その結果、今WTO農業交渉ではアメリカの「輸出補助金」や「国内補助金」が大きな問題になっています。
「輸出補助金」は農家に補助金が支払われると思われるかもしれませんが、そうではありません。穀物の輸出業者に対して、つまりカーギルやコナグラやADMなどの輸出業者に払われるのです。
例えば米などはその典型です。アメリカ産米の国内価格は国際価格よりずっと割高です。そうすると、高いアメリカ産の米を購入して、安い値段で海外に売るわけですから、輸出業者は当然損をする。そこで、国内価格と国際価格の差額を「輸出補助金」という形で穴埋めするわけです。ですから「輸出補助金」の大半は穀物メジャーに行っている。もっと言えば海外市場を確保するために「ダンピング輸出」を政府は奨励しているわけです。これはEUも同じです。ですから、「輸出補助金」によって「ダンピング輸出」をする経済的余力のあるEU及びアメリカと、そういう経済的ゆとりのない穀物輸出国(ケアンズグループ)という図式ができています。
「ケアンズグループ」とは、米で言えばタイ、ベトナム、小麦であればオーストラリア、カナダ、アルゼンチンといった主要食料輸出大国と呼ばれる国をさします。こういう国々の第一回の会合がオーストラリアのケアンズで開かれたので「ケアンズグループ」と呼んでいます。
この「ケアンズグループ」が、アメリカとEUの「輸出補助金」に対して、同じ輸出国同士なのに強く批判をしている。
「国内補助金」についても、アメリカほど経済的ゆとりのない全ての国が批判をしている。もちろん輸入国も批判をする。こういう構図ができているわけです。
アメリカでは農業法で設定した「目標価格」と「市場価格」との差額を、政府が補填するわけですが、現在は「市場価格」が「目標価格」をはるかに上回っている。
トウモロコシの場合、「目標価格」は一ブラシェル(二十五キロ)当たり二・六三ドル、「市場価格」は現在でも六ドルを超えており、事実上国内補助金を支出する必要がないわけです。
アメリカの直接支払額は、二〇〇五年の二百四十四億ドルをピークにしてどんどん減ってきて、去年は百二十億ドルにまで縮減している。「農業補助金」も「輸出補助金」も、市場価格がうんと跳ね上がっていますから、今年は限りなくゼロに近いわけです。おそらく十億ドル前後にとどまるろ予想されます。
七月のWTO閣僚交渉の直前にアメリカは、「アメリカの農業補助金を百三十四億ドルから百六十億ドルの間にする」と言っていたんです。ところがアメリカの農業交渉のトップは、ジュネーブに着いた途端に「百五十億ドルに減らします」とメディアに発言し、それを売りにして交渉をまとめようとしました。そして七月二五日の「ラミー提案」では「百四十五億ドルに、更に五億ドル落としました」といかにも成果のように言うわけです。
だが、さきにふれたように、実際に支給する「補助金」なんて現実にはほんのわずかでしょう。関係ないんですよ。こんな農業補助金削減目標なんか。アメリカは何の譲歩もしていないんですよ。
つまり、アメリカの現在の農業は保護する必要がないほど好景気だということがポイントなんです。大統領選が終わって、もし仮に農業の調子が悪くなれば、二〇〇八年農業法の枠内でドンドン補助金を支給したら良いと思っているわけです。 |