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二〇一三年度国際協同組合デー記念学習・講演会(2)

滋賀の生協 No.163(2013.9.6)
二〇一三年度国際協同組合デー記念学習・講演会
ポスト国際協同組合年 これからの協同組合に期待すること
~組合員とともに、つながりを強めて~

二〇一三年七月四日(木) ピアザ淡海207会議室
主催 IYC記念滋賀県協同組合協議会

講師 増田 佳昭氏(滋賀県立大教授)

【二】ICA「協同組合の一〇年に向けたブループリント」

   「ブループリント」の構成

 二〇一二年国際協同組合年(IYC)が終わり、ICA(国際協同組合同盟)は、「協同組合の一〇年に向けたブループリント」という文書を取りまとめました。ここでは二〇一一年から二〇年までの一〇年間の問題提起がされています。

 この「ブループリント」では、IYCを「市民社会や政府および政府間組織における協同組合の認知度を、協同組合セクターのみでは達成しえなかったレベルまで高めてきた」と位置づけています。そして「二〇一一年から二〇二〇年までを自信を持って成長を遂げる協同組合の十年にしたい」。その為の「ブループリント」だという提案です。

 具体的には、協同組合の一〇年に向けた計画案を提示しています。全五章からなり、章ごとに目標と具体的な対応策が書いてあります。非常に意欲的な提案です。

 五つの章の柱建ては、参加、持続可能性、アイデンティティ、法的枠組、資本ですが、今日のテーマとの関連で重要なのは、参加、持続可能性、アイデンティティの三つです。(図1)もっと絞り込むと、「参加・持続可能性」の二つが協同組合の強みです。これを強める方向で行動しようというのが一番の柱だと思います。

 「アイデンティティ」というのは、一九九五年の「ICAの原則」が定めた「協同組合のアイデンティティ」です。このアイデンティティを協同組合の内部にとどめないで、メッセージとして発信しようというのが主な主張です。ですから、「参加と持続可能性」という基本的なアイデンティティをどうメッセージとして発信するのかを強く意識しなければいけない。特に、若い人にどうメッセージを送るかというのは、世界共通の課題です。「ドットコープ(.coop)というドメインをつくろう」ということまで書いてあります。

 第一章「参加」と第二章「持続可能性」では、協同組合がなぜ、より優れた事業運営を行えるのかを示す。第三章では、これを「アイデンティティ」つまり「協同の基本的な価値と原則」というレンズを通して見る。そして、協同組合のメッセージを構築し、協同組合のアイデンティティを確立するとなっています。

図1

   参加の定義

 さて、その「参加」ですけど、「ブループリント」では、「組合員としての参加やガバナンスへの参加を、新たなレベルに引き上げる」と書かれています。

 「個人組合員は協同組合で、顧客、職員または生産者の基本的な経済関係を超えた役割を担う。組合員たちは一体となって自分たちの協同組合を所有し、民主的な取り決めを通して、その経営に参加する。」

 「個々の組合員は、情報を取得し、意見を述べ、代表する権利を持つ。」これらの権利を簡潔にまとめて「参加」を定義付けています。

 さらに、「働くものの参加」です。「協同組合が促進する独自の民主的な構造によって人々が参加しやすくなり、したがって民主的に決められた権限を通じて事業内で真の影響を及ぼすことが可能となるため、働くものが組合員になることで、彼らの関与レベルが高まり、より効果的な意思決定ができる。」と書いています。

 これは、職員が組合員になって運営に関わることで、より効果的な意思決定ができ、より良い運営ができるというわけです。要するに、役職員がしっかり経営に関わらないとだめだ。単なる雇われ労働者として言われたことをやるのではなく、意識的主体的に組合員と同じ立場に立って考え行動することが、組合運営の当事者であるがゆえに非常に効果的だということを述べていると、私は理解をしました。

 もう一つ、「民主的意思決定の参加」については、「協同組合は、民主的な意思決定への参加方法を学ぶ場であり、そのため経済的要請を超えた公益を生み出す。それはコミュニティの強化にも役立つ。」と言っています。

 民主主義というのは、関与し、参加することが基本です。日本の社会では参加の度合いが間接的過ぎて、疎外感を感じている現実があると思いますが、今、参加を求める運動が世界各地で動いています。独裁政権に対する市民の直接参加要求である「アラブの春」。富の大半を握る一%に対する排除された九九%の反乱である「占拠(オキュパイ)運動」。多くの普通の人たちが「ものを言う」動きが出てきています。

 それを「ブループリント」は重視しています。「協同組合の先駆者たちの時代は、参加はそれ自体が目的ではなく、目的を達成するための手段だった」。けれども、特に市場主義で一部の大企業がどんどん富を集積してしまう中、「現代、先進経済・機関が市民のニーズに応えられなかったことで、今日の情勢は激変した」。そして「誰かが問題を解決してくれるのをのんびり待つという考えは、もう賢明ではない。」と言っています。自らが参加を求めて動かないと社会は変わらないし、自分たちの生活は良くならないと言っています。

 「幅広い民主的参加を含む『参加』は、それ自体が目標となり、少数のエリートに集中した権力に対抗する手段、過去の古いやり方に異議を唱える手段となった。」と書いています。だから「参加」は大事であり、その担い手が協同組合だという論理です。

 さらに「参加や関与の新たな可能性、新世代の組合員の関心と関与の必要性」ということで、新世代の組合員が関与できる仕組みが必要ではないかと提起しています。

   持続可能性

 もう一つのキーワード「持続可能性」についてです。

 「ブループリント」の論理は、協同組合は「さまざまな利害関係者に対する成果を『最適化』することをめざす」ということです。地域の生活者、農業者、中小企業家、自営業者…様々な人たちの利害を調整しながら成果を最適化できるのが、協同組合です。株主の利益を目標に運営をしている資本制企業との違いです。一部の人の利益だけを優先しないから協同組合は持続性を持つのだというわけです。

 私たちはリーマンショック以降、大きな経済的危機を経験しました。「これらの危機は全て、人類のニーズよりも経済的利益を優先した事業モデルに起因している。これは利益を私有化し、損失を社会化しようとするモデルである」と言っています。サブプライムローンや東電は、利益は自分たちがとって、混乱のツケはみんな社会に回したわけです。

 「協同組合は人類のニーズを中心に据えることで、今日の持続可能性の危機に対応し、他と異なる『共有価値』を提供する。協同組合は特定の利害関係者の利益を『最大化』するのではなく、さまざまな利害関係者に対する成果を『最適化』することをめざす。」「より幅広い費用と効果(現在と未来の)を考慮すれば、協同組合は、投資家が所有する企業より効率的だということである。」
これは竹中平蔵氏などに聞かせてやりたい。彼らは、効率的なのは資本制企業だと主張してきた。これからは、農業も、医療・病院も株式会社にやらせれば効率的だと言う。だけど、どこかでそのツケを回されたらたまったものではないですよね。

 短期的な利益ではなく長期的に利益を考えると、本当の意味での効率性というのは株式会社ではなく、協同組合にあるのだと言うわけです。

 さらに、「持続的可能性」を経済的、社会的、環境的の三つの側面から検証しています。

 経済的側面では、「株主の価値ではなく、利害関係者の価値」「企業形態の多様性」。社会的側面では「社会関係資本形成(ソーシャル・キャピタル)への効果」、「社会サービスの提供」。社会関係資本とは、人間の社会関係を形作る力です。人々の社会的なつながりが強まることによって、教育効果が上がる。人間らしい行動ができる。倫理的になる。ならば、協同組合は社会関係資本の形成に大きな効果があるのではないかと言っています。

 環境的側面では「環境への懸念をストレートに表明可能」、「マイナスの外部影響を特定の利害関係者にだけおしつけにくい」。協同組合は、資本と違い環境に関して利害関係がないから、ストレートに問題提起ができます。

   アイデンティティ

 「アイデンティティ」と「メッセージ」は分けないといけない。「アイデンティティは、協同組合セクターそれ自体と組合員のためにある協同組合の意義であり、メッセージとは、協同組合のアイデンティティを、教育、情報提供、マーケティング、ロゴ、非組合員の関心を集めるためのその他の手段を通じて、外の世界に伝達・発信する方法を指す」。だから、メッセージを大事にしましょうということです。

 最近、JAについて「あの悪名高いJA」とか、「専業農家をいじめている」とか、「金融、信用事業でお金をもうけている」というマイナスメッセージが、一部のマスコミや評論家から垂れ流されています。山下一仁という元農水官僚などは、キヤノングローバル戦略研究所にいて、「JAは兼業農家が支配して、専業農家がいじめられている」などという話を、WEDGE(ウェッジ)などの雑誌で垂れ流しています。

 私は農協の社会的存在意義を、地域社会を支える協同組合として、特に高齢化した地域社会を支える協同組合としてどうあるべきかというテーマで研究を始めています。長野県のJAあずみは、ディーサービスの施設を持っていますが、これに組合員組織や、助け合い組織や、ボランティア組織と結びついて、民間のディーサービス施設とは違う運営をしています。これは協同組合らしいやり方だと思います。

 JAにとって「高齢化した地域社会を支える」というメッセージの出し方は大事です。「信用事業ばかりやっている」とか、「専業農家をいじめている」というマイナスメッセージに対して、協同組合が果たしている役割を発信することは大事ではないでしょうか。

 ついでながら、「ブランド・ロイヤリティ」に関していえば、「ブランドは消費者にとって魅力的な特性を示す表面的なイメージに近い。協同組合セクターには馴染まない。」と言っています。

   日本の協同組合の課題

 日本の協同組合は、「参加」の具体的形態をどう考えるのか?

 私はJAについては「集まる場をどうつくるか」という問題提起をしていますが、「ブループリント」に、とくにそのような言及はありません。「運営への参加」、「情報を得る」、「意見を言う」、「代表する」ことが「参加」であると書いてあるので、そこに組合員が幅広く関わるにはどうすればいいのか。私は「事業利用」「運営(ガバナンス)」に「活動」を加えること。「共感」の意識的形成の必要性などを考えながら進めていくべきではないかと思っています。

 また、「持続可能性」について、「ブループリント」に「地域」という発想はありません。でも、農協も生協も、地域のくらしへの責任と配慮を意識してきました。東日本の震災と原発事故でも、「地域を支える」という視点を強く持ってきた。これは日本の協同組合の大きな特性だと思います。この特性をメッセージとして発信することも大事だと思います。

 特にJA、漁協、森林組合は、農地や漁場や森林という地域の資源と結びついて存在していますから、地域から逃げられない。地域にしっかり根ざして、地域を支え、地域から支えられる関係を作っていくことが、協同組合にとって大事な視点だと思います。

   協同組合の「法制度」と「資本」

 第4章「法的枠組み」(協同組合の成長を支える法的枠組みを確立する)」。「模倣は容易な選択ではあるが、それに抗して適切な認知と扱いを受けるために闘うのでなければ、協同組合は同質化のなかで、その特性と事業的優位性を失う危険を冒すことになる」と「ブループリント」は書いています。法的枠組みを作れ、協同組合を支援するというメッセージを国が出すべきだというのがICAの見解です。

 これをどう実現するのか。二週間ほど前、韓国の協同組合研究所の視察団が彦根に来られました。その時に「IYC後の日本の協同組合間協同の在り方、見通しについてどう思いますか」と聞かれ、私は「決して見通しが明るいとは言えない」と答えました。理由は共通のテーマがないからです。協同組合は組合員のために必要なことはやるけれども、協同組合グループのためにというモチベーションは低いからです。

 視察団の方は、「例えば、地域格差などの社会問題を解決するために国が一定の財政支援をしようとした時、その受け皿として協同組合組織を指定することはできる。そこに協同組合グループとしての発展はあり得るのではないか」と言っておられました。

 共通の目標、課題をこちらから作っていくということも大事かもしれません。こういう「制度を要求する」という運動の仕方もあるのだなと思って話を聞いていました。

 第5章「資本(組合員による管理を保障しながら、信頼性のある協同の資本を確保する)」。「リターンを提供しながらも、協同組合のアイデンティティを損なわず、人々が自分の資金を必要とするときに利用できる金融商品を提案。従来の組合員の枠を超えて資金調達源を求める広い選択肢」と書いています。組合員以外からの資金調達も視野に入れながら資本の強化を図る必要があるということですが、具体的なことは書いてありません。

 「ブループリント」には、いろいろなアイデアが入っています。大いに参考にしてください。私が共感するのは、「参加と持続可能性」を、根拠を示して整理したことです。

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