活動のご案内

トップページ > 活動のご案内 > 他団体との交流 > 第九二回国際協同組合デー・滋賀県記念講演会(1)

第九二回国際協同組合デー・滋賀県記念講演会(1)

滋賀の生協 No.168(2014.10.20)
第九二回国際協同組合デー・滋賀県記念講演会
地域との連携でつくる協同組合のバリューチェーン(価値連鎖)
~作る側、売る側、使う側、食べる側の持続可能なコミュニティーづくりについて~

2014年7月9日 滋賀県農業教育情報センター
主催 IYC記念滋賀県協同組合協議会

講師 青山 浩子氏
(農業ジャーナリスト)



 生産者、製造業者、流通業者、消費者がそれぞれの強みを活かし、産地の「こだわり」を大きな付加価値を生みながらつなげていく。このフードバリューチェーン戦略を地域活性化の目線で見直すとき、協同組合の可能性が浮き彫りになります。食と農の連携、食の安全・安心の確保などで、家族農業や小規模農業が果たしている役割を、全国の事例で紹介していただきました。

   なぜ「価値連鎖」が必要なのか

  みなさんこんにちは。青山浩子と申します。
 私は愛知県岡崎市の生まれで、今は東京に住んでいますが、大学は京都外国語大学で、その後四条通にある旅行会社に勤めていました。関西は第二の故郷だと思っています。

 私の肩書は「農業ジャーナリスト」です。農業の生産現場を取材して記事を書き、その原稿料で生活をしております。全国農業協同組合中央会発行の「農業新聞」「月刊JA」や、家の光協会の「家の光」「地上」など、JAグループにはお世話になっております。その他、「毎日新聞」にも農業に関するコラムで書いています。生産者対象と消費者対象の二つのカテゴリーで、農業に関する記事を書くのが私の仕事です。
 一か月のうち半分ぐらいは生産現場を歩いていますので、東京と地方に半々で住むという、バランスの良い仕事をさせていただいていると感謝しております。

 本日のテーマは「なぜ、価値連鎖が必要なのか」「価値連鎖が抱えている課題とは」に基づいて、うまく価値連鎖を実現させている五つの事例をご紹介したいと思います。初めの三つは「農産物の販売」に関わる事例です。残りの二つは、「食の教育」「防災」にかかわる事例です。農業の存在、また協同組合の存在は、農産物の生産、販売以外の役割も担っていらっしゃるという点について、頑張っている地域を二ヶ所ご紹介したいと思います。
 そうは言っても、どの事例も悩みを抱えつつの奮闘、活動ぶりです。どうやってその課題を解決していけばいいのか、将来に向けての私なりの考えをお話ししたいと思います。
プロフィール
愛知県岡崎市生まれ。京都外国語大学卒業。旅行会社で四年間営業を担当。第二の人生のスタートとして、韓国に語学留学。帰国後、韓国系商社に勤務。その後、船井総研に転職。農産物販売に関するコンサルティングを経験。一九九九年より農業専門のライターとして活動開始。

   生産と消費の距離を埋める

  私は、日ごろは東京に住んでおります。友だちはみんな消費者です。取材に行くとお仲間はみんな農家です。私の耳には、両方考え方が入ってきます。
 「農家の数が減っていると言うよね、農家はどんどんやめていくとか、高齢化で少なくなっていると新聞は書いているけど、私たちがこれから必要な食料は誰が供給してくれるのよ」という疑問を抱いている友だちがおりました。彼女はまた、今回TPPで遺伝子組み換え作物が入りやすくなるのではないかという心配もしていました。消費者は「食の安全、安心は、確保されにくくなるのではないか」と、すごく真剣に憂いているのです。

 一方生産者は、「消費者はなんで価格のことばかり気にするのか。小売店は寡占化が進み、バイイングパワー(調達力)が増し、一方的に生産者にしわよせがきている。ただでさえ農産物が安いのに、ますます採算がとれなくなる」という怒りにも似た声を寄せられる。

 私も痛切に感じるのは、安心、安全はコストが非常にかかっていますね。トレサビリティーをする。残留農薬の検査をする。農業生産工程管理(GAP)をする。いろいろなことをやっても、価格には反映されません。
 両者とも言っていることは本質的に似ているのですよね。生産者は農家の減少を不安に感じており、消費者が気にかける食の安全についても一所懸命やっている。
 消費者も、国内に農業は残ってほしいし、安全安心は確保してほしいしと思っている。それなのに、それぞれから話を聞くとすれ違う部分も多いように思います。

 じゃあ、その生産と消費のすれ違い、距離をどう埋めていくのか。
 それぞれ生産者は自分たちの思いがあります。消費者は消費者の思いがあります。でも、そこをつなげて、お互いに考え方を共有化して、生産者も成り立つし消費者も成り立つように折り合いをつけてこられたのが、双方の中間の位置に立っている生協であり、JAグループだと思うのです。
 その点について、まずはぜひ自信を持っていただきたいと思います。

   「価値連鎖」が抱えている課題

 ところが、その自信だけではやっていけなくなっているのも現実だと思うのです。
 生産者、流通業者、消費者という各プレーヤーの行為が、それぞれ経済的に成り立っていれば、価値の連鎖といえますよね。生産者は農業をすることで生計が成り立つ。流通業者は生産者から買ったものを消費者に渡すことで自分たちも給料がもらえる。消費者はそれを食べることで生活が成り立ち、その価値を対価という形で生産者に戻していく。この価値の連鎖がたぶん今まで協同組合がモットーとされてきたことだと思うのです。

 連鎖は今もしている。生産から消費までモノはちゃんとつながっている。しかし、価値連鎖になっていないですよね。
 生産者は、儲からない上に、安心、安全のコストがのっかかっている。消費者も、安倍首相は「景気が良くなった」と、なぜかここにきて急に日本のマスコミも「景気が回復した」という論調で言っていますけど、私の周りでは回復したという感じもしないし、可処分所得はほとんどの国民は減っていると思っている。
 なぜですかね。家計簿を見ると、携帯代が非常にかかっています。国民は通信費を払うために、教育費、被服費、交際費、食費を切り詰めている。可処分所得の減少で、消費者が価格重視を強めているのは明らかだと思うのです。小売業者もまだまだ安売りの傾向には歯止めがかかっていないように思います。

 今日は辛口でお話をさせていただきますが、産地も価値を本当に伝えているのか。産地の皆さんはすごく良いことをやっているのですが、生産者自身が「こんなのは価値がないのではないか」と、消費者や小売り業者に価値の主張ができていないと思うのです。
 それでも、今までこの連鎖が停止しなかったのは、日本人の多くに貯蓄があったからだと思うのです。貯金がしっかりあったので払っていくことができた。農家の高齢者の方もしっかり貯めておられたから、農産物の価格が高くなくてもなんとか暮らしていけた。
 ところがこれからはそうはいきません。消費者もますます生活を切り詰めていかなければいけないし、生産者の方も蓄えが減ってきている。ですから今が、両方の生計が成り立つような、本当の価値の連鎖と作っていく転換期だと思うのです。ご自分たちがやってこられた事業を再構築するタイミングに来ていらっしゃるのではないかと思うのです。

▲TOP