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県内協同組合合同研修会~2006年度国際協同組合デー~(2)

滋賀の生協 No.137 (2006.8.8)

県内協同組合合同研修会~2006年度国際協同組合デー~
講演II 「滋賀の食文化の魅力と再評価の意義」
滋賀の食事文化研究会副会長 中村 紀子先生

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中村 紀子先生プロフィール
滋賀県長浜市生まれ。元大津滋賀地域農業改良普及センター所長。滋賀のお米文化と瑚魚を柱とする滋賀の伝統食の発掘・普及活動に尽力。滋賀女子短期大学講師。
滋賀の食事との関わりから

 私が普及員になりましたのは昭和41年でした。

 農村地域の女性はまだ家におり、兼業農家で「三ちゃん農業」でした。東浅井の農家では、「蚕さん」が飼われていました。また農繁期は「共同炊事」も行われておりました。

 長年続いてきた日本の暮らし方が農村にはありました。採れたものを上手に活かす。物を大事にする「しまつ」のある暮らし。農村は伝統食、伝承の場でありました。

 高度経済成長の波が農村にも覆いまして、台所改善が行われ、「あれよあれよ」という間に機械化も進み、主婦も農外就労に就くようになりました。また、農村地域にもコンビニが増えてきまして、全体的にライフスタイルが大きく変わってきたように思います。

 長く継承されてきた食文化は、人々の生き方が凝縮されています。そういう食の味、食を作る技術、何代にもわたって人の手を経て検証され洗練されてきたものが、この四十年程の急激な変化で、断ち切られそうな危機的な状況を迎えているのではないかと思います。

滋賀の食文化の形成上の特徴

 一つ目は、伝統行事の中で食文化が.継承されてきているということです。

 滋賀は、古くから信仰の篤い地域です。山神祭、野神祭、おこない、春祭り、秋祭り、虫送り、地蔵盆、雨乞い、新嘗祭...そういった自然信仰的な行事、神事や仏事などが今も丁寧に行われております。そういういろんな伝統行事に合わせて滋賀の食文化というのが育ってきているということがあります。

 二つ目は滋賀の自然。琵琶湖が真ん中にあり、たくさんの川がそそいで、周辺は肥沃な土壌に恵まれた平野が広がり、その周りは千メートル級の山に囲まれております。気候的には県の北部と南部とでは違っており、バラエティに富んでおります。

 その中で、米を中心に豆、野菜、いも、小魚。滋賀県は食には恵まれた地域であるということが言えるのではないかと思います。

 三つ目は、社会的、文化的にも古くから交通の要衝で、近江商人によって全国の人と物の交流が行われておりました。周りからの影響を受けながら食文化の面でも、豊かに醸成されていったということがあるかと思います。

滋賀の食材の特徴

・米
 滋賀の農業は水稲に特化しており、野洲は悠紀斎田に選ばれましたし、寿司飯米は湖南の米というふうに「近畿の米蔵」としておいしい近江米を生産しております。料理法も、アメノイオご飯、シジミご飯、黄飯、しょい飯、たでずし等、非常にたくさんあります。

 また、「くず米」は、いりこ、ゆりこ、ゆりご、こごめ等と呼び、粉に挽いて団子にして煮たり、焼いたりして食べます。みょうが、サルトリイバラ等の葉に包んで蒸し団子にするというようなこともありますし、蓬を搗き込んだ米団子は県下全域にあります。

 餅も祝いの食の柱です。正月には鏡餅や、雑煮餅を中心に十臼以上餅つきをする家も少なくありませんでした。年頭のおこないには大鏡餅を神に供えて豊作を願います。彼岸や節句、祭りにも餅を搗きます。お客さんがあるとぼたもちや包み餅を作ります。出産祝い、誕生祝、葬式等は赤飯や餅が定番で、もち米は必需品でした。普段の食でも冬場は、餅にうるちをまぜまして「こわ餅」をつくります。

 今農家の兼業化が著しく進んでいるにもかかわらず、伝統行事がよく伝承されているのは、水稲栽培を中心とする農村の存在抜きにしては考えられません。主食だけでなく毎日の暮らし方、思考方法まで大きく米から影響を受けてきたのではないでしょうか。


・湖魚
 特徴の二つ目は、琵琶湖の魚です。
 コアユ、ニゴロブナ、ゲンゴロウブナ、瀬田シジミ、本モロコ、イサザ、ビワマス。こういった魚は琵琶湖を代表する固有種で、焼き魚、なれずし、佃煮、みそ汁、いろんな料理の材料になり滋賀県の独特の淡水魚の食文化を形成しております。

 中でも、ふなずしに代表されるなれずしの種類の豊富なことは、他の県の類を見ないと思います。肴を塩漬けにし、ご飯と一緒に漬け込んで発酵させ、数ヶ月から一年以上かけてなれずしにします。ふなずしの他にハス、ウグイ、ワタカ、オイカワ、アユ、ドジョウ、モロコ、湖北や朽木ではサバやアジなどもなれずしにします。この湖魚と米どころの滋賀であればこそできた漬物で、その味と技術は大切に伝承していきたいと思います。


・野菜、豆
 豆も米とともに欠かせない食材です。日常食を支える柱は米と味噌でした。
 煮豆も湖魚との炊き合わせで、イサザ豆、エビ豆、ゴリ豆。アユと一緒に炊いたりもします。納豆も古くからつくられており、仰木には納豆餅もあります。打ち豆汁は伊香郡など冬積雪地帯で食べられていてお講汁等に入れられています。

 漬物の種類も豊富です。入江カブ、小泉カブ等はほとんど作られなくなりましたが、万木カブ、日野菜カブ、近江カブ、山カブ、矢島カブ、大藪カブ、伊吹ダイコン、山田ダイコン等地域固有の特産野菜が伝承され、漬物の原料として親しまれています。

 トウガラシ漬は朝夕冷え込むような山間で。高島町の畑ではハタ漬があります。大津市大石のソツカ漬、信楽町の多羅尾や朝宮町のズイキ漬、これはキノコと一緒につけます。

 湖北地域にはハグキ漬があります。湖北町では、オオサカシロナを使いますが、高月町ではタカツキ菜、旧びわ町、虎姫町の方では白菜のタタミ漬がつくられております。

なぜ今伝統食か?

・レストラン家族
 現在の食生活の現場にはいろいろ心配になることがあります。
 朝6時半、夫が前日の残り物で朝ごはんを食べる、7時に長男がご飯とおみそ汁。7時半に長女がたまごサンドとコーヒー。妻は空いた時間にトーストと紅茶。一緒の家にいても、家族が好きなものを好きな時間に食べるというのを「レストラン家族」と言います。


・孤食
 1981年にNHKで、小学校五年生を対象として、およそ40%が「子供だけ、あるいは一人だけで朝食をとっている」。18%は「たった一人で朝食をとっている」ということが報告されました。

 その子供たちが大人になり、最近「会食不能症」という言葉が出てきました。一人では食事ができるが、学校の友達とか、職場の人とかと一緒に食事をすることができない。

 最近は他人との関わりができない子供とか、若者が増えていると言われます。大人も「面倒くさいことはイヤ」「異性と関わるのはイヤやから結婚しない」また子供ができても、子供との関わりあいの仕方を知らないために「虐待」などの悲劇が起こっている。  「好きなことだけしてどこが悪い」「嫌なことは絶対にしない」という「ジコチュー症候群」は、「好きなものだけ食べてどこが悪い」「嫌いなものは絶対食べない」という「孤食」の習慣の中で育てているのではないかなと思います。


・朝食抜き
 20代の男性では「三人に一人」は朝食を食べていない。その理由として、男子も女子も85%ぐらいが「夜型の生活」ということになっています。

 私たちが食べる栄養素というのは、タンパク質、脂肪、炭水化物。これは全部エネルギーになるんですけども、脳はブドウ糖だけしかエネルギーとして使えない。脳はブドウ糖を1時間に5g消費するのですが、肝臓が蓄えられる容量は60g。12時間分しかストックがないということなんです。エネルギー不足になってくると、「早く食べてくれ」と摂食中枢を刺激し、それでイライラして、集中力がなくなるということがあるわけですね。

 文部科学省の調査で小学五年生から中学三年生までの45万人の学力テストと朝食の関係のグラフで出ていたんですけれども、毎日朝食をとる子供は、国語、算数、理科、社会、英語、全科目で平均点を上回っています。逆に朝ごはんを食べない子供は平均点を下回っていたということで、学力との関係でも深刻な影響を与えていると思います。


・偏食
 動物は脂肪含量の高い食べ物を食べたがるという実験があります。ねずみにコーンオイルを置いておきますとどんどん太っていくんですけれども、食べるのを止めようとしない。脂肪は常習性があるんですね。タンパク質、炭水化物は1gが4カロリーですけれども、脂肪は9カロリー。エネルギーにするには非常に効率がいいので「これは良い食べ物だ」ということがインプットされているんですね。

 「マヨラー」という人がいますよね。ご飯にもおかずにもなんでもマヨネーズをかけると言いますが、マヨネーズは70%は油ですから、油の摂りすぎというのは非常に困るわけなんです。子供たちだけで食事をしていますと、本能のままに食べる食事になって、その本能のままに油を摂る食事になってしまいます。


・ばっかり食べ
 一品だけを完全に食べてしまってから、次のおかずを食べる。一つずつ完食していくのを「ばっかり食べ」と言います。日本人は「口中調理」ご飯を食べて、おかずを食べて、口の中で一緒に食べるという食べ方をしてきました。そういう口の中でいろんなものを味わうということで、味覚が発達してきた民族なんです。そういうことができなくなってしまうということも問題です。


・食生活の意識
 主婦の食生活の意識がここ6年ほどの間に非常に変わってきている。「生活の中で食生活を最も重視している」と答える人の割合が77%から65%に減ってきた。「食事にかける時間はできるだけ少なくして、他の事に時間を使いたい」と変わってきているわけです。また、簡便な調味料類、質の良いお惣菜がたくさん登場してきて「手作り至上主義意識」がどの世代でも薄れてきております。「調理技術がなくてもおいしい食事を用意することは可能か」という質問に「はい」「どちらかといえばはい」と答えたのが78.9%あります。「食事を通して家族の絆を強めたい」という回答は47%から39%に。「家族一緒に食事をとるようにしている」というのも62%から49%に減ってきております。


・食品自給率
 カロリーベースで自給率は私が就職した頃は73%ぐらいだったんですが、今は40%に下がってきています。豚肉を例にとりますと、53%は国内で生産されています。しかし、エサの自給率は5%しかありません。ですから完全に自給した豚肉は、10キロを買ってきたら、わずか500グラムしかないんです。


・食べ残し
 日本の「食料廃棄率」は大体6%です。結婚式の場合には24%、宴会なんかでは16%です。生産物が容易に遠くへ運ばれる今の時代は、どんな人が生産したのかが見えにくいので、平気で捨ててしまうということが起こるのではないかと思います。


・情報の氾濫

 テレビをつけましても「食」に関する番組が多く、その影響が非常に大きいと思います。宣伝も含めて誇張されていたり、断片的であったり、氾濫する食情報をどう受け止めるかというのは大変難しい課題です。

食と農を繋ぐ

 「食と農をつなぐ」ということで、「共食」「家族揃って食卓を囲みましょう」ということがあります。なぜ一緒に食べると良いか。同じ経験を共有するということで「今日のご飯おいしいね」「このおかずおいしいね」ということは、家族の一員として心を豊かに成長することにつながります。「レストラン家族」とか「孤食」というものは心のつながりを失ってしまう。家族というのは食とか住を共有することによって、生活の知恵を継承して、価値観を共有して、次代を担う人間を育てる非常に大事な場であると思います。

 伝統食というのは、口で言ってもなかなか伝えられるものではありません。まず食べさせて覚える。伝統食には、甘い、すっぱい、しょっぱいの他に、苦いという味があります。コアユを食べた時にちょっとほろ苦い。それが「苦いなあ」と思っていても、だんだん大きくなってくると、その苦味のおいしさがわかるようになってくる。子供たちだけが好きなものじゃなくて、多世代が一緒に食事をすることによって、相手のことも分かるようになってくる。そういうことが大事ではないかなと思います。

 「地産地消」は「おすそわけ」の精神だと思います。周りの人に「おすそわけ」をする。顔が見えるし、安全だ、安心だということも言えるかと思いますが、旬の野菜はおいしいし、季節感もあり、その地域で採れた文化でもあるし、たくさん採れた時にそれをたくさん食べるというのは昔からの知恵だったと思います。その一番理想的な野菜の食べ方、食事の仕方ができると思います。親が作ってくれたというのを見えるような、そういう食べ方が大事だと思います。

食育は伝統食から

 私はいつも「食べることは人を育てる」と言っているんですけど、食育というのはまず伝統食から伝えていくということが大事なんじゃないかと思います。

 欧米人はエネルギーの40%は油から摂っているんですが、日本人の体は高カロリーの油を摂れるようにDNAがセットされていないんですね。欧米人と同じように油を摂りますと糖尿病になります。すい臓が持たないわけです。日本的な食事はご飯があって、副食がついて、琵琶湖や川で獲れた魚、豊かな平野で作られた野菜、山間地で採れた山菜、海のものは塩干物でというものを食べてきましたのでそういうDNAになっているわけなんです。

 子供たちに対して小さい間から日本の食べ物を刷り込んで、何もかけない白いご飯のおいしさ、化学調味料じゃない日本のだしの味がわかる。素材そのものの味、風味、それを活かした日本料理の繊細な味を若い頃に育てるということが非常に大事なんじゃないかなと思います。

 食事というのは、栄養補給はもちろん大事ですが、それだけじゃなくて、躾をしたり、味覚を広げたり、共に食べる人とのコミュニケーションを楽しむ。情操教育の場であり、健康教育作りの場でもあります。

 今一度伝統食の食事そのもの、それから食べ方、そういうことを見直して、そしてこれからの食育に活かしていただけたらと思います。

 どうも失礼したしました。

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