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消費者月間記念シンポジウム 晩ごはん何にしますか?(1)

滋賀の生協 No.171(2015.8.5)
消費者月間記念シンポジウム
晩ごはん何にしますか?
~食生活から考える消費者市民社会~

2015年5月30日 ピアザ淡海(滋賀県立県民センター)三階大会議室
主催 滋賀県・特定非営利活動法人消費者ネット・しが

講師 高橋 久仁子氏
(群馬大学名誉教授)




   氾濫横行する食情報
 今、いろいろな食情報が出回っています。「動物性食品は体に悪い」という人もいれば、「動物性食品食べ放題OK」という人もいる。「原始人式食事法」などで、「原始時代の人は病気にならなかった。肉ばかり食べていたからだ」と言っても、「二五歳ぐらいで死んでいたら、成人病、生活習慣病になる暇もないでしょう」と言いたくなります。

 「食さえ良くすれば全ての病気は直せる」と言う人たちもいます。食生活で守れる健康の限界を弁えましょうよ。「炭酸飲料は骨を溶かす。」もよく聞きますがどうやったら溶けるの?「グルテンが悪い」と言われて、グルテンアレルギーでもない人が、グルテンフリー食にはまり込んで行く。「牛乳、ヨーグルトは体に悪い」とも言う。一定量の乳・乳製品の摂取が日本人の健康状態を良くしたことは、疑いようのない事実です。
プロフィール
群馬大学名誉教授。メディアに惑わされない食生活教育を模索している。食や健康の情報を有効に活用するために「フードファディズム」の考え方を啓発。著書に『「食べもの情報」ウソ・ホント』(講談社)など。

   メディアリテラシー
 世の中には「我慢しないで、食べたいものを、好きに食べても、やせられる」という期待や願望があります。現時点で、実用的にこういうものはありません。しかし、いかにもこういうものができたかのような宣伝、商品、テレビ番組が渦巻いております。

 そして「いくら食べてもこれさえ飲めば、痩せます」という製品で、命まで落としています。二〇〇二年、食欲不振をおこすN‐ニトロソーフェンフルラミンという物質が添加された中国製痩身用健康食品で四人が亡くなり、八百人以上が肝臓障害を起こしました。

 痩せ願望の強い学生が「どうやったら変なものを見分けられます?」聞いてきます。「そもそも我慢しないで、食べたいものを好きに食べても痩せられる。そういうものはない。あるかのように言うことが変なものだと思え」と言い聞かせます。

   フードファディズムの概念
 私は、フードファディズムの概念を二十数年主張し続けていますが、抵抗勢力に普及を阻まれています。この概念が広がると消費者が冷静になり無駄な消費が減る。たぶん、フードファディズムに踊る消費者でありつづけることが、経済活性化なのだと思います。

 フードファディズムは「食べ物や栄養が、健康や病気へ与える影響を過大に評価したり信じること」と定義されます。
 この中には、小さなことを大きく言う「針小棒大論」、動物実験で得られた結果がすぐに人へも当てはまるかのように解釈する「科学的知見の拡大解釈」、捻じ曲げた解釈の「曲解」、そして、人々が何となく信じている科学的根拠のない「神話」があります。

 フードファディズムは、三つのタイプに分けられます。
 一つは、健康効果を騙る食品の大流行です。「紅茶きのこ」「酢大豆」「野菜スープ」「ココア」「にがり」「寒天」「白インゲン豆」「納豆」「バナナ」「トマトジュース」と続きます。「これさえ食べれば、あっという間に痩せられる」というものが、典型的なフードファディズムです。

 二番目が「量の無視」です。ある物質を大量に与えた時に出てきた影響を、量を無視して一般化する。有害性を発揮するにも、有益性を発揮するにも量の考慮が必要なのですが、定性的にのみ、ものを言って定量的に考えない。

 三番目は、「食品に対する期待や不安の扇動」です。「食さえ良くすれば健康万全」と主張する方たちがいる。食で守れる健康、防げる病気の範囲は広いですけど、食が関与しえない深刻な病気もたくさんあります。そして、特定の食品の推奨や排除。「食品添加物はすべて危険」「水道水は危険」と言って脅かす。「良い食品」「悪い食品」と単純に二分する。

   神話・うるおうコラーゲン
 「飲むたびにうるおいを」と書いているコラーゲン商品があります。私どもは二〇一一年に「飲むたびにうるおいをとは、具体的にどういうことでしょうか」「おいしくうるおうとは、何がうるおうのでしょうか」というような内容の質問状を、二九社に送りました。

 一一社から返事がありました。そのうちの六社は「申し訳ありませんが、この質問にはお答えできません」という「まじめな」お答でした。残り五社のうち三社は、「本当にわけわからなくて売っているのかしら」というような返事でした。

 最後の二社は、「文字通り飲んでいただいて、喉をうるおしてほしいという意味です」、「止渇作用によってのどをうるおします」というお答えでした。ここまで開き直って答えられると、「コラーゲン神話」に乗っかって商売をしていると言いたくなります。

   量の無視・タマネギと血糖値
 「タマネギから分離・抽出したS‐メチル‐システインスルホキシドを四五日間、糖尿病ラットに投与したら血糖値が低下した」。これは一九九五年の論文です。この論文から言えるのは、「タマネギは血糖値を低下させる物質を含む」ということです。

 でも、「だからタマネギを食べると血糖値が下がる」と言えるのか。ラットに与えたS‐メチル‐システインスルホキシドの量は、体重五〇キログラムの人に換算すると、五〇キログラムのタマネギに含まれる量です。血糖値を下げる量の摂取は無理ということです。

   マスメディアとフードファディズム
 七年ほど前、歌手が「朝バナナにしたら七キロ減量した」ということで、スーパーの売り場ではバナナが品薄になり、お詫びのポップも貼られました。これを私は「バナナ品切れ騒動」と呼んでおります。

 その方は百キロを超す大柄な方で、朝から千数百キロカロリーを召し上がっていた。その方が、朝食をバナナ二、三本にしたら、マイナス千キロカロリーくらいの食事になるわけです。それを数か月続ければ、七キロぐらいの減量はいたします。

 こういうブームが起こりますと、それに便乗するかのように、「朝バナナと常温の水を摂ると痩せる」などと、まことしやかな嘘を言う、専門家と称する人も出てきたりいたします。

 某テレビ番組が、二〇〇七年一月七日の夜、「一日二パックの納豆を朝晩良くかき混ぜて二〇分放置して食べると痩せられる」という番組を放送しました。すると、その日のうちに、納豆売り切れ・品切れ騒動が全国各地で起こりました。しかし、この一三日後「番組内容はねつ造でした」という謝罪会見が行われました。

 それまでも、学術情報から都合の良い所だけピックアップする事例はありましたが、測定してもいない血中物質を測定したかのようにねつ造していたのです。

   健康食品で健康が買えるか
 「健康食品」は、フードファディズムに満ち満ちている領域です。行政的にも、学術的にも「健康食品」の定義はありません。販売側は「健康食品は食品だから安全です」と言いますが、何の根拠もありません。食品といえども危害要因になり得ます。そして、消費者側には「体によいものが、悪いはずがない」という思い込み、思い込まされがあります。

 健康食品が包含する問題性を、十項目に分類しております。
(1) 有毒物質の含有 (6) 医薬品利用者での薬剤との相互作用
(2) 医薬品成分の含有 (7) 食生活改善の錯覚
(3) 一般的食品成分でも病態によっては有害 (8) 生活習慣見直し不要の錯覚
(4) 抽出・濃縮・乾燥等による、特定成分の大量摂取 (9) 治療効果の過信で標準医療の軽視
(5) 高齢者の代謝に過剰な負担 (10) 非食品の食品化

   特定保健用食品の効果は限定的
 「健康食品」の中で保健機能を謳えるものは、従来「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」でした。そこに四月から新たに「機能性表示食品」が加わりました。これは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品です。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られます。届け出られた情報は、消費者庁のウェブページで見ることができます。その論文を読んでみると、これがひどいものです。

 そもそも「厳重な審査を経て許可された」と自慢するトクホでさえ、その効果は微々たるものでしかありません。
 クロロゲン酸コーヒー飲料はこれを一二週間にわたり継続飲用した結果、「おなかの脂肪面積が九・三平方センチメートル低減」との線グラフを宣伝に使っています。おなかまわりが九・三センチメートル減ったわけではありません。

 この結果に、いかほどの意味があるのだろうかということです。嘘でなければどう表現しても良いというものではないのではないかと主張し続けています。

 トクホのコーラ飲料が二〇一二年、相次いで二商品発売され「食事の際に脂肪の吸収を抑える」と派手に宣伝しています。両商品とも難消化性デキストリンが五グラム添加されています。どの程度「脂肪の吸収を抑える」のか根拠となった論文を読むと、飲んだ人は、飲まなかった人より、糞便中の脂質の量が〇・二二グラム多い。このことを理由に「脂肪の吸収を抑える」と宣伝しています。

 特保マーク付のEPA・DHAドリンク。一本三百円の飲料です。EPA+DHAの合計は、〇・八六グラムです。「いわし蒲焼」百グラム一缶にDHA+EPAは三・五グラムです。「さんまみぞれ煮」は、EPA+DHAで、四・六グラムです。どちらも百円ぐらいです。

 トクホでさえ、効果はこの程度です。審査を経ない機能性表示食品は「企業等の責任のもと」です。消費者庁は内容まで見ていないということですので、書類としての形が整っていれば、届け出を受理せざるを得ないという状況です。

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