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食の安全・安心シンポジウム 「食品のリスクを考える ~食品と放射性物質~」(1)

滋賀の生協 No.157(2012.2.29)
滋賀県食の安全・安心シンポジウム
「食品のリスクを考える ~食品と放射性物質~」

放射性物質に係る食品健康影響評価(案)の概要について
2011年10月19日(水) コラボ21 3階大会議室

内閣府食品安全委員会事務局 
リスクコミュニケーション専門官 
久保 順一氏



 「食品中の放射性物質が人間にとってどれぐらい許容できるものなのか」。その評価結果案の概要を、とりまとめた「内閣府食品安全委員会」の久保リスクコミュニケーション専門官に説明していただきました。

   安全と安心を守るしくみ

 こんにちは。内閣府食品安全委員会事務局の勧告広報課で、リスクコミュ二ケーションを担当しております久保と申します。 先般、食品安全委員会が取りまとめました「放射性物質に係る食品健康影響評価(案)」についてご説明させていただきたいと思います。中身は専門家が集まって、今問題になっております「食品中の放射性物質が人間にとってどれぐらい許容できるものなのか」ということについて評価した内容でございます。

今回私どもが行いました放射性物質のリスク評価に使いました内外の論文は約三千三百です。日本語、英語、ロシア語、そういった論文を精査させていただきました。良く誤解されるのですけれども、私どもは実験機関を持ってございません。自ら実験をしてその結果で評価したわけではなく、これまで人類が積み重ねてきたいろいろな研究成果を専門家にご覧頂いて、その中で信に足るデータに基づいて評価させていただいたという、そういった性質のものでございます。

まず今、基本的に日本の食品の安全というのはどういう仕組みで守られているかというのを、ざっと説明させていただきまして、評価結果案を示させていただきます。そしてそれを一歩ずつすんなりみなさんに吸収していただくために、おさらいということで、放射線の基礎知識ということをちょっとお話しさせていただきます。評価に至った考え方、それと今一番みなさんご心配になっていらっしゃる、低線量放射線による健康影響の評価についてもご説明をさせていただきます。食品健康影響評価、これはどういうものかということもあるのですけれども、これを結果的には厚生労働省を介して、食品衛生法なりの基準を変えて、新たなルール作りを行うという、その仕組み等もお話しさせていただいて終了させていただきたいと思います。

私どもの努力不足もありまして、食品安全を守るしくみが変わったということをなかなかみなさんご理解していただけない部分がございます。平成十五年を境に食品の安全を守るルールが大きく変わりました。これはもう記憶も薄れてきているかもしれませんけれども、狂牛病(BSE)の問題に端を発しまして、以前は厚生労働省、農林水産省が食品安全のルール作りを、一番上も含めて上流から下流までそれぞれの役所がやっていたのですけれども、こういったことではいろいろ恣意的な判断が働いてしまって、結果的に食品の安全性を十分に守ることができないという反省を活かして、「リスク評価」と「リスク管理」をしっかり分けて食品の安全性を守るというような、新しいルール作りがされました。

その中で食品安全委員会は、一番基本となる、食べて安全かどうかを調べて決める。そのプロセスは、科学的、中立公正的な立場でリスクの評価をし、その結果を、こういったリスク管理の機関にお示しして、それを受けて食べても安全なようにルールを決めて監視するということですね。

そのプロセスにおいては、政策的なもの、国民感情とか、実現性とか、そういったいろんなファクターを入れ込みながら、実際の法令とか基準というのを決めて、それが守られるように管理をするというようなことで、きっちりと役割分担がなされているということでございます。

ここで重要になるのは、リスクコミュニケーションということです。

我々が行った評価がどのように行なわれたかということを、透明化して、可視化してみなさまにご理解いただけるようにする。そしてルール作りでは安全が守られるのか、管理できるのか、いろんな関係者とコミュニケーションをはかっていく。なにからなにまで厳しくすると結果的には守られなくなる、形骸化してしまうというようなことがありますので、ちゃんと実効性のあるルールになるように、コミュニケーションをはかることが重要だというようになっています。

今回私どもがこの場で話しさせていただくのも、リスクコミュニケーションの一貫という位置付けでございます。
安全と安心を守るしくみ

   評価結果案

 今問題になっています、放射性物質ですけれども、本来はまず食品安全委員会が根本的なものを決めて、それに従ってリスク管理機関である厚生労働省がルールを決めて規制をするという形が基本的なのですけれども、突然起こった事故ということですので、三月一七日に食品衛生法による「放射性物質に関する暫定規制値」を設定し、その内容について後から評価の要請をいただいたという形になります。

 暫定規制値というのは、決めたのは厚生労働省ですけれども、その基になったものは原子力安全委員会が防災指針ということで、予め平成一〇年頃「もしこういう原発事故等が起こった場合どういう対処をしましょうか」という中の一つとして、指標を定めていました。

 その指標というのは、ICRP(国際放射線防護委員会)という国際機関が示している国際的な規格を念頭に入れて決めたものですけれども、それをまるごと今回の暫定規制値として流用した形になっています。

 決めたのは良いのですが、「その内容がちゃんと科学的に妥当なのかどうか」その評価の要請を、三月二〇日、私どもがいただき、「緊急取りまとめ」ということで、放射性セシウムと放射性ヨウ素につきまして、とりあえず「暫定規制値の部分については十分安全性が保たれている」というような形でお返ししたところです。

 評価のプロセスですが、実効線量10mSv(ミリシーベルト)/年というのは、ICRPという国際機関が示しているものですけれども、これはこれだけでなく、この基になっている論文にまでさかのぼって、「緊急時の対応として、不適切とまでいえる根拠は見出せず」と評価させていただきました。

 その内容は放射性セシウムについては、年間5mSv(ミリシーベルト)/年は「かなり安全側に立ったもの」、放射性ヨウ素につきましては実効線量として年間2mSv(ミリシーベルト)/年は「相当な安全性を見込んだもの」ということでお返ししたわけです。

 この5mSv/年、2mSv/年というのはもとになる数字で、体に影響を与える放射線の影響と強さの単位です。暫定規制値というのはBq(ベクレル)という表示で、食品中に含まれている放射能の強さで規制を行っています。ですから、これをもとにしてそれぞれの食品のBq(ベクレル)という基準を作ったという形になります。

 食品安全委員会が「何ベクレルだ」と決めたのではないということをご理解していただきたいというふうに思います。

 これはあくまでも「緊急取りまとめ」という位置づけなのですけど、私どもの本来の職務というのは、普遍的に人間というのはどれぐらい放射性物質に対して許容できるものがあるのかということを決める仕事をしておりますので、その後、七月二六日に、「放射性物質に係る食品健康影響評価結果案」をとりまとめて、八月二七日までパブリックコメントという形で、みなさま方のご意見・情報を募集し、今約三千件いろいろなご意見・情報、「こういう論文を見落としているではないか」というような内容も含めまして、頂戴いたしまして、それを丁寧にお返しするということで、一所懸命作業を行っているところです。ですから、残念ながら、厚生労働省については結果を通知できていないという状況になっています。

 なので、三月一七日からの暫定規制値が今も続いているという状況になっているということです。

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