのですが、試験に合格して中学に行くとかなりの授業料が必要になります。ルカニ村には中学がなかったので、優秀な子供たちは、隣の隣の隣村まで一時間ぐらいかけて歩いて通学していたのです。しかしコーヒー危機で教育経費を埋めることができなくなり、子供たちはしばらく休学して、親が何とか現金を得るのを待つことになります。


10年間放置された作りかけの図書館

   コーヒー危機の影響(2)森林破壊

 教育資金を捻出できなくなると、ルカニ村民はコーヒー生産の意義をなくします。そして多くが農業を辞め、出稼ぎに出てしまいました。残った農民たちも、コーヒーの代わりにトウモロコシを生産するようになってしまいました。

 上記のように、コーヒーを生産し続けている限り森林は保全されます。しかしトウモロコシは直射日光を求めるので木が邪魔になり、森林破壊が進んでしまいました。

 それだけではなくて、林木を売って儲けるビジネスが若者を中心に広がり、さきほど賞賛したばかりの森林・環境保全性の高い農業が、ぼろぼろと崩れ落ちてしまいました。

 こうして、ルカニ村におけるコーヒーの収穫量や販売量は半減してしまったわけです。


進んだ森林破壊

   フェアトレードが守るもの

 上記のような、いくつもの優位性を持つ農業をとりもどしたい。わたしたちがフェアトレードを始めた動機です。二〇〇二年にプロジェクトを開始しましたが、ルカニ村産のコーヒーを輸入する本格的な取り組みは二〇〇七年からです。下記のフェアトレードの国際基準を満たすだけの、ただのフェアトレードではなく、キリマンジャロ山中の教育や森林を守るための、そして産消の交流・提携を深めるためのフェアトレードです。

 フェアトレードには、国際フェアトレード機構(FLO)が管理する国際認証制度があります。そこがいくつかの品目についてフェアトレード基準を定めており、その基準を満たすと世界共通のフェアトレードラベルを添付して販売できるという制度です。

   フェアトレードの買い支え方:最低価格保障と還元金

 たくさん基準があって、厚い冊子になっておりますが、一番重要なのは、二つの価格形成の仕組みです。フェアトレードラベルが貼られているフェアトレードコーヒーであれば、必ずこの二つが満たされています。

 一つは最低価格が保障されている。フェアトレードは必ず一四〇セント/ポンド以上で貿易することになっています。

 二つ目は、輸出価格にさらに二〇セント/ポンド上乗せする。これは農協とか村などに渡されて、産地の社会開発の経費にする。「フェアトレードプレミアム」と呼ばれている還元金です。

 実はこのラベル自体や生産者が支払う登録料なども結構高く、私たちはそのようなお金もできる限り生産地に戻したいという気持ちで、フェアトレードラベルを貼らずに展開しています。

   フェアトレードの成果(1):還元金支払

 フェアトレードプレミアムの国際基準は二〇セント/ポンドですが、私たちはそれが一〇セントだった頃に二〇セント支払い、追いつかれたので、三セント上乗せして、今は二三セント/ポンドの支払いです。

 そのお金で十年間建設が止まっていた図書館を完成させました。その後、耐病性が高い(無農薬栽培を可能とする)コーヒー苗木の普及、保育園の机・教材の購入、コーヒーの育苗場・加工場の建設、そして現在は、図書館同様に自らの募金と政府からの支援で途中まで建設しながら資金不足で中断していた中学校の建設を、フェアトレードプレミアムで補って完成させたという成果も上げております。

   フェアトレードの成果(2):最低輸出価格保障

 最低輸出価格保障について、現在の国際基準は一四〇セント/ポンドですが、私たちはそれが一二〇セントであった頃から、一七一セントでやっています。私たちは上記のように、教育資金を捻出するためにコーヒーを生産するというルカニ村民の経営目標を知ってます。であれば、ただ国際基準を満たすだけでは不誠実で、十分な教育資金が「フェア」であると考えます。そこで村民たちと話し合って、半減したコーヒーの収穫量が元通りになれば、完成したばかりのルカニ中学に子どもを二人通わせられる価格水準を見出しました。それが一七一セントです。

 教育資金を得られることがわかり、ルカニ村民のコーヒー生産意欲は急速に回復しております。まず農協が、コーヒーや日陰樹の苗木を普及させるプロジェクトを開始しました。出稼ぎに出た若者も、少しずつですが村に戻りはじめております。トウモロコシへの転作や過剰な林木販売も止まって、数十年後には森林も再生するかもしれない。そう思えるところまで復旧してきた、それがルカニ村の現状です。


建設が中止されていた図書館と中学校の完成

   フェアトレードコーヒーの「新しい品質」

 コーヒーの従来からの品質は味と香りですが、フェアトレードコーヒーの場合は、それに「生産者支援できる」品質が上乗せされる。ルカニ村の場合は、上記のように、中学を完成させることができる、教育資金を提供することができる、森林を守ることができるなどの、「新しい品質」が上乗せされる。

 同じく上記のように、高い生産者価格で産地や生産者を支援するフェアトレードコーヒーは、どうしても小売価格、消費者価格が高くなってしまう。その高い部分はまさに、「生産者支援できる」という、新しい上乗せされる品質に対する代金なのです。

 それゆえフェアトレード商品にとって、この「新しい品質」の表示、すなわち産地や生産者にどういう支援ができるのかを、パッケージなどで消費者に具体的に説明することが重要だと考えます。


新品種コーヒー苗木の普及

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