エタノール製造が急拡大する契機についてまずお話いたします。
アメリカでは一九九〇年に「大気浄化法」が制定されます。自動車の馬力をアップするためにガソリンに鉛を入れて走らせてきましたが、鉛の公害が発生するということで、「もう鉛を入れてはいかん」ということになりました。クリーンなエネルギー政策のスタートです。
本格的に取り組みだすのは二一世紀の初めからですが、とりわけ二〇〇五年の「エネルギー政策法」、二〇〇七年の「エネルギー自立保障法」の二つの法律によって「再生可能なバイオ燃料」を二〇〇八年の年間九十億ガロンから二〇二二年の三百六十億ガロンへ四倍も増やすという方向を打ち出しました。そして三百六十億ガロンのうちうちの百五十億ガロンはトウモロコシで製造する。残りの二百十億ガロンは第二世代のエネルギー資源と言われるいろんな廃棄物。例えば材木のかけらや残飯、食用にならない雑草みたいなものを開発して、二百十億ガロンを調達する。しかし、この二百十億ガロンについては、安いコストで生産できる技術がまだ確立していない。いずれにしても百五十億ガロンをトウモロコシから作るということを言いだしているわけです。
それからもう一つ重要なのは、二〇〇五年法も、二〇〇七年法もアメリカのエネルギー省所管の法律だという点です。日本で言えば経済産業省のエネルギー庁の所管ということになります。したがって、これに補助金を出すというのは、WTOで問題になっている「農業補助金の範疇には含まれない」というのがアメリカの言い分です。具体的にどういう補助金を出しているのかというと、エタノール製造のプラントを建設する資金の一部、あるいは銀行から金を借りて建設する時の金利負担等々です。
アメリカに行くと、このごろはガソリンスタンドで「E10」とか「E85」という表示が目につく。「E10」というのはエタノールが一〇パーセント混じっている、「E85」というのは八五パーセント混じっているガソリンのことです。エタノールを混ぜたガソリンのガソリン税を安くする。そういうことを連邦政府はやっている。中西部のいくつかの州でも、州独自でやっているんですね。
これは事実上農業者を助ける事になるので、「隠れた農業補助金だ」というのが、EUやケアンズグループといった他の農産物輸出国の指摘です。実はこれもWTO交渉でまだ解決していない問題です。 |