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生協法改正の内容とこれから進めるべき実務対応(2)

滋賀の生協 No.141 (2007.8.6
2007年度会員生協役職員研修会
『生協法改正の内容とこれから進めるべき実務対応』
講師 日本生活協同組合連合会・法規対策室室長 宮部 好広氏

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理事会ー代表理事関係
 改正法では「理事会の設置」と「理事会で代表理事を選出します」ということが明記をされます。今までは「理事全員に代表権があります」という建前だったわけですけれども、今後は「理事全員には代表権がない」という前提で、「代表権のある代表理事を理事会で選ぶ」ということになりました。

  「理事会の招集者は原則として各理事が行う」ということになっていますが、定款で理事会の招集者は、例えば理事長であると決める事は当然出来ます。ただそう決めたとしても各理事は必要がある場合には一人でも招集請求をすることが出来るということですね。

 「理事会の招集手続き」は現行の模範定款例でやっているのとほとんど変わりません。

 「理事の自己契約」のところは変わります。「理事の自己契約」とは何か。例えば関連会社の代表取締役を兼ねている理事が生協と契約をするというケースは時々ありますね。そういう場合、現行では、「監事が生協を代表します」ということになっているんです。これがこれからは「理事会の議決事項になる」ということです。「理事会の承認を得たら、代表理事がやって構いません」ということです。監事が代表するケースが一つ残っていて、それは「訴訟」です。「生協と理事との訴訟」あるいは「生協と元理事との訴訟」については監事が引き続き代表権があるということです。

 「理事会の議事録」のところは大きく変わります。

 一つは、「議事録での署名の仕方」です。今までは議長と議事録署名人二人の計三人が署名すればよかったんですが、「全員が署名しなさい」ということになりました。これは「理事会に出席していた理事」だけでなく、「出席していた監事の署名も必要」になってきます。何故かと言いますと、理事会議事録は議事の経過の要旨と結果だけでなく、「ここで反対があった」ということは書いてなければまずいわけで、それについて「出席している全員が点検する機会を与えられる必要がある」という考え方ですね。

 しかし、実務的にはすごく大変で方法としては二つ。一つは、紙の議事録を作りそれに判子を押してもらう今までのやり方。もう一つは「電磁的方法」。ワープロソフトで作った議事録を改竄できないようにPDF化し、電子署名を全員分くっつけるというやり方です。

 もう一つ「理事会議事録が開示の対象になる」ということです。今までの「保存義務」だけでなく「開示の対象にもなる」ということで、組合員の場合は業務時間内いつでも閲覧・謄写請求できることになっています。当然「機密事項」も書いてあって、組合員全体の利益を害する特別なケースがあれば、そのことを理由に開示を拒む事は出来るわけですけれども、「開示義務が原則定められた」という点が大きな変化です。
監事関係
 「基本職務」のところは今までとさほど変わりはありません。

 「監事選任議案等に関する同意・意見陳述」。先ほど「役員の選出方法」で、その新たに導入された「選任」という方法は、「総代会に対して次期の役員全員を理事会が提案をする」と申し上げましたが、役員全員の中には監事も入っています。これは放っておくと理事会が次期の監事候補の提案権を持ってしまって、人事上の影響力を強く持つことになりかねない。それを補正するために、「監事の同意権」というのを認めているわけです。「監事の選任議案を総(代)会に提出する場合には監事の過半数の同意がないと提出できない」ということです。それで監事の多数派の意思は反映されるようになる。じゃあ、現任監事の少数派の意思はどうなるのか。それは「総代会当日に意見を述べることが出来る」という形で保障されているわけです。

 「監査費用についての規定」これも独立性、費用面で監事の活動が阻害されることがないようにするためという趣旨です。

 「総代会議案等の調査・義務」というのが入っています。今までは法律上、監事のやらなければいけないことは「決算書類の監査」だけが明記されていました。総代会には決算書類だけでなく定款の変更、規約の変更もかかります。そういう提出議案、書類などを監事が事前に調査をし、「法令・定款違反がないかどうかをチェックする」という事が義務付けられました。

 「差止請求」。これは非常に強力な権限なんで濫用するととんでもないことになるんですが、「理事が法令・定款に違反する行為をし、生協に著しい損害を生ずるおそれがある場合、監事はその行為のやめなさいと言えます」ということです。「やめなさい」と直接言えますし、訴えをおこす事も出来るということです。
組合員の訴権
 「組合員の訴権」は今度新しく入りました。  「総代会の決議の効力を争う訴訟」。現在は「総代の十分の一の請求で行政庁に対して取り消し請求が出来ます」が、その制度が残ったままこの「訴権」が加えられました。

 訴訟の種類は、総(代)会の「不存在」「無効」「取り消し」と三つあるんですが、「不存在」というのは「実際には総代会の決議がなかったのに、議事録をでっち上げてあるかのようにしている」とか、そういう甚だしいケースなんで普通はあんまりない。

 「無効」というのは「決議の内容が法令違反」というケースです。例えば、生協は預金の受け入れとか出来ないんですが、事業計画で「預金の受け入れをします」と決めたら、決議の内容が法令違反ですから「無効だ」ということになるわけです。

 「取り消し」というのは手続きの問題です。「招集手続き」「運営方法」「議決方法」などに問題があるケースです。これは「決議から三ヶ月以内に提訴する」ことができます。

 二番目が「役員責任追及の訴え」。これは、株式会社における「代表訴訟」にあたるものです。

 三番目の「差止請求訴訟」は「監事の差止請求訴訟」と似ているんですが、理事が不正な行為をする場合にそれをやめさせるという訴訟です。ただ、要件が、監事の場合は「生協に著しい損害を生じるおそれがある場合」となっていますけれども、組合員の場合は「生協に回復できない損害を生じるおそれがある場合」。どれぐらい違うのかという事はすごく難しいんですけど、これは判例とか調べないとわからないですね。

  「帳簿・書類等の閲覧請求権」という権利が新たに作られています。これは「組合員の百分の三以上の請求があった場合」。組合員自らが会計帳簿自体を見るというのは、単なる開示というよりも監査に近いような活動が認められるということです。 

 「決算関係書類」の「種類」は現行の追認で変わっているだけですが、「手続き」が定められた。その結果、スケジュールをちゃんと組まないといけない。手順としては、まず決算を締めて書類を作成する。作成をしたものは監事の監査を受けますが、監査の期限は監事が受け取ってから四週間と定められると思います。その監事の監査の報告をくっ付けて理事会に出します。理事会で承認をされたら、総代会の招集通知に添付して総代に送る。招集通知は「十日前までに発送する」となっていましたね。それに決算書類を添付して送らなければならないという事で、その一連の流れを総代会までにやらなければならない。スケジュール的にこれをこなせるかどうか、今の実務と照らし合わせて検討していただく必要があると思います。例えば年度終了後二ヶ月で総代会を開催しているところは、もし不可能であれば、来年の定款変更の時に通常総代会の時期を「三ヶ月以内」に変更しておく必要が生じるかもしれないですね。
医療・福祉事業
 「医療・福祉事業」は、今まで生協法では「利用事業」という「サービス事業」の中で「それも行っていいですよ」ということになっていたんですが、今回「医療に関する事業」や「福祉に関する事業」が法律上生協の事業として明確に書かれる事になった。

 「区分経理と剰余の扱い」。医療事業とか福祉事業のメインの事業は、医療保険や介護保険等、公的なお金がおりる事業です。なので、その事業から剰余があったとしても、それを「剰余金の割戻しとするのは適当ではない」という考え方から「事業損益については、医療・福祉関係の事業とそれ以外を分けます。損益は区分して、医療・福祉に関する事業の方で出た剰余金は積み立てなさい」
共済事業
 「共済事業」は二つの角度からルールが設けられています。

 一つは「共済事業の経営の健全性」という角度です。「経営の健全性」はどんな事業でも大事ですが、何故共済事業だけ特殊に「経営の健全性」が問題になるのか。共済事業は事前に共済契約を結ぶわけですが、共済契約の中で、例えば「亡くなった場合、いくらの給付をします」という約束をし、その約束を果たすためのお金を事前に掛け金として集める。その集めた掛け金を積み立てておいて給付にあてるという、要はお金を預かる事業なんですね。支払いが出来なくなるとこれは事業じゃなく詐欺になっちゃう。なので「経営の健全性」というのは特に重要であるわけです。それなのに、例えば共済事業と購買事業を一緒にやっていて、購買事業の赤字で共済事業の分のお金が減っていき、必要な共済金の支払ができなくなるとまずいわけです。そういう趣旨で「元受共済事業をやっている生協は、一定の規模以上になったら他の購買事業と一緒に事業は出来ませんよ」という「兼業規制」規定が入ったということです。

 もう一つ大きいのは「契約者の保護」です。今申し上げた「経営の健全性」というところは、共済金の支払い義務を負っている「元受共済」の生協しか関係ないんです。しかし、「契約者保護」という角度で言いますと、「受託共済生協」も勧誘のところには関わっていますので、そのルールには従う必要が出てくる。細かい問題についてはいずれ実務ベースでの整備がされてご案内をすることになると思いますので、ここでは「契約者保護」の角度でのルールがたくさん設けられたということを説明するにとどめます。
職域生協・大学生協の組合員資格
 「職域生協の組合員資格」。現状は「その職域に勤務している人」と「その職域の付近に住んでいる人」の二つだけです。今回「職域生協における退職者」が認められました。これは、職域生協で共済や保険をやっている場合に、組合員でなくなるとそれを脱退しなければいけないのかという問題になったりするわけです。例えば、「退職したんで田舎に帰ります」となって共済や保険を脱退をしてしまうと新たに入るのはすごく大変だったり、入れなかったりする可能性がある。そういう場合に継続が出来るようにということで「OBだったらかまわないよ」という規定が設けられたというのが一番目です。

  もう一つが「学生組合員」です。大学生協の学生組合員というのは、「勤務する人には当たらない」と解釈されていて、今までは「付近に住んでいる人」という扱いで加入していたわけです。今後も勤務する人には当たらないんですけれども「大学とか学校を区域にする生協では学生が組合員になれます」という規定が新たに設けられたということです。
各生協でのガバナンスの見直し
 来年の四月一日から改正生協法が施行されます。その直後に行われる通常総代会に「定款や規約の変更・改正案」を提案して、総代に了解をいただかなければいけない。

  ところが今回法律自体は定まったんですが、多くの細かい事項は政令や省令に委ねられていてそれが確定をするのは多分来年になってしまう。政令、省令が決まらないと「模範定款例」も決まらない。おそらく「模範定款例」とか「省令」の内容を皆さんにご案内できるのは、十二月に日本生協連で予定をしている「地連別説明会」になって、その後、具体的な「定款・規約の変更案」の起案に入っていただく事になると思うんです。

 「どうしようか」と考えたわけですが、今回「定款」とか「規約」とかの変更をする時に、大きく二つに分けて考えられると思っています。

 一つは、「法律や省令とかに決められたことをそのまま書かなければいけない事項」。

 例えば、「理事会議事録の記載事項」とか、「総代会議事録の記載事項」は、省令に委ねられているので今の段階ではわからない。しかし、決まったらそれに従わざるを得ないので、定款で例えば「総代会の議事録の記載事項は」と書く時には、省令の内容をそのまま書けば良い。あんまりここで検討する必要はないわけです。

 もう一つは「選択の余地があり、それぞれの生協ごとに態度を決めなければいけない事項」。

 それは例えば「選任制度なのか、選挙制度なのか」。「選任制度にするにしてもどういう制度なのか」。「監事の任期はどうするのか」。いろいろ判断していかなければいけない。

 しかし、そのことだけ考えていると、バランスが悪いんですね。本筋は、機関の構成が法律上大きく変わったわけです。理事会が法律上位置づけられて権限が強化・明確化され、それとのバランスで監事の権限も独立性も強化をされている。尚且つ組合員からのチェックの手段もすごく強力なものが用意をされていて、より一層きっちりとした運営が求められる構造になってくる。そういう中でどういう役員体制を敷く必要があるのかということを、それぞれの生協ごとに改めて検討する必要が生じる。

 そういう正面からの議論をしていただくために、九月から十一月までの秋の間に総代との懇談会とかの中で改正生協法の内容についても共有をしていただいて、その上でどういう方向へ行くのかということについての検討と合意をしておいていただくという事がすごく重要ではないかと思っています。
新ルールによる実務の準備
 「理事会議事録の署名」の対応と、「決算関係」これが一番大きな実務対応上の問題だと思います。「決算関係」の実際の対応は、来年の総代会に向けてではなく、その次の年に向けて整備をしておく事が必要になるかと思います。

 あと、細かい事項では、例えば「総代会の招集通知に書かなければいけない事項」はかなり細かく決められます。この点については、必要な事項を盛り込んだ様式例についてある程度日生協の方で準備をしていきたいと思っていますけれども、そんなに大きな準備がいるという事ではないだろうと思うので、今申し上げた二つは事前にちゃんと検討していただくことはすごく大事だと思います。 ご清聴ありがとうございました。
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