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第九二回国際協同組合デー・滋賀県記念講演会(2)

滋賀の生協 No.168(2014.10.20)
第九二回国際協同組合デー・滋賀県記念講演会
地域との連携でつくる協同組合のバリューチェーン(価値連鎖)
~作る側、売る側、使う側、食べる側の持続可能なコミュニティーづくりについて~

2014年7月9日 滋賀県農業教育情報センター
主催 IYC記念滋賀県協同組合協議会

講師 青山 浩子氏
(農業ジャーナリスト)

   冷凍野菜の価格比較の意味

 大手量販店で、中国産と国内産の冷凍野菜の価格を比較してみました。
 私は冷凍野菜をあまり使わないので、その安さにびっくりしました。ほうれん草だけは、いまだに中国冷凍野菜の残留農薬事件が頭にあるようで、あらゆる量販店が国産です。ですので、ほうれん草は二二八円。ところが枝豆、インゲン、ブロッコリー、里芋、ミックス野菜などは、安いスーパーだと一四〇円とか一五〇円だったのです。
 パルシステムの冷凍野菜も調査させていただきましたが、全て宮崎県や千葉県の原料を使った国産で、価格は三〇〇円ですね。量販店と比べると倍の差ができてしまう。
 ただ、パルシステムは組合員が支持しているし、これくらいを提示しないと生産者の再生産がかなわないという、非常に理にかなったことをしているのですが、果たしてこの倍の価格が将来的にも支持されるかどうか。
 私は、消費者のニーズは多様なので、安売りを欲しがる消費者だけにはならない「少し高くても国産の安心できるものを使いたい」という消費者は一定量いると思うのですね。
 ただし、可処分所得がだんだん少なくなっていくと、「国産を愛好したい」という消費者をどこで守ることができるのか。またどうやってこういう組合員を新しくつくっていくのかというところが、大きなポイントなのかなと思います。

国内産冷凍野菜は中国産の倍の価格

   積極営業で環境保全型農業

 そこで、農産物の販売関連で、実際に地域の価値をしっかりと連鎖させている産地を、三事例をご紹介します。

 一例目は、コウノトリで有名な兵庫県豊岡市を基点としているJAたじまの「コウノトリ育むお米」の販売戦略です。
 私もこの取材でコウノトリを見ることが出来ました。普通に飛んでいます。自然に野生化したものが百羽ぐらいいるのですかね、田んぼに来て虫を獲っていましたし、春には親鳥が鉄塔に巣を作って卵を温めています。
 JAたじまは、コウノトリの野生復帰成功をきっかけに、平成一七年「コウノトリ育むお米」を積極的に販売し始めました。ですからまだ十年経っていませんが、この売り込み方が「JAらしからぬやり方だな」と思いました。

 環境にやさしいお米をつくる場合、普通は生協に「うちと産消提携をやりませんか」と持ち込むと思うのですね。ところがJAたじまは敢えて、量販店に持ち込んだのです。
 なぜかというと、生協は、もう二〇年、三〇年と産消提携を結んでいる産地があって、JAたじまは後発隊なのですね。それであれば、「自分たちは敢えて別のルートを捜そう」と、大手量販店に話を持って行ったそうです。
 一般的に量販店は価格にシビアで「こういった環境保全型の割高のお米を引き取ってもらえるものだろうか」と思うのですけど、量販店も「今までにない新しいタマ(商品)」を捜しているのですよね。
 JAたじまの担当者も「行ってみないとわからなかった」と言っていますが、上手だったのは、自分たちの産地が小さいことを逆に強みにしたのです。これが大きな産地だったら「環境保全型は普通のお米よりも高いから、そんなに大きな量にはさばけません」と却下されてしまうと思うのです。自分たちの強みであり、弱みを知っていたからこそ、敢えて一般の量販店に話を持ちかけたのだそうです。
 かつてのJAたじまは全くそういう営業をやってこなかったそうです。「米」という商品は一つしかなかった。「これではダメだ。自分たちのお米をしっかりと売っていかなければ」ということで、経済連、全農には一応仁義を切った上で直接営業したところ、この大手量販店は、これまで自ら営業に来た単協がなかっただけに、その心意気を買ったそうです。
 はじめは四店舗からの実験的販売でしたが、好評だったので翌年には一五〇店、三年目は四百店とドンドン伸びていきました。

 JAたじまの「コウノトリ育むお米」は、コウノトリがついばめる虫が生息できるように、有機あるいは減農薬で、「冬水田んぼ」にして栽培しているのです。なので、生産者にとっては非常に作りにくいわけなのです。でも最初は「環境にやさしい」というポイントを出さないで営業を優先し、後から「実はコウノトリ育むお米というのは、環境についてもちゃんとしています」というやり方で流通業者の心を捉えました。
 生産者に対しても、まず「仮渡金」を払って最後に精算するというのが、通常の委託販売ですが、それでは相手と価格交渉できないし、生産者にはこういうリスクのある米作りをしてもらっているというリスクもあるので、生産部会と事前交渉し一定価格で買取る「一括精算方式」を導入しています。無農薬米の小売価格は五キロで、三千五百八十~五千円、減農薬が三千百円~三千五百円ということになっています。
 平成二四年時点で同JAの米を扱う量販店はおよそ五百店。インターネット通販でも月に約二百万円の売上となっています。販売実績は約千トン。JAが集荷するコメの約一〇%です。「コウノトリ育むお米」の部会員は二四八人、面積は二六七ヘクタール。「コウノトリ育むお米」以外にも、特徴ある米を商品開発し特性にあった販路を開発しています。集荷するコメの三分の一はJAによる直販です。
 この大手量販店以外にも、沖縄のスーパーとの取引も増えています。四国、兵庫で展開している自然派コープとは産消提携をして、田植えや稲刈りの交流も行っています。バスでやってくる三、四十人を受け入れ、昼食を用意しお買い物もできるというのは、女性部があり、直売所もある協同組合ならではの良さを遺憾なく発揮している点だと思います。

 お付き合いのあるバイヤーが変われば、産地も変わるという話は良く聞きます。「これをやられたら困る」ということで、JAたじまでは「コウノトリをまもる連絡協議会」をつくり、くだんの大手量販店に入ってもらったそうです。そうするとバイヤーが異動しても、その量販店の名前がある限り取引を継続できます。生産者の方から、流通業者の癖や傾向を見ぬくというところは、たいしたものだなあと思います。
 「コウノトリ育むお米」の意味が理解できていない消費者がほとんどだそうです。「コウノトリがお米を餌として食べているのですか」「合鴨のように、コウノトリを水田にはなって雑草を食べてもらうのですか」などトンチンカンな答えが返ってくるそうです。そこで交流会ではスライドなども使って「こうしてコウノトリに餌場として田んぼを提供しているのですよ」と説明する。すると翌日のネット販売の注文が増えるそうです。販売担当係長に聞くと、「リアルな交流がインターネットの注文につながっているはずだ」と、生産方法や想いをしっかり伝える交流の大事さを強調されていました。

 このように「何の為に交流をするのか」「どうやってバイヤーとも、量販店ともお付き合いを続けていくのか」という戦略を描きながら、基本である「コウノトリ育む」という農法をしっかりと位置づけている。こういう戦略をしっかり立てているJAは少ない、特にお米に関しては少ないように思います。やはりお米は、食管法の時代から、他者依存型だと思うのです。卸に依存する。あるいは生協に依存する。
 それだけに、後進産地ゆえに営業と環境を結びつけざるをえなかったJAたじまの、協同組合としての販売戦略が、私には非常に印象に残りました。

コウノトリの野生復帰が成功した兵庫県豊岡市

コウノトリの餌場となる水田で栽培された
「コウノトリ育むお米」

   商工連携で地域特産品を作る

 次は静岡の事例です。これは、産地農家の悩みである、規格外品の処理の仕方です。
 規格品は、それが特産品であればそこそこの相場がつくし、JAも一所懸命市場に売り込みます。しかし、一割から三割ほど出てしまう規格外品は、どこの産地の品目も二束三文でたたかれてしまいます。そこが生産者の所得にとって非常に残念な部分ですよね。

 この規格外品に光を当てて頑張っている産地が、JA三島函南(かんなみ)という、箱根一帯を管内とする産地の農協です。ここは土壌が砂地でサラサラしていますので、肌がきれいなメークインの産地です。しかも収穫をしてから一週間ぐらい「風乾貯蔵」し、その後選別して出荷するという手間を掛けているので、特にメークインが喜ばれる関西市場では、日本一の高い相場がつくそうです。

 ところが規格外品となると、特産地ブランドの価値は全く消えて二束三文になってしまう。B品であってもそれなりの手間を掛けているので、「なんとかならないだろうか」というのが農家の切実な思いです。その思いを酌んだ一人の営農職員がいました。日頃農家にお邪魔をすると「B品でも定価をつけて売れないだろうか」と必ず言われていたそうです。

 そこで、その伊丹さんという職員は視点を変えてみました。「規格外品だけれども…」という生産者側の視点では、買ってくれたとしてもせいぜいキロ一、二円高くなるだけだ「これは違う視点から考えないとダメだ」ということで、商店街とか外食産業の人と一緒に話し合いをしてみました。そしたら驚きの発言が飛び出したのです。
 「三島山麓のじゃがいもがブランドとは知らなかった。特産品だというのは聞いたことがあるけれども、食べたこともない」生産者の想いと、そこに住んでいる地元の人とのギャップは、意外と良くあることなのですね。そして、「そんなにいいものがあるのだったら、何か面白いことやってみよう」ということになりました。

 三島には、冨士の湧水が町中を流れ、遊歩道があります。市としても、もっと遊歩道を歩いてほしいという意向がありました。そこで、「この馬鈴薯でコロッケを作って食べ歩きをしてもらおう」と、三島市が事務局となり、農家、JA、商店街、行政で「みしまコロッケの会」を発足させました。
 三島産馬鈴薯を使ってくれれば、どんなコロッケでも良いという、フリーな条件で店舗を募ったところ、「みしまコロッケ認定店」は百業者を超え、いまでは千を超える店舗でみしまコロッケを販売しています。メークインの価格交渉では、伊丹さんが頑張りまして十キロ千三百円。これはB品としてはかなり良い価格だそうです。しかし、加工業者にしてみれば、例えばコロッケ定食でも六百円、七百円と付加価値を付けられますので、呑めない価格ではなかったようです。伊丹さんは、生産者の感覚と実需者の感覚は違うのだということに気がつきました。

 毎年生産される五百トンの馬鈴薯の一割にあたる五十トンが、コロッケ用に使用されています。生産者は「定価で買ってもらえる上、地元の人に馬鈴薯を食べてもらえるのはありがたい。収量を増やすとか、A品を増やすのは自分たちの役割だけれど、底がしっかりとしているということは、頑張りがいがある」と言っていました。

 「グルッペ」というパン屋さんの奥さんは、「みしまコロッケぱん」という白いパンを開発しました。そして、そのパンを、ご当地の素材を使ったパン日本一を競うイベント「日本全国ご当地パン祭り」に出品したところ、なんと一位になってしまいました。
 また、この方は、「みしまコロッケの会」に入ることで、農業をすごく勉強され、土づくりとか、なぜこの箱根の土が良いのかとか、なぜじゃが芋の味が良くなるのかということを、農家よりも上手にしゃべります。農家の人はおいしいじゃが芋をつくれば良い。お商売屋さんにはお商売屋さんの良さがあるわけですね。
 それで、一位になった「グルッペ」の奥さんは気を良くして「次の年も一位を取りたい」という意欲が芽生えてきました。「この土で作っているのだから、他の野菜もおいしくないはずがない」と、別の食材探しに奔走します。伊丹さんの「ニンジンもおいしいのですよ」というアドバイスで開発したのが「みしまフルーティキャロット」というパンです。生地にも、中のクリームにもニンジンが入っていますが、これがまた日本一になったのです。このように、商店街を上手にまき込むことで勝手にうまく広げてくれるのですね。

 ここの教訓は、JA職員がB品の価格設定で「これ以下の価格では売れない」と意地を見せたことだと私は思うのです。そして、フットワークとネットワーク。商店街とか、やり手の女性起業家と連携を築いたことで、ここまで広がりが出てきたのだと思います。

水はけの良い肥沃な火山灰土壌を活かした馬鈴薯

「第3回日本全国ご当地パン祭り」で一位となった
「みしまコロッケぱん」

「みしまコロッケの会」で農業に詳しくなった
「グルッペ」の石渡さん

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