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二〇〇八年度消費者(政策)学習会 『消費者市民社会の法と政策』

滋賀の生協 No.148 (2009.7.14)
二〇〇八年度消費者(政策)学習会
『消費者市民社会の法と政策』


2009年3月14日(土) ピアザ淡海 三〇五会議室

 二〇〇四年六月に「消費者基本法」ができ、消費者は従来を超える権利を付与され、その権利を自ら行使することできるようになりました。しかし、消費者は適切に自らの権利を行使することができるのか。新しい消費者法と消費者政策が機能するために不可欠なこととはなにか。現実の事例をもとに、消費者市民社会の今を語っていただきました。

<はじめに> 消費者法と政策の目的

ご紹介をいただきました坂東でございます。

 「市場を変え、社会を変えるのは消費者の声」。その通りだと思うのですが、とりわけ今日は、「消費者政策というのは一体何のためにあるのだろうか」というところから少し話をしていきたいと思います。

 消費者法とか、消費者政策がとても大きく動いていると思うのですが、「一体何のためにやっているのだろう」というのが一つポイントになると思います。それは消費者問題を解決して、その結果「安心して安全に生活できる社会を作る」。それは広い意味でいくと「公正な市場を作っていく」ということに他ならないと思うのです。

 具体的に言うと、一つは現にそこで被害を受けている被害者を助けなければいけない。「被害者の救済」というのが消費者政策にとってとても大きな課題だと思います。

 もう一つは、今ある被害を救済する事に加えて、その「被害の拡大防止」をするというのがとても大きな課題でありまして、この二つの課題を、一つの政策を動かしていく中から、同時に解決をしていくというのがとても大きなことなんだと思います。
 つまり、「被害者の救済」「被害の拡大防止」ということが、消費者法の、あるいは消費者政策の、あるいは消費者行政のとても大きな役割であり、目標であるということなのです。

 そのために私たちは、この間とても大きくハンドルをきりました。典型的に言いますと二〇〇四年六月に、「消費者基本法」という法律ができて、それまでは「消費者保護基本法」だったものを、タイトルを変えたわけであります。

 そこで言われたのは、「消費者は権利を自ら行使をして、自立をしていくんだ。消費者行政というのはそれを尊重して、自立を促進していくんだ」ということです。「基本法」というのは、その領域の政策の基本的な考え方を書いた法律ですから、そこが大きく考え方、哲学を変えたという意味では、とても大きな変化だったと思います。

 「消費者基本法」は、初めて「二つの土台となる権利」と「六つの具体的な権利」を条文の中に書いています。「消費者にはこれだけの権利があるんですよ」「それを消費者行政や消費者政策は尊重をし、消費者の自立を促していく」「それが消費者政策のとても大きな役目なんですよ」ということを、消費者基本法の中で謳ったわけでした。

 逆に言いますと、消費者はこれらの権利を「自立して行使する」ことが期待されているわけです。期待されているわけですが、実際に行使することは言うほど簡単ではないのかもしれません。
 と申しますのも、アダムスミス以来、「市場」には「三つの主体」があると言われています。「企業」と「消費者」と「行政」という「三つの主体」が「市場」を公正にするためにそれぞれ役割を担っているんだというのが、基本的な考え方でした。

 従来は、その主役は「行政」だったんですね。「行政」が、放っておいたら利益の追求のあまり、少し踏み外しをしてしまいかねない「事業者」をコントロールする。具体的に言えば「業法」など様々な法律や、「行政法ルール」に基づいて規制や監督をする。「監督官庁」による規制を受けることによって、「事業者」はあまりにもひどいことはできない。結果、その「反射的」と法律用語で言いますが、所謂「棚から牡丹餅」という利益が消費者に発生するというのが従来の法律の役割であり、政策の基本的な発想であったわけですね。

 それが、どうもそれだけじゃダメなんじゃないか。世の中複雑になりました。商品もいっぱいあります。その商品だって様々な流通経路を通って出てきているわけです。そうすると、どうも行政が上から目を光らせているだけでは、全てのことがわからない。「現場からの声」というのが出てこないと、結果的にはチェックが機能しない。

 そのために、個々の消費者に対して、法によって従来を超える権利を付与した上で、消費者がそれを自ら行使することで、つまりは自分の被害を法的に訴えることで、結果的に他の人の被害にも及ぼさないような影響を与えるということを期待する。

 具体的に言うと「民事法」と言われる部分。つまり私企業と私人である消費者の間で、法律を介して様々なやり取りを通して、権利を主張する。その結果、市場の公正さの実現に消費者が役割を果たしていくということで、ある意味では消費主権の基本的な形がイメージとしては語られるようになったわけです。
 ただ、問題は、本当にそんな仕掛けが機能するかどうかという話ですよね。

消費者市民社会の今

少し、具体的に「何が問題になっているのか」の再確認をしたいと思います。


(一)食の安全・表示と消費者


 三つのテーマに分けてチェックしていきたいと思います。

 一つは「食の安全、あるいは食の表示と消費者の問題」です。

 「日経新聞」が二〇〇八年十月六日に、消費者にアンケートをとっています。

 「消費者は食の安全にどう関与できますか」という設問に、「自衛しようにも限界がある」と言っているわけです。「表示を信頼して、その表示で嘘をつかれたら防げない」流通段階での不正は消費者からは見えないわけですから、その不正までは見抜けない。

 「実際にはどんな対応をしているのですか」という設問には、当時は中国産の餃子の問題等があって、「中国産は買わないようにしている」が五一パーセント、「国産の購入比率を増やした」が三七パーセント、「原産地表示を必ずチェックする」が三三パーセント。これらはどれをとっても消費者の対策としては正当だし真面目な話だと思うんですね。
 でも言われてみたら、その前提となる表示のところで偽装がされていたら、この対策は何の意味も持たないわけですから、従って「自衛には限界がある」という意見を消費者が持つということも尤もなことであります。

 ですから、消費者のところに「表示が信頼できる」情報がまず入らなければいけない。逆に言うと「その表示は間違っているよ」という情報が消費者に流れなければ、いくら「原産地表示をチェックしましょう」と声を上げたところで、「結局自衛に限界があるのだから仕方ないじゃないの」という話になりかねない。

 で、少し思い返してみると、この間いろいろありましたよね。平成二〇年度上半期のデータでありますが、偽装を理由とする検挙件数が全国で九件だそうです。その一年前は四件だったことを見ますと、それなりに増えている。

 結局今考えてみると「なぜ私たちが偽装を知る事ができたか」というと、「現場」からの情報が出てきたからですよね。食品を加工しているところで働いていた人、そこに関わっていた人から、「公益通報」「内部告発」といった形で情報が流れてきた。

 その背景に、「公益通報者保護法」が、二〇〇六年四月一日に施行されて、「内部告発者の保護をはかる」という法的な枠組みが、不十分ではあるけれどもできたことが大きな影響を与えていると思います。「公益通報者保護法は、内部告発をした労働者の方を保護する法律ですから、一昔前でいくと厚生労働省の管轄だったと思うんですが、実際には内閣府国民生活局が管轄をしているわけです。そのことも「私たちの社会の大きな変化なのかなぁ」という気が、私はしています。


(二)製品の安全と事故情報の一元管理

 二つ目の「製品安全と消費生活用製品安全法」の話をしたいと思います。

 シュレッダーの事故はまだ記憶にあたらしいのではないでしょうか。

 これも「内閣府国民生活局」ですが、例の「個人情報保護法」の施行によって、従来であればシュレッダーなんてそれなりの規模の事業者に置かれていた機械だと思うのですが、しかし、個人営業の事業者であっても、「個人情報の管理をきちんとしなければいけない」といった背景もあって、「家庭用シュレッダー」が普通に使われるようになったわけです。

 そんな背景もあって、二〇〇六年三月一〇日に、二歳九ヶ月の女の子が、シュレッダーの中に指を入れて、九本の指を切断してしまうという、大変悲惨な事故が起こりました。

 こんな悲惨な事故があったわけですから、いろんな安全装置に関する対応がとれたはずなんですが、この事故の情報が共有されなかった。従って七月一五日にも、二歳四ヶ月の幼児が指を二本切断するという、同じような事故がおこるわけです。

 どうして、対応することができなかったのかというと、家庭用シュレッダーを作っている会社は、従来のシュレッダーを作っている会社に加えて、文房具メーカーも関与して作っていた。その結果、家庭用シュレッダーの事故については、当時の「消費生活用製品安全法」にもとづく、経済産業省に対する報告義務がなかった。結果、経済産業省がこの事故を認識したのは八月二三日、事故の公表の少し前ということらしいです。残念ですが、「その情報が上がってこなかったから、対策のとりようがなかった」という話なんですね。

 で、経済産業省は、一〇月二〇日に検査報告があり、二三日にこの事故があった二業者による社告もなされて対応がなされるようになります。

 法律制度としても、二〇〇六年一二月六日に改正「消費生活用製品安全法」が公布されて、二〇〇七年五月一四日から、「全ての重大事故については、経済産業省に、報告を受けたメーカーは一〇日間のうちに伝えなければいけない」「原因調査が終わってなくても伝えなければいけない」といった法律改正が成される事になるわけです。

 ところがです。「介護用ベッド」での死亡事故が二〇〇七年五月一〇日に起こりました。五月一四日から「報告義務」がありますから、その四日前です。法律上の報告義務はないにしても、死亡事故が起こっているんですよね。「介護用ベッドの一部に、手すりに着衣の一部が引っかかって、それで亡くなる」という事故でした。

 さらに、二〇〇七年一二月二五日には、愛知の自宅で男性六三歳の方が柵と手すりの間に首を挟んでなくなっている。

 「え、おかしいじゃないの。二〇〇七年五月一四日に、重大事故については報告義務があるでしょう。それもとづいて対策がとれるはずじゃないか」。その通りなんですが、実はこれらの事故のベッドというのは、ほとんどがレンタルでした。レンタルであった結果、レンタル業者にまでは情報が上がっていた。いくつかのものはメーカーにどうも行っていたみたいなんですが、しかし、その全てが経済産業省のところにキチンと情報としてつながらなかった。先ほど「消費生活用製品安全法の報告義務はメーカーにある」と言いました。レンタル業者にはないんです。その結果この事故の連続を防げなかった。

 「事故があったときの情報を、どうキチンと政策に繋いでいくか」というのが、すごく重要だということをご理解いただけるでしょうか。

 「権利を主張すれば市場が構成になる」。確かに理屈はどうもきれいにできているようなのですが、現実にそれが機能するためにつながっていなければならないはずの線がいろんなところで切れているみたいです。


(三)契約被害の現実と被害の深刻さ

 契約についても同じことが言えると思います。

 パイオネットによると、全国の消費生活相談の件数は、二〇〇四年度の苦情約百九十万件ということですが、二〇〇七年度には、「振込め詐欺」関係が若干減ったので百四万件という数字になっています。まあしかし、各地の消費生活センターに寄せられる苦情の割合は全体の三~五パーセントだということを考えますと、実際の苦情はこの20倍ぐらいはありうるということになります。そうしますと、全国で実際には二千万件を超える「契約被害」があるということになります。五人に一人ぐらいは一年に一回契約に関わる悪質商法にひっかかっているという話になります。

 それを少し具体的な数字で見てみます。警察庁が「平成二〇年度上半期における、主な生活経済事犯の検挙状況について」をホームページで公開しています。

 「特定商取引法」という法律があります。「クーリングオフ」などが規定されているとともに、訪問販売等6種類の特殊販売が規制がされている法律ですが、その中に、「違法業者を検挙することができる根拠」となる規定があります。それにもとづいて警察が「違法業者を検挙した」そのデータです。

 二〇〇七年度には「検挙事件数百十二」「検挙人数二百九十九人」。悪質な事業者はたくさんありますから、その中で検挙される事業者に限っての話です。検挙法人三十四法人、推定される被害者の数が約七万五千人。すごいと思いますね。もしその人たちが全部お金を払っていたらという、推定される被害額は百九十六億一千二百万円。ですから「消費者問題」は、個々の被害は小さいかもしれませんが、集めると大変な額になります。

 平成二〇年度の「国民生活白書」が「二〇〇六年度に、消費者被害による経済的損失が一年間でどれくらいあったか」推計しています。その推計額は三兆四千億円。「定額給付金で二兆円」という話がありますが、その倍ぐらいのお金が、消費者被害として「無駄に使われている」。これはもう、個人の被害というだけでなくて、「経済の仕組み」とか「社会のあり方」とか「安心」とか、それに関わるぐらいのとても大きな数字なんだということを是非ご理解いただけるとありがたいのです。そういうところまで私たちの社会は来てしまっているというのが現実なのです。

 ですから、個々の消費者が被害を受けたときに「申し出る」ということがいかに大切か。あるいは消費者被害そのものを差し止めるということがいかに大切かということだと思います。

国の消費者法と消費者政策を めぐる新しい動き

(一)「消費者庁」の設置をめぐる動き

 したがって、国の方でも最近いろんなことを考えていて、「消費者庁」というのがやっと審議入りをした。民主党の方は「権利院」という、また違った提案もされている。消費者の視点から行政が機能することはとても良いことだと思います。

 ただですね、「国にできる消費者庁は、仮に庁であったならば定員は二百八人」だそうです。二百八人という数字はどんな数字かというと、公正取引員会の半分ぐらいですかね。しかも、経済産業省などは三千人、四千人という職員数ですから、二十分の一とかそういう世界です。「それで何ができるんだ」というご意見が出てくるのもよくわかります。

 よくわかりますが、だから逆に言うと、地方の消費者行政が重要なんです。そこからキチンと情報が上がらなかったら、国で、消費者庁がいろんな対応をしたとしても、まともに他の省庁と議論できるはずもない。「消費者庁は消費者行政の司令塔として、他の省庁を指揮命令する」と書いてあるんですよね。指揮命令しようにも情報がなくて二百対四千で喧嘩して、そりゃあなかなか普通勝てません。

 でも、地方からキチンと消費者の具体的な情報が上がっていけば、具体的情報ってホント大切で、ひょっとしたら二百人でも機能するかもしれない。だから今、「地方の消費者行政って絶対充実が必要なんですね」という議論がなされている。この仕組みを機能させるためにも今、地方行政の充実が問われている。

 情報の線をとにかく結ぶ。切らない。「消費者がいて、消費生活センターにつなぐ」これがキーワードですね。「誰もがアクセスしやすい一元的な相談窓口」。つまり「そこに情報を上げたら情報がつながりますよ」という仕組みをどうつくるか。それが私たちに今求められている、とても大きなポイントになっているのかなと思っているところです。

 問題は従って典型的に言うと、個々の消費者が自らに起こった被害をキチンと消費生活センター、あるいは「適格消費者団体」など、さまざまな場所にキチンと繋いでいくということがなければ、結果的にその情報は消費者庁にも流れないし、差止請求にも使えないし、いろんなものが機能しない。キーワードは「個々の消費者からの具体的な声だ」ってことはご理解いただけるでしょうか。


(二)消費者基本法の考える消費者の権利

 今私は「消費者法」という法律の教師をしていますが、しかし私ですら、いろんな改正がドンドンあって「今法律どうなっていたかな」というのを勉強するのだけでも大変なくらい、消費者をめぐる法律はものすごい勢いで動いています。
 その動いている中身は、「消費者基本法の具体化」です。消費者にいろんな権利、いろんな主張ができるツールを与えて、「それを使って自らちゃんと権利主張してください」という、メッセージを投げかけてきています。

消費者は適切に自らの権利を行使することができるのか

「でもね」っていうのが次のところです。本当に私たちは、権利をもらったら「それをキチンと使えるのか」という話です。
 たとえば変な話ですが、自分がミカン買ったら中が変な色になっていた。そういう時にどうやってそれをちゃんと事業者の方に「変なやつだ」と思われないようにしてキチンと伝えるかということはですね、これはなかなか難しいことです。だって私たち一度も「権利主張どうやったら良いか。そういう時に何を持っていったら良いのか」学校で習ってないですもん。私たちそういう経験がないものですから、権利を主張するということは、実は言うほど簡単ではありません。

豊田商事事件から学ぶ

それで思い出すのは「豊田商事事件」です。

 そもそもさっき言った、「消費者保護基本法から消費者基本法」へという流れ、つまり「消費者が自立して、自ら権利を行使するんだ」というきっかけになった事件がこれです。

 一九八五年ですが、この年の国民生活白書に初めて「自立する消費者」という言葉が使われています。当時私なんかも「そんな無茶苦茶言うな」って怒っていたわけですが、発想の転換をして物事を変えていくのに二十年ぐらい掛かっているわけです。そのきっかけとなった事件が「豊田商事事件」でありました。

 「金のペーパー商法」です。最初は「お世話をしますよ」なんて言ってセールスマンの人がやってきて、人間関係ができた頃に「今私たちの社会というのは低金利で大変ですね」みたいな話が出てきて「金の投資が便利ですよ」「金というのは株と違って紙切れにはなりません」という話で金を売るわけです。

 ところが豊田商事のセールスマンは「金買って来るね」と言って、全ての預金を持って帰る。それで、本当に金を持ってきてくれるかなと思ったら、「おじいちゃんの全財産で、豊田商事で金を買った。でもね、その金をおじいちゃんの自宅に置いていたら危なくて仕方ないでしょう」「豊田商事がその金を預かってあげるんですよ。預かった上で運用利益まであげますよ」と言うわけでしょう。で、預かったことを証明するために「金の預り証」という紙を渡すわけですね。結局、金はなかったんですけどね、豊田商事には。何の根拠もない「金の預り証」という紙一枚に大切な全財産がいつのまにか変わるわけです。

 悪質商法の怖いところは、それぞれの場面ではなんとなく一応理屈が通っているんです。消費者支援機構関西が差し止めの請求をした「トリニティー」も一緒でしてね、確かに二十歳越えた子に「今ここであなたが決断しなければ」と言われてみると、「そろそろ自立かな」なんて思っている者には結構プレッシャー掛かったりするんです。で、結局豊田商事は二千億円を集めました。豊田商事の「問題商法」は、国会でも取り上げられていたけれども、基本的には現物まがい商法に関する法律がなかったために、行政による救済だけで問題の解決に至らなかった。

 そこで、「破産による配当」という手段がとられたのです。豊田商事を強制的に倒産させて資産を集めて、集めた資産の中から被害者にお金を返すという方法ですね。
 「破産」という手段は裁判所の手続きです。行政の手続きではありません。裁判所の手続きである以上、その破産でもってお金をもらうためには、自らのその権利を破産債権として届け出なければいけません。「届け出る」というのは権利主張そのものです。届け出るという行為をしなければ配当を受けることができなかったわけです。

 豊田商事の被害者救済というのは、大阪弁護士会の先生方が総力を上げて資産を集めて、それでも配当十五パーセントいかなかったんですけれども、そういう努力をされて「どうぞ権利行使してください」との準備をしたわけです。しかし、被害者の方の中には「だまされた私が悪いから」とか、「やっぱり誰かにばれるのがとても困るから」とか、いろんな理由で権利行使されなかった方が一定割合いました。

 「どうしたら消費者は適切にキチンと権利行使をできるんだろう」ということを、今から本当に考えないと、新しい仕組みの線がそこで切れてしまう。私はそれがとっても心配です。

新しい消費者法と消費者政策が機能するために不可欠なこと

 消費者の苦情や相談を政策に繋いでいくということが絶対に必要です。その時に、消費生活センターが窓口になるわけですから、消費生活センターに消費者の声を繋げなければいけません。あるいは国民生活センターに繋ぐことも必要かもしれません。都道府県や市町村の消費者行政機関に、その声を繋いでいくということがどうしても必要になります。「だから消費者がんばれ」というのは易しいのですが、そこにやっぱり仕組みをもっともっと私たちは考えていかなければいけない。

 端的に言うと地域社会、これにはNPOも入ります。あるいは、消費者団体がそういった事について、いろんな知恵を絞りながら「個々の消費者がきちんとした権利行使をやられるためにはどんなことを準備したら良いんだろう」ということを議論していくということがとても大切なんじゃないかなと思います。

 「消費者安全法案」という法律が提案をされていて、その法律の中には、「地方公共団体による消費生活センターの設置等の検討」だとか、あるいは「事故情報をキチンと集約するである」とか、「被害の防止のために内閣総理大臣がいろんな対応をする」とか、そういうことが書かれているわけですが、とりわけ「安全法」の一つの大きなポイントとして、「消費生活相談や苦情斡旋、あるいは安全情報の事務について地方公共団体が一定の役割を果たす」「消費生活センターを地方公共団体ができるだけちゃんとつくって、職員の方々の処遇をキチンとやりましょう」というのが法律の前提条件の枠組みとして議論がされているわけです。ここをどうやっていくかというのも大切な話なんだと思います。

 先ほど来でている、「基金は人件費に使えない」とか、いろんな問題がありますが、何とかそこも知恵を絞って「消費者基金」というものも活かしながら、この仕組みを少しずつでも、なんとか機能させていけたら良いなあと、個人的には思っています。

 消費生活センターに繋ぐという話がありました。もう一つ大切なのは、消費者の声を事業者に繋ぐということも必要です。事業者の皆さんにも、その努力をしていただかなければいけないと思います。

 昨日、ある広告の団体でお話をさせていただく機会をいただきましたが、広告会社は実は消費者と直接は繋がっていません。お客様というのは広告主である企業です。ですから、広告を作る会社というのは、お客様と消費者が違うわけですよね。しかし、その時に「お客様だけ見ないでください」とお願いをしました。「消費者がわかるという視点からお客様である企業を逆に説得するぐらいの対応をしていかないと、これからの広告って信用されませんよ。それでなくてもインターネットで、口コミ情報でいろんなことを考えているんですから。消費者というのは、そういう広い意味でいろんな評価をしてきますよ」なんて話をさせていただきました。

 逆に言うと、消費者と事業者の間で直接の対話をするというのはとても大切だと思います。しかし、それだけではいろんな多様なチャンネルが機能しないということがあります。その時にぜひ消費者支援機構関西など適格消費者団体などを使っていただけたらありがたいなあと思うわけです。

 消費者が適格消費者団体に情報提供していただきますと、私たちは国民生活センターや、消費生活センターなどからの情報やご示唆をいただきながら、事業者の方と交渉や話し合いをすることができます。先ほど来、「団体訴訟」という話が出ていましたが、訴訟だけではなくて、様々な交渉を通して具体的な契約条項の変更だとか、そういった成果を私どもはたくさんあげています。そういうところを、ホームページなどに記載してありますので見ていただけたらありがたいですし、場合によっては、最終的に「団体訴訟」という形で事業者に対峙をして、問題を具体的に解決していくという仕組みも機能させていかなければいけないと思います。

 まあ、変な話ですが、「消費者契約法」、「景品表示法」、「特定商取引法」という法律の中で、充分ではないかもしれないけれども、線が繋がっています。先ほどの製品の安全の話も、団体訴権の話も、あるいは契約被害の話もそうだと思います。要は政策に繋いだり、具体的な解決に繋ぐまで線を切らさないということです。それぞれの場にいる方がその線を繋ぐという努力をこれから具体的にしていかなければいけない。消費者の方の線については、ひょっとしたら「あなたの権利であるから、あなたが行使したら」と言うことだけではなくて、その消費者の方々が権利行使できるような仕組みを地域社会とか、あるいはNPOだとか、専門家団体だとか、いろんな「消費者力」の講座を作って、そういう方が地域に居られるかどうかということも、とても大切な話になっていくのかなあと思います。

消費者問題と消費者法の今後の流れ

 改めて消費者問題と消費者法について考えてみますと、これからもおそらく法律の流れは、被害救済のために新たな法律的な権利というものを具体的に議論していくということが続いていくだろうと思います。「特定商取引法」や「消費生活用製品安全法」もまだまだ改正の余地が有ります。そういう中で消費者には法律上の主張ができる権利がいろいろ出てきます。しかし、問題はそれを適切に権利行使することができなかったならば、結局それは「絵に描いた餅」になってしまうということです。

 一方で事業者の方々にも、例えば「消費者基本法」の中で「消費者からの苦情を解決していく」という法律上の責任が課せられていますので、そのことを認識していただいて、「消費者との対話が結果的には事業者のいわば営業をキチンと評価される形でやっていく土台になるよ」ということも理解をしていただいた上で、この新しい仕組みを機能させていかなければいけないなというふうに思います。

 しかし、よくよく考えてみたら、結局自らの被害を訴えるということは大変なことです。まず自分で「これが被害なんだ」ということを認識していただくことが必要です。その上で、その被害の認識を適切に行使するための努力をしていただくことが必要です。

 そのためには、消費生活センター、行政、地域社会、消費者団体、専門家など、いろんな主体が考えられると思うのですが、それらの方々が情報交流をしながら、キチンと被害者である消費者を支援するとともに、可能であればこれからは、その発生した問題を解決するところまで、その被害救済の後にも、その議論をつなげていくという努力を、私たちはしていかなければいけないんだというふうに思います。

 そのためのキーワードが、やっぱり「消費者からの情報」です。「消費者からの声」です。消費者からの声が上がってくることが結果的に、この新しい仕組みを機能させる事に繋がるのだと、私は思っています。

 消費者問題というのは今動いている問題です。法律もドンドン動いています。しかし、結局は「消費者がそこにどう参加できるかというところがキーワードですよ」というお話をさせていただいて、私の話を終わりにします。どうもご清聴ありがとうございました。