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市民・地域主導による再生可能エネルギー普及 (3)

滋賀の生協 No.160(2012.11.16)
2012国際協同組合年記念企画
市民・地域主導による再生可能エネルギー普及
―安全で持続可能な社会に向けてー

2012年7月31日 滋賀県農業教育情報センター大ホール
主催 2012国際協同組合年(IYC)滋賀実行委員会

講師 和田 武氏(日本環境学会会長)
日本環境学会会長。元立命館大学教授、工学博士。専門は環境保全論、資源エネルギー論。主な著書に『脱原発、再生可能エネルギー中心の社会へ』『環境と平和』(以上あけび書房)、『飛躍するドイツ再生可能エネルギー』(世界思想社)など。

日本でも市民・地域主導の普及により安全で持続可能な社会を

   再生可能エネルギー中心社会へ

 日本でも市民参加で再生可能エネルギー中心社会を実現することは十分に可能です。
 適切な普及政策を採用し、国民総貯蓄額千五百兆円も活用されれば飛躍的に普及が進みます。買取り制度のもとで、定期預金よりはるかに高い利益が得られるはずです。

   市民共同発電所づくりの広がり

 今までの貧しい再生可能エネルギー政策の中でも、普及の担い手は市民でした。二〇〇四年まで、太陽光発電の普及率は世界でトップでした。その八割は住宅用で市民が支えてきたのです。しかも損を承知で導入したのです。二〇〇九年に余剰電力の買取り制度が始まってやっとトントン。そういう日本の市民の行動が、日本の太陽光発電の普及を担ってきたのです。

 市民の行動で面白いのは、「市民共同発電所」です。二〇〇七年に筆者らが調査した結果、設置団体が全国に七一団体。三万人、二〇億円以上のお金が動いている。全国で一八五基ありました。今ではおそらく約三百基の市民共同発電所があるでしょう。

 一九九七年に、私たちは六人で呼び掛けて、湖南市石部の「なんてん共働作業所」に市民共同発電所を作りました。私たちは市民共同発電所作りが広がるとは思っていませんでした。損をするからです。このころ補助金も出ませんでした。

 滋賀県庁で「損をするけれども参加しませんか」という記者会見をすると、十一人が参加してくれて、発起人と十七人で二十万円ずつ出資して、四キロワットの発電所を作りました。この発電電力を、作業所の溝口所長が電気料金並みに買い取ってくれて、それを分けています。年間五千円以上もらったことがありません。出資金額に達するには四〇年以上かかります。

 日本の政策の貧困を示すために損を承知で始めたのですが、もうこの年に別のグループが新旭に市民共同発電所を作ります。そして、続々と全国に広がっていったのです。

 東大阪の「新エネルギー市民の会」の発電所は、府が補助金を出してくれたので、十万円出資した人に十万円返しています。ただし、三千円単位の寄付には返せていません。

 野洲では地域通貨「すまいる」を活用して市民共同発電所作りのシステムを作りました。一万円で一万一千円分の地域通貨を発行し、野洲市内の様々な店舗で五パーセントから十パーセントは地域通貨を使えます。それで集まったお金で発電所が作られています。

 京都の主婦の団体「京都グリーンファンド」はもう十五基も作っています。「節電した分をみんなで寄付しましょう」と言って、十五基全部寄付金で作っています。

 朝日新聞が、青森県のグリーンシティの市民風車とドイツの風車の比較調査をしています。発電量は風力資源の豊かな日本の方が多い。ところが年間の売電額はドイツが日本の一・五倍。これが日本とドイツの制度の違いです。

 ただ、自治体のなかには、積極的な普及政策をとってきた結果、「再生可能エネルギー百三十パーセント」の自治体もあります。高知県梼原町はまず町のお金で風力発電所を作って、その売電収入年間四百万円を環境基金として太陽光発電や森林の整備に回しています。バイオマス利用も進んでいます。

   再生可能エネルギー特措法

 二〇一一年八月、日本でもやっと「買取り制度」の法案が国会を通りました。(図2)

 買取り価格や買取り期間が決まるまでに紆余曲折がありましたが、私も参加した「調達価格等算定委員会」で、二か月間に七回もの会議もやって決めたのが「再生可能エネルギー電力買取制度の買取価格・期間」です。(表3)

 太陽光発電の場合、十キロワット以上なら税込四十二円で二十年間買い取られます。住宅用太陽光発電の場合は、同じ四十二円で十年間買い取られますが、設置補助金は依然として残りますので、買取り価格は約四十八円に匹敵します。買取期間終了後も、活用できることを考えれば、まず損しません。ドイツやデンマークのように、市民を含めてみんなが取り組めます。

 バイオマスで畜産のし尿を使った時の買い取りは非常に高くなっています。間伐材を使った国産の木材の場合には、外材よりも高くしています。

 ただ、問題点もいくつかあります。

 主なものとして、一つは電力会社が買い取りを拒否する可能性が残っています。

 系統連系と言って、高圧線が通っていないところで大規模な発電所を作る時、高圧線までつなぐ費用は設備所有者負担です。国が系統連系網を整備する必要があります。

 また、住宅用太陽光発電は買取り対象が余剰電力だけです。

図2:電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する「特別措置法(再生エネルギー特措法)」の概要

表3:再生可能エネルギー電力買取制度の買取価格・期間

   望ましい普及方式

 この買取り制度で、経済的負担なしに広範な主体の取り組みが可能になりました。

 最近テレビや新聞で、盛んに「電気料金が上がるでしょう」と言っています。確かに負担は電気料金に掛けられます。ドイツでも電気料金は上がってきましたが、買取り制度の負担は上昇分の約一五パーセントで、残りは燃料の値上がりと増税の結果です。

 「国民は負担するだけで、企業を儲けさせるのではないか」と思う人もます。

 ドイツやデンマークでは、国民が負担しているけど、自分たちで発電所を作って自分たちに利益が還元され、そのことで社会に良い影響をもたらしているのです。

 電力会社任せという感覚がそもそも間違いなのです。ただ「原発ゼロ」を言っているだけで、エネルギーについては「誰かやってください」ではあまりにも無責任です。私たちが再生可能エネルギー普及の主体者として責任を果たす。それがこの買取り制度が始まって以降の課題です。

 もう既に、いろいろなところで、いろいろな動きがあります。

 湖南市は、「地域に存在する自然エネルギーは地域固有の資源であり、地域の発展に資するように活用する」という基本理念で、再生可能エネルギーの普及に向かう条例を作り、買取り制度を開始しました。

 秋田には「風の王国秋田」というプロジェクトが立ち上がっています。今まででも秋田は風力発電が全国で五番目ぐらいに多い。しかし、その風力発電の大部分が県外の企業の所有です。そこで、県民と県内企業、金融機関含めて作ったこの株式会社は、県内に売電収入が入るように千基の風力発電所を作り、産業も誘致して活性化を図ろうしています。

 福島では「太陽光発電企業組合」が十五の市町村にできています。避難を強いられる家庭・企業・公共団体が太陽光発電施設を設置し、売電事業で自立しようということです。

 生協も再生可能エネルギー普及に取り組みはじめました。大阪いずみ市民生協やコープさっぽろなどは、メガソーラーの建設計画を進めています。日本生協連も全国各地に太陽光発電所の建設をやろうとしています。いくつかの生協では市民共同発電所づくりも計画されています。

 農協も全国の施設や農家の屋根を活用して二〇万キロワットもの太陽光発電を導入する予定です。

   市民一人ひとりができること

 私たち一人ひとりができることはたくさんあります。(表4)

 今のままだと、原発の代わりに再生可能エネルギーに変わるだけで、仕組みは変わらない。依然として電力会社や大会社が支配し、メガソーラーの地代だけ入って、地域の自立的な発展にはなりません。

 「原発ゼロ」の社会を実現できます。CO2排出の削減ができます。燃料を節約できます。産業発展と雇用が創出できます。エネルギーの自給率が向上できます。そして国際貢献、途上国など世界の再生エネルギー普及に貢献できます。何よりもこの農山漁村地域、疲弊した農山漁村地域を本当に活性化できます。

表4:市民一人一人ができることに取り組もう

未来のことを考えて

 一九九二年に開かれた、国連環境開発会議以来言われてきたThink globally, act locally!「地球規模で物事を考えて、地域で行動しよう」という標語があります。

 これと並んで、これは私の造語です。Think of the future, act now! つまり平面レベルだけではなくて、時間軸のレベルで、「未来のことを考えて、今行動しよう」ということです。

 原子力にしても温暖化にしても、未来世代が必ず被害を受けます。私たちの判断がそれを決めます。ぜひ皆さんと一緒に新しい日本を作っていければと思っております。
参考文献
1) 和田武『飛躍するドイツの再生可能エネルギー』世界思想社 2008年
2) 和田武、木村啓二『拡大する世界の再生可能エネルギー』世界思想社 2011年
3) 和田武「再生可能エネルギー中心の社会は可能だ」『世界』2011年11月号

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