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TPPについての協同組合セミナー

滋賀の生協 No.175(2016.10.28)
TPPについての協同組合セミナー
TPP協定のこれからと産消提携
〜TPPが暮らしに及ぼす影響を予測する〜

2016年8月10日(水) コラボしが21

主催 IYC記念滋賀県協同組合協議会

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混迷を深めるTPP協定の実像と現局面、そして「30年問題」と保護政策のゆくえ。その時産消提携はどうあるべきか。IYC記念滋賀県協同組合協議会の小池恒男会長と、全大阪消費者団体連絡会飯田秀男事務局長にご講演をいただきました。

20161028koike.png TPP協定のこれからと産消提携
— 協同組合と保護政策のゆくえ —


IYC記念滋賀県協同組合協議会
 会長 小池 恒男氏

 TPP協定の実像と現局面

TPP協定の実像

 参議院選挙前の短い国会の中で明らかになったことは、一つは、「重要五項目については交渉から除外する」とした二〇一三年の国会決議が、実は「例外は一切認めない」という「除外禁止文書」があることを隠したままの虚構だったということです。
 もう一つ、「七年後に再協議」ということですが、「再協議での後戻りは認めない」という協定ですから、結局「関税ゼロ」まで進まざるを得ない「エンドレス協定」ということです。
 三つ目は、TPPが多国籍企業による、多国籍企業のための協定である限り、日本もまた発展途上国に対しては、加害者の立場に立つということです。日本のコンビニやスーパーがアジアの国々に進出し、商店街をシャッター通りにしてしまうことも危惧されています。
 もう一つ不気味なことは、「承認手続きと実施計画」というものがすでに合意されているのではないかということです。そうであれば、ヒラリーさんもトランプさんも「再交渉が必要だ」なんて言いたい放題言っているけど、再交渉しなくても協定の中身は、事務的に改ざんすることができるということです。
 しかし、そういうことは秘密交渉のルールのもとで明らかになっていません。

現局面をどう見るか

 一言で言えば、「見えない」。なぜ見えないか。一つは現大統領のオバマさんの思惑がある。十一月の大統領本選から任期である来年一月までのレームダック期間に議会を通してしまうという可能性があるということが報道されています。
 それからアメリカの議会の行方です。今度の大統領選挙の中で、「簡単にTPPに賛成するわけにはいかないぞ」という雰囲気が広がっていることも事実です。
 ヒラリーさんは、陣営のスポークスマンも一応「選挙前も選挙後も反対だ」と言いきってはいます。しかし、大統領に立候補するにあたって、民主党大会で承認された「政策綱領」の中に「TPP協定反対」は明記されていません。
 共和党の「政策綱領」は、「通商協定が労働者に不利になるものに対して反対する」という文言は入っていますが、TPPという固有名詞は明記されていません。
 ヒラリーさんはウォール街とも繋がり、金銭的にも多国籍企業と深く関わっています。
 トランプさんは、ウォール街と繋がりを持っていない。本人の受諾演説では明確に「労働者を傷つけ、自由と独立を傷つける、いかなる通商協定にも署名しない」と言っている。
 その上に、もともと「秘密交渉ルール」で「四年後じゃないと交渉内容は公開しない」と言っているわけですから、わからなくて当然です。各国民に知れたら「なるものもならない」という、いかに内容が怪しげなものであるかを表明しているようなものですね。
 トランプさん、ヒラリーさん、オバマさん、アメリカ議会の思惑、それから「秘密交渉ルール」という中で、「見えない」ということです。
 一方、日本はどうかというと、専ら推進する役割を果たそうとしているわけです。
 しかし、不思議なことにTPPの本部事務所はどこにも存在しない。だから、問い合わせようにも問い合わせようがない。そういう無責任体制で事は進んでいます。
 しょうがないから各国の対策本部に問い合わせましょうとなっても、日本では、それを担当した甘利さんは失脚しておられない。また、交渉の最前線に立った鶴岡公二首席交渉官はイギリス大使館に転出して、すでに担当部署にはいない。代わった石原伸晃さんと山本有二さんでは、「頼りないこの二人で本当にやる気があるのか」と思わざるを得ません。

参議院選挙と世論調査

 この度の参議院選挙結果は、秋田を除く東北五県、そして北海道は三議席のうち二議席が民進党。長野県、山梨県、新潟県の、甲信越の一人区では全て野党統一候補が当選。やはり北海道、東北、甲信越は、「三〇年問題」「TPP問題」が大きく響いた結果だろうと思われます。
 もう一つ、日本農業新聞のアンケートを見ると、「TPP協定合意を評価するか」という設問に約六〇%が「評価しない」と言っている。
 ところが、次の「交渉参加国とTPPを締結するには国会の承認が必要です。どう考えますか」という設問には、「十分な国内対策を確保すれば、承認はやむを得ない」という回答が、これまた五〇%になってしまうわけですね。
 農水省の試算をみても「国内対策があっても生産額は縮小する」となっている。「十分な国内対策」なんてありえないわけです。なのに、あたかも万全な国内対策があるかのような設問にすると、「十分な国内対策があれば良いかもしれない」と思ってしまうという農業者、国民の脇の甘さが気になるところです。

世界の貿易ナゾの停滞

 政府は、TPP協定を成長戦略の要と位置付けている。「なぜTPP協定を推進するか」と言うと「貿易を伸ばすためだ」と言ってきたわけです。
 しかし、FTA(TPP含む)という通商協定が世界中に広がっているのに世界の貿易は停滞を続けているという記事を「日経新聞」が書いています(二〇一六年五月三〇日)。
 「…日銀によると実質国内総生産(GDP)に比べた世界の貿易量は十一年以降下がり続けており、経済が成長すれば貿易も伸びるというこれまでの常識が通じなくなっている。競争力の低下でシェアまで下げている経常黒字の十八兆円のほとんどは配当などの所得収支の黒字。海外に製品を直接売るのではなく、投資を通じて稼ぐ仕組みに変わりつつある」
 錦の御旗がこういう状態なのに「何のために協定の成立を急ぐのか」という点も見ておかなければいけないと思います。

TPPと地方自治

 最近「日本農業新聞」に、元鳥取県知事の片山善博さんが、「TPP離脱の仕組みはあるのか」という所感を書いておられます。
 「…TPP協定には離脱の仕組みはあるのだろうかと改めて大いなる疑問を感じるのです。後々、TPP協定には参加しない方がいいと分かったとき、それこそ『離脱』の仕組みがあるのか。イギリスのEU離脱を他山の石としなければならないのではないか」(日本農業新聞二〇一六年五月三一日)
 協定文には、「協定発効要件に、GDP八五%以上、六か国合意の原則を持ち込む(三〇章)」と明記されています。そうすると、離脱ではなく、日本が離れたらもう解散だという事を意味するのかなと思ったりもするんですよね。ここのところはまだわかりませんけど…
 TPP協定とわれわれの関係は、自分たちの国や地域のことを自分たちで決められない仕組みの下に置かれそうな点で、イギリスとEUの関係とよく似ているのではないか。片山さんはこのことを私たちに警告しているのではないかと思います。
 自治体がモノやサービスを調達する際、地元の事業者を優先してきた政策は、これからも維持できるのか。地産地消や公共事業を発注する際に、地元業者を優遇する仕組みがどうなるのか。自治体のメインバンクには総じて地域の金融機関が指定されているが、アメリカの銀行が「われわれにもやらせてくれ」と言ってきたときにそれをきっぱり断れるのか。
 かつて、四七都道府県知事が、TPPに反対、あるいは慎重な審議、検討を求める理由として、「わが県の農業のため」を挙げました。それに対し片山さんは怒りを込めて「なぜ、地方自治が危ないからと言わないのか」と鋭く指摘なさっていたわけです。
 TPPは、多くの人が自分の問題として受け止めない限り、ひっくり返せるものもひっくり返せないと思うのですね。

 協同組合と保護政策のゆくえ

30年問題と保護政策

 「30年問題」というのは、今までの「六〇キロあたり一万五千円」という直接支払いが、現在「七千五百円」になっている。それを30年にはゼロにする。同時に、今までの仕組みとは違う生産調整をするという政策です。
 直接支払いがなくなったときに、どういう動機で生産調整に協力するのかというのが現場での最大の問題です。だからこそ参議院選で「北海道、東北、甲信越の乱」が起こったわけですけれども、どうもお米が丸裸になる方向に進んでいるわけですね。
 もうすでに、よくわからない会議が動いていて、例えば、「政策評価第三者委員会」というところでは「七千円台の米価」も議論しています。
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 「本当に丸裸で良いのか」とか「農業共済と合体して収入保険制度を新たに設定します」とか意見も多数出てきていますが、なかなか一致が難しい状況にあります。
 「何もいらない。丸裸でいい」と言っているのは「産業競争力会議」と「規制改革会議」です。官邸もそういう方向で動いています。ただ自民党の「農林部会」は、「われわれは生産調整やらないなんて一回も言ったことはない」とおっしゃっています。そして「それに備蓄制度もやりますよ」これが自民党農林部会の考え方です。だけど、自民党の農林部会というのは、いつも最終的には官邸の言いなりになるということが続いています。
 民進党は、民主党のころ、TPPの導入のきっかけを作った。現在は「当初のTPPは良いけれど、今自民党が推進しようとしているTPPには反対」という政策を掲げています。
 「ポリシー・ミックス」はすべての選択肢を等しく採用することを意味していません。国際協定(ドーハ・ラウンド)をにらみ、自国の財政力をにらみ、気象条件に左右される需給動向をにらみ、最適解を見出し、理想のポリシー・ミックスで対応していく。そのためのリアルなリサーチと賢明な政策立案が求められます。

保護政策と国民合意

 しかし、一番肝心なのは、そういう保護政策、政策選択を支えてくれる国民的合意です。
 フランスやアメリカの「国民的合意形成」はどのようになされているのか。
 フランスの場合、「第一グループ」と呼ばれる、肉牛、穀物を代表とする大規模栽培作物で計算しますと、税引前経常利益と同額以上の公的助成金が支払われています。公的助成金がなければ五二%の経営が赤字になります。
 アメリカの場合は、円換算で米価が四千円。さらにローンレート(※農産物を担保とする融資単価。市場価格が融資単価を下回ると返済不要)という制度によって一万二千円。合わせて一万六千円の生産者米価を手にします。
 こういう保護政策は、各国民のどのような合意なんだろうかということですが、フランスの場合は「農業は国民を養う産業」という、長年にわたって築かれてきた強い国民意識に支えられています。
 アメリカの場合は、国家戦略に位置付けられた食糧輸出戦略によって支えられています。ローンレートというのは「輸出補助金」なんですね。その輸出補助金があるから、輸出することができているわけです。先進国が輸出補助金をつけたら、発展途上国の農業がなりたつわけがない。そういう禁じ手をやっているわけです。
 「七千円台の米価でやりなさい」あるいは「市場の丸裸の価格でやっていきなさい」という日本の政策は、ミサイルに対して竹やりで戦いなさいと言っているようなものです。
 ですから、保護政策がないとイコールフッティング(同等)の条件が整わない。条件が整っていないことを、逆にこちらから言っていく必要があるのではないでしょうか。


オルタナティヴ農業

 それに加えて、ヨーロッパでも台頭してきている「オルタナティヴ農業」を、心して推進していかなければいけないと思います。
 第一に、大規模農家への集約化と産地育成、市場出荷を目指す農業。さらに集落営農や大規模農事組合法人等々の自由で柔軟に対応できる農業支援の体制づくり。
 第二に、直売所等の地産地消の取り組み、自家加工、農家民宿・農家レストラン、自然再生エネルギー、補助金総取り込み等によって立ちいく中小規模農業や兼業農家の農業。
 この両者は、長期的に見れば相互に入れ替わり、かつ支え合う関係にもあると思います。
 第三には、この両者がよって立つ岩盤となる「くらし支える農村」づくり。
 農業サイドにおけるこの三つの方向に向けた誠実な遂行こそが、日本で保護政策の国民合意を形成するための重大な責務だと思います。

 産消提携

岩盤としてある地域

 二月に龍谷大学で「第32回全国産直研究交流集会」が開催されました。
 そこではTPP協定のみならず、グローバリズム、効率化一辺倒で突き進む格差社会、荒ぶる資本主義経済に抗って協同組合はこれにどう対峙し、どのような改良・改善を獲得するのか。協同組合の産直、地産地消はどのような対応を求められているのかが議論されました。
 初日は、里山資本主義で有名な藻谷浩介氏の講演で、岩盤としてある地域で踏ん張れ、協同組合が最終的に収斂していく地域で、「売り上げ=儲け・コスト」の経済活動を、所得や資金が地域に還元される活動に転換せよ、と提起されました。
 パネルディスカッションでは、「買い支えから出資、協同のファンド形成へ」、川下のバイイングパワーの強大化の前に、「買い支え」の限界を超えて、の提起がなされました。

生協と地域の関係

 一九六〇年代に産直が始まり、京都生協ですと二〇〇九年六月に地産地消政策が確立しました。また、現在みやぎ生協は「産直は地域づくりの取り組み」という新たな位置づけを打ち出しています。仮説的ではありますが、「協同組合で、地域との連携によるバリューチェーンの形成」という流れも確認しておく必要があると思います。
 これは何も「産直はもうやめましょう。地産地消です」という意味ではなく、産直というルートも引き続き展開していくし、そこに地産地消の取り組みが重なっていくし、さらに協同組合と地域の連携によるバリューチェーンの形成という流れも重なっていく。そういう方向性としてあるのではないかということです。
 それから、日本の食品産業の現状を見てみますと、フランスは約三十七万八千人の食品製造業従事者を有しています。しかし、日本は百四十五万人が就業しています。これは人口比を勘案しても多いことには間違いありません。それともう一つ、日本の食品製造業は九九%が中小企業です。これは、ともに地域で取り組むという点で、食品業界との提携を、日本の特徴として前向きにとらえておく必要があると思います。

政治的トリレンマ

 最後に、この勉強会でも二度ほど来ていただいた、今は滋賀大学から京都大学に移られました、柴山桂太先生の報告を改めて思い出しているのですが、先生にダニ・ロドリックの「世界経済の政治的トリレンマ」(グローバル化、国家主権、民主政治は、二つしか同時に達成できない)という仮説をご紹介いただきました。サンダースさんとかトランプさんのようなアメリカの現象、イギリスのEU離脱事件、それからIS問題も然り、と思うのです。
 それは、これまで調和的にあった企業と国家と国民の三者の関係が緩んできて、国家がグローバル企業を抑えきれなくなったところに矛盾の根源があるということだと思います。
 ですから、その一方でトランプさんみたいな「メキシコとの国境に壁を設定する」という狭隘なナショナリズムが出てきてしまう。
 多国籍企業と国民と国家という三つの結合関係をどう正常な関係に変えていくのかが、非常に大きな課題であり、求められているのは「地方創生」ではなく、地方から民主政治を、住民の主権の実現から国民主権の実現への大事業を求められているのです。目指すのは協同組合が、地元業者とともに最大限利益を地域に還元させる地域経済の仕組みづくりではないでしょうか。そういうことを柴山先生は強調なさったのではないかと思います。改めて先生の講演をお示しして、私の報告を終えたいと思います。ご清聴ありがとうございました。


20161028_iida.png TPPが暮らしに及ぼす影響を予測する
〜協定文・付属文書からみえてくるもの〜


全大阪消費者団体連絡会
事務局長 飯田 秀男氏

 TPPの全体概要

 

 TPP参加国は十二か国ですが、GDP構成比でみると日本とアメリカで七八%。実質的に日本とアメリカでほとんどを占めるという構図になっています。人口構成比は、五か国(アメリカ、日本、カナダ、オーストラリア、メキシコ)で四分の三を占めています。
 協定は30章あります。第二章、第五章、第七章、第九章、第一八章、第二六章。これがこれから話すところに関与している章です。30章の中に「医療・保険」という章はありませんが、文書中にいろいろ懸念される事項が沢山あります。
 TPPは協定文だけではなく、付属文書、日米間の並行協議で取り交わされた文書、その他の二国間協議の文書、覚書等を含めると、六千五百ページを超えます。そのうちの半分弱の約二千九百ページが、内閣官房のホームページに日本語訳で公開されています。
 その他に「承認手続き」「実施計画」があり、これで協定の中身が実質的に変えられる恐れがあると言われています。
 もう一つ、日本は他の参加国とは違い、アメリカとの関係で大きな特徴があります。
 日本は戦後、アメリカの政財界との関係が非常に強く、とりわけ経済問題においては八〇年代から「日米構造協議」が始まります。八〇年代後半からは実際に協議文書を取り交わし、「年次改革要望書」交換は九〇年代から二〇〇八年度まで続き、二〇一一年には「日米経済調和対話」と、常に日米間で経済政策の違いを無くすという流れを引き継いでおります。
 TPP協定は、こういう戦後の日米の密接な関係の新段階として、初めて日米間自由貿易協定が締結されるという側面もあるのだと思います。

 TPPの五つの特徴

 一つは「生きた協定」「進化する協定」と言われています。協定の中に「三年以内に協定全体を見直す」という仕組みが盛り込まれていて、一旦今の協定文が発効したとしても、それがどんどん変わっていくという性格を持っています。
 二つ目が、「ネガティブリスト方式」を採用しています。リスト化されていないものはすべて自由化促進の対象となるという性格を持っています。
 三番目が「ラチェット条項」です。一旦決めますと自由化促進の方向に向かっては協議が進みますが、後戻りさせることは禁じるという協定です。
 四番目が、「規制の整合性」という第二五章です。これは分野ごとの協定の具体化が、全体の規制緩和と整合性が取れるようにしていくように約束されています。
 五番目は、「承認手続き」で協定の実質的改定が可能だという点です。
 TPPとは、加盟すれば、加盟国間の人、モノ、金、サービス、情報、権利が、グローバル企業の要求に沿って、自由化できるように、その障害物を取り除く協定になっています。

 TPPで懸念される事項

①関税撤廃

 関税撤廃が非常に多くの品目で行われます。当然、食品、農産物、食料の輸入が増大します。農水省は「食料自給率は変わらない」と言っていますが、誰も信じないと思います。

 時期は別にしまして、農林水産物の八二・三%が、関税撤廃になります。重要五品目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源)も、「無傷なものはない」と農水省も認めています。
 さらに問題なのは、七年後に日本は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、チリの五か国から、「残り一七・七%のうち、あとどれだけ撤廃するのか?」と迫られます。最初に決まった内容が全てではなく、さらに自由化が求められていくことが、予め協定文の中に謳われています。「生きた協定」と呼ばれる所以です。
 さらに、「除外」「再協議」事項がありません。全品目が関税撤廃の対象になっています。農水省は「セーフガード制度を設けたので、一定程度カバーできる」と言い訳をします。しかし、例えば、牛肉のセーフガード発令条件は、一六年目で七三・九万トンです。この量は、自給率が一五%まで落ち込むことを意味します。国内の牛肉生産がほぼ壊滅してからセーフガードを発令されても何の意味もないと思います。
 それから遺伝子組み換え食品の貿易促進。ここにはわざわざ作業部会が設置され、いろいろな形で貿易促進、量の増大に向けた規定が盛り込まれています。

②食の安全

 一つは、「検疫の時間の短縮」です。輸入食品は全国三二か所の検疫所で検査をして、パスしないと国内に入らないことが原則になっています。今、食品ですと、検疫検査に平均九二時間掛けています。これを四八時間以内に検疫を通すということが協定文に謳われています。
 すると、人員を大幅に増やすことが求められますし、検査場所、やり方も合理化が図られます。今検疫所の職員は四〇六人です。検査時間の短縮には単純計算で倍増しなければいけませんが、そうはなりません。検疫が後退することになると思います。
 二つ目は、遺伝子組み換え食品の貿易量を増加、促進させることが謳われています。遺伝子組み換え由来の食品が大幅に増える可能性があります。
 三つ目は、遠い所から運びますので食品添加物や残留農薬の緩和が考えられます。

 第七章に「衛生植物検疫措置(SPS)」があります。これは、検疫の規定で、食の安全にかかわる五つのポイントがあります。
 この章の目的は、食の安全のためではなく、貿易障壁を取っ払って促進することです。
 二つ目は、それを具体的に議論する小委員会設置が盛り込まれています。
 三つめは、有害動植物・病気が発生していないところ、あるいは少ししか発生していない場合には、地域ごと等で調整を行う。現在、アメリカでBSEが確認された場合、アメリカからの牛肉輸入は一切止まります。それがこの「衛生植物検疫措置(SPS)」が取られると、例えばカリフォルニア州のある工場でBSEが確認されたとしても、その工場以外の輸出は止まりません。止めるか止めないかの判断は、地域や州ごとになります。
 四つ目は、輸出国の「衛生植物検疫措置(SPS)」が輸入国のSPSと同等の効果を有するとなっています。これは、輸入国である日本は、輸出国アメリカのSPSを拒否できないという意味です。なので、今まで以上にSPSが緩和されるのは間違いないということになります。
 五つ目は、必要以上に貿易制限的でないリスク管理手法を検討し、実施する。これは「貿易制限をするな」と言いたいわけです。
 近年の日本の食料輸入量は三千万トンを下回ったことがありません。しかし、特に最近は行政検査の検査率が一〇%を割り込みました。その中で何が起こっているでしょうか。
 生鮮品を検査して不合格とわかった時点では、すでに全量消費されていたという事例が見つかっています。それから、検疫所の検査はパスしたが、都道府県で収去検査をしたら、違反が見つかったという事例もあります。
 また、厚労省は新しく食品類を輸入しようとしている事業者に対して、実際に輸入する前にサンプルで相談を受け付け検査する制度があります。この輸入相談での違反事例で、常にトップなのはアメリカです。そして、その約半分が健康食品に関わるものです。アメリカは約三千品目の添加物を認可しています。ですが、日本は八一四品目です。つまり、日本では認可をされていない添加物や材料を含む健康食品が、アメリカでは実際に作られています。それを輸入しようとすると、日本のルールでは違反するわけです。逆に言うと、今後添加物の基準設定等が緩和されることが予測される事例です。
 残留農薬問題ですが、これはアメリカとの関係で言いますと、ポストハーベストが一番問題だと思います。現在は、スーパーの店頭に行きますと輸入のレモンは「イマザリルがあります」「OPPあります」と必ず表示されています。それは農薬だからではなくて、日本においては食品添加物扱いになるために表示義務があるのです。それが農薬扱いになれば表示されなくなります。
 東大の鈴木宣弘先生が問題提起しているのは、ラクトパミンと牛ソマトトロピンです。
 ラクトパミンは、牛豚の飼料添加物で成長促進剤です。日本国内では使用不可になっていますが、残留検査の対象になっておりません。各国で、特にEUでは使用禁止になっていますが、これがアメリカでは使用されています。
 牛ソマトトロピンは、乳の分泌を促進するホルモン剤です。その生乳が日本にそのまま輸入されるとは考えにくいのですが、それでも技術が進歩すれば否定できないことです。現在スターバックスやウォルマートは使用しないと、国民向けに宣伝をしています。わざわざ宣伝をしなければいけないような代物ということです。
 それから、遺伝子組み換え食品の表示問題ですが、アメリカには表示制度がありません。日本もアメリカ方式になる可能性が十分あるということです。先日バーモント州の法律で表示制度が可決成立しましたが、アメリカ連邦議会はそれを無効にする法律をつくろうとしています。また、遺伝子組み換えの鮭がアメリカ国内で認可されました。二年後にはたぶん日本に来ると思います。

③医薬品

 医療・医薬品、保険分野での市場化がさらに促進されます。
 一つは、高い薬価のまま維持される可能性があります。薬価が高いということは、国民の健康保険料も高くなるということで、製薬会社の利益が保証されるということです。
 もう一つは、国内でも今現在医療の市場化がすすめられ、自由診療の拡大、患者申し出制度ができました。これは、特定の高い薬や医療技術が普及することになるかと思います。それは医療費の増大に結びつくのですが、一方で保険がきかない医療分野が拡大し、それを担保する保険商品がさらに広がる事が予測されます。

 先ほど言いましたが、協定文には「医療」という章がありません。しかし、付属書の中に、日米の製薬企業の利益をどうやって守るのかということが制度上盛り込まれています。
 「新薬の特許が切れても、ジェネリック薬が発売されるまでの間は高薬価を維持しろ」逆に、「外国薬価が高くても日本の薬価が高くならないようにする、外国価格調整制度を廃止しろ」「売り上げが増えた場合に薬価を引き下げる市場拡大再算定制度を廃止しろ」かねてからアメリカ通商代表部(USTR)は、こういうことを日本に要求していました。
 例えば、「ハーボニー配合錠」というC型肝炎に有効な薬があります。一錠八万円で、完治するためには十二週飲まなければならない。六百七十万円です。これはアメリカの企業が開発した薬で保険適用になりました。この薬を必要とする患者は何万人といます。だから当然薬価代が膨らみます。結果、保険料を上げるか、保険適用の医療水準を低下せざるを得ないという矛盾に陥ることになります。
 それから、「特許期間」に関してです。特許期間というのは研究段階で特許を出願してから始まります。特許期間は二〇年と定められていますが、開発、臨床試験、申請、審査、承認、そして販売するまでに十年かかったとすると、残りの十年で販売利益を得なければならない仕組みになっています。ですから、製薬企業はいかにして利益を確保するかということで、いくつかの仕組みを考えて協定に盛り込んだわけです。
 その一つが「特許期間の延長制度」です。日本で言うと、二、三年は掛かる審査期間の分、特許期間を延長しようという制度です。
 二つ目が、「データ保護制度の延長制度」です。製薬企業が薬を開発するためにデータの蓄積をしています。そのデータを保護する期間を設けることで、実質的に独占的な販売期間を延ばすことになります。
 三つめは、「特許リンケージ制度」(後発薬承認時に有効特許を確認する仕組み)です。試験データ保護期間が切れ、後発の製薬企業がジェネリックを開発しようとする時に、いろいろな言いがかりをつけて、訴訟を起こします。係争中はジェネリック承認が保留となり、データ保護期間が延びる。つまり独占的販売期間が延びるということになります。

④保険・共済

 これは「金融サービスの章」に関わりますが、郵政や共済、特にJA共済の資金が狙われています。今世界の経済は、モノの取引よりもお金の取引によって利益を得るということが圧倒的になっています。資金をどう調達すかが非常に大きなテーマで、資金を沢山持っている所、まだ市場化されていない分野に当然目が行きます。
 それが、かんぽ生命であり、JA共済であると言われています。

 国際決済銀行のデータによりますと、二〇一三年には、外国為替だけで年間十九京五千兆円の金融取引が行われています。世界の貿易の年間取引高は、せいぜい三千五百から四千兆円です。金融取引はその五六倍に相当します。そういう市場です。多くの企業がモノの貿易よりも金融の取引によって利益を上げているわけです。
 その中でかんぽ生命とJA共済が狙われています。
 JA共済の総資産は約五四兆円、日本生命の六四兆円余に匹敵します。JA共済の有価証券残高は約五〇兆円。三菱東京UFJとほぼ同じです。保険契約・預金残高でみますと、日本生命が二五三兆円、JA共済は二八一兆円。
 これは金融業界から見ると格好の標的です。これだけの資金力、資金融通力を持っているJA共済が金融庁の監督下にないということで、アメリカは「JA共済は農水省管轄ではなく、金融庁監督下に置くべきである」と一貫して要求し続けています。それは同じ土俵で競争させて、あわよくば買収しようと考えているのだと思います。

⑤ISDS(投資家対国家の紛争解決)条項

 外国企業から国・自治体が訴えられるという「ISDS条項」が盛り込まれています。
 NAFTA(北米自由貿易協定)の中にも「ISDS条項」があり、アメリカのメタルクラッド社がメキシコ政府を訴えて、千七百万ドルの賠償金を得ています。また、アメリカのエスル社がカナダ政府を訴えて、千三百万ドルで和解をしたという事例もあります。

 投資家や投資企業が投資をしたけど、思うように利益を上げることができなかった。その理由は「それぞれの政府、自治体の行政措置によって制約をされたからである」ということで訴えを起こすことができるわけです。これは裁判所で判決を出すわけではなく、国際仲裁法廷で三人の仲裁人でもって行われます。一審制の一回限りの裁定で決まります
 二〇一一年までに起こされた訴訟件数は、世界で四五〇件。そのうち、七一件の担当が同じ法律事務所の同じ弁護士、一30件は上位三つの法律事務所が担当した案件です。仲裁法廷はビジネスになっています。
 ISDSの一番の効果は、「萎縮効果」と言われています。私の仕事によって、外国企業から「利益を損なった」と訴えられ、税金が持っていかれることはしたくない、と自治体職員や国家公務員も思い始めます。そうなると、逆に国民の要望を聞かなくなります。これも非常に大きな問題です。

 TPPの今後の行方と私たちの課題
 

 日本は憲法第九八条に「2.日本国が締結した条約…は、これを誠実に遵守することを必要とする。」とありますので、発効すれば日本政府はこれを遵守すると思います。
 ところがアメリカは、国内法に違反する協定は無効だという姿勢を貫きます。従って発効しようと思えば、国内法に準拠した協定内容に書き換えるという圧力が働きます。つまり、アメリカの「良いとこ取り」になるわけです。
 大統領が誰になろうが、バックにいるのは日米の多国籍企業です。グローバル企業の要求は一貫しています。大統領が変わったからと言って、基本的姿勢は変わらないと思います。
 TPPが発効すれば、いろいろなところで国の形を変えることになります。従って、批准させてはいけないし、何よりも「情報をちゃんと公開しろ」と政府に迫る必要があると思います。協定の中身を国民に知らせて、「国会で議論をする。よくわからない間に裁決して通すということはやってはいけない。」という世論を起こす必要があります。
 九月末に召集される臨時国会で、安倍内閣はTPPの批准関連法案を成立させるべき法案の一つに挙げています。この秋の運動は大きな意味を持ってくると思います。

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