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二〇一五年度国際協同組合デー記念講演会(3)

滋賀の生協 No.172(2015.11.2)
二〇一五年度国際協同組合デー記念講演会
コーヒーのフェアトレードとコメの産消提携
~農業を買い支える仕組みと協同組合~

二〇一五年七月四日(土) 滋賀県農業教育情報センター第三研修室

講師 辻村 英之氏
(京都大学大学院農学研究科准教授)

   フェアトレードの限界をこえるCSAの買い支え方

 既に説明したように、コーヒーの価格は大きく乱高下します。

 たとえば二〇〇八年のリーマンショック以降、株の売買で利益を得られなくなった投機家のお金が、コーヒーを含む農産物の先物市場に入り込んで来て、二〇〇二年のコーヒー危機時の価格(四一・五セント/ポンド)の七倍に高騰しました。

 このような価格の乱高下に目を奪われ、フェアトレードによる最低価格保障の意義に満足していたわけです。

 ところがフェアトレードで最低価格を保障しても、国際価格が高騰しても、生産者の販売収入がなかなか上がらないことを実感しました。特に価格高騰で大喜びしていた二〇一一年、東アフリカは大干ばつに見舞われ、キリマンジャロ山中のコーヒーも影響を受けて、水分不足で充分熟さずに落果してしまうという大凶作でした。しかしその次の年は、雪が積もったかのようにコーヒーの白い花が咲き乱れ、豊作となりました。

 このようにフェアトレードは、価格リスクには最低価格保障により対応できますが、自然変動にともなう収穫量の変動、すなわち収穫量リスクに対しては無力です。価格保障をしても、収穫量が激減したら販売収入は減ってしまう、生産支援できないことになります。

 このようにフェアトレードの限界があからさまになり、他の「農業を買い支える仕組み」においてはどのように対応しているのか、興味を抱きました。そこで注目したのが、特にアメリカで普及しているCSA(Community Supported Agriculture・コミュニティが支える農業)です。

 このCSA(特に原理的事例であるCommunity Farm)の買い支え方は、フェアトレードの買い支え方とどう違うのか。

 フェアトレードは途上国の小規模農業・生産者に対する最低「価格」保障ですけど、CSAは地元の有機農業・生産者に対する最低「所得」保障です。生産者が生産を始める前に、消費者が販売代金を先払いして、その資金を使って生産してもらい、収穫できたものは全量を野菜ボックスに入れて取引をする。

 消費者グループ(コミュニティ)が求める有機農産物を、自らが生産できないため、代わりに地元の農業者に作ってもらう。この生産委託を持続的なものにするため、それを保障する最低所得(販売収入)を生産前に決め、生産前に農業者に支払う。そして収穫できた全量をボックスで受け取る。それが(原理的)CSAです。

   四つの農業の買い支え方

 CSAの全量買取りと価格と量についての前決・前払(収穫量リスク対応策)。フェアトレードの価格保障(価格リスク対応策)と還元金・基金。農業(大きな収穫量と価格の変動リスクを持つ)に対するこの四つの買い支え方を表現できるようなモノサシをつくってみました。(図2)

 原点が市場価格で、Y軸は購入価格の水準です。市場価格よりも上に行くほど持続的生産に貢献する、提携的な買い物ができている。私たちのフェアトレード・プロジェクトは、特に国際価格が暴落した年度、Y軸のかなり上の方に位置している。

 X軸は購入代金について、前払いしているか、前に決めているかの水準。それらが早いほど、生産者は安心して生産ができる。つまり右の方へ行くほど、提携度合が高い買い物になっている。コープしがの産直一株トマトは、先に一株三六八〇円で一株登録しておいて、それを九回か十回に分けて届けられる。代金はその都度なので前払いではないのですが、販売代金は前決めで、X軸の右側の方に位置する提携的な買い物だと言える。

 Z軸は、どのぐらいまでできたものの量を保障しているか。収穫できたものを全部買い取れば生産者は助かる。奥の方へ行けば提携度合が高いという軸です。

 もう一つは、還元金です。フェアトレードは単位当たりの還元金×量。この面積に相当する金額が、産地に還元される。京都生協のさくらこめたまごは、一個当たり一円が上乗せされて、それが産地の方に戻っていく、生産者を支えることができていると言えます。


(図2)提携型取引の三次元のモノサシ

   共同開発米事業の提携度合

 生活クラブ生協と遊佐町農協の「共同開発米事業」は、この四つの買い支え方を試みていると言えます。

 「共同開発米」とは、遊佐町農協の共同開発米生産部会と生活クラブ生協の組合員が共同で開発した米のことで、いくつかの銘柄がありますが、「標準米」と呼称されているのは、減農薬のひとめぼれ(八〇%)とどまんなか(二〇%)のブレンドです。

 この共同開発米を生産するために、山形県遊佐町の水田の六割が利用されています。その一方で、生活クラブ生協が消費している米の六割が共同開発米です。「六割どうしの支え合い関係」が実現しております。

 この共同開発米事業に、上記の提携型取引のモノサシを当てはめてみますと、右上奥に位置付けられます。四つの支え方ともにレベルの高い、すなわち提携度合の高い買い支え方ができているわけです。(図2)


   「生産原価保障方式」と「討議型価格形成」

 彼らが「生産原価保障方式」と呼ぶ価格形成は、生産原価をそのまま生産者価格に反映させるものではなく、生産原価を一つの参照基準として、「産地別推進会議」で議論して生産者価格を決める、「討議型価格形成」と私が名付けたものです。

 まず、生産者側(共同開発米部会)が生産原価計算書を提示します。この生産原価は実際の現金支出だけではなく、実際には払っていない家族労賃などを擬制的に算入した「全算入生産原価」のことであり、そのまま生産者価格となれば、持続生産を可能にする提携的な価格水準と言えます。

 しかしそうではなく、同計算書をたたき台にした、生産者代表(共同開発米部会の部会長など)、消費者代表(生活クラブ単協の消費委員長など)、JA庄内みどり遊佐支店代表、生活クラブ連合会代表による議論が行われます。その場では、消費者代表が現在の「市場価格」の水準を提示し、それがもう一つの参照基準になります。その両者の議論を踏まえてじりじりと価格を近づかせていく。正式には二回の推進会議で価格を決めることになっていますが、とても決まらず、何度も非公式な会議を重ねる。最後の段階では、農協と生協の職員が調整に入って、何とか妥結できる価格を見いだしていく。


山形県遊佐町の水田

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