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NPT再検討会議の成果と課題(2)

滋賀の生協 No.152(2010.7.28)
2010年NPT再検討会議参加報告集会
NPT再検討会議の成果と課題(2)
5月29日(土)草津まちづくりセンター
NPT再検討会議の成果と課題(2)

   NGO国際平和会議での潘(パン)国連事務総長の演説(五・一)

 実はこのNGOの会議に潘(パン)事務総長自らがやってきました。その演説は感動を持って受け止められます。

 「私は事務総長に就任した最初から、核軍縮は自分の課題だと思っている」「核軍縮は緊急に必要だ」「それを達成する決意だ」と述べました。さらに踏み込んで「核兵器禁止条約の締結という考え方。これは私の考え方なのだ」「それを皆さんが支持してくれていることに感謝をする」と言った。私たちの声が国連事務総長に確実に届いているということでした。

 しかも、潘基文(パン・ギムン)さんは韓国の方です。韓国にとって、広島・長崎への原爆投下は、朝鮮半島を植民地から解放する「勝利の狼煙」だったのです。だから、韓国の人たちの中には、「原爆投下は正しいことだった」と思っている人も多い。その韓国で育った潘基文(パン・ギムン)さんが「核兵器廃絶の先頭に立つ」と言ってくれている。

 「報復の論理」を越えていくこと。それを抜きに核兵器の廃絶はない。ここに被爆者の叫びと、潘基文(パン・ギムン)さんの事務総長としての立場が響き合っていると思います。

   核兵器のない世界のための国際行動デー(五・二)

 「再検討会議」が始まる前日に、草の根の代表、NGOの代表がパレードを行いました。その時に六百九十一万筆の署名を、ドゥアルテ国連軍縮上級代表と、カバクチュラン議長に提出しました。

 この時、前日にテロ未遂があって、ニューヨークの街は警官が出て封鎖されていてデモがなかなか到着しなかった。で、議長と上級代表は待ちぼうけをくらっていました。そうしたら、カバクチュランさんたちが、制止する警官を「俺はこの国連でやっているNPT再検討会議の議長だ。文句あるか」と言ってはねのけて、デモ隊より先に自ら署名を受け取りに広場に行ったと聞いております。

   NPT再検討会議開会挨拶カバクチュラン議長(五・三)

 そういう形で受け取った議長は、早速翌日の「再検討会議」の開会総会で挨拶に立ってこう語ったと聞いています。「私は昨日署名を受け取りました。核兵器廃絶に向けた市民社会の熱意に、私たちは応えなければなりません」。

 「署名を受け取った」ことを冒頭に議長が発言するという形で「NPT再検討会議」が始まった。本当に、市民社会、NGO、草の根の運動、そして「新アジェンダ連合」「非同盟諸国」の政府の動きが、この「NPT再検討会議」を演出したということに確信を持っていただきたいと思うわけです。

   NPT再検討会議開会挨拶潘(パン)国連事務総長の演説(五・三)

 潘(パン)事務総長も即座に演説に立って「明確な約束の再確認をしてくれ」「核兵器のない世界に向けて努力をしろ」と呼び掛けました。そして、「八月六日に広島へ訪問する」と言い切りました。今年の「原水爆禁止世界大会」はひょっとすると潘(パン)事務総長自らやって来ちゃうかもしれません。本当に世界が今、核兵器廃絶にむかって前へ進もうということです。

 同時に、国連では被爆者が「原爆展」を行い、原水協が「公開シンポジウム」を行い、まさに国連の内と外で並行して取り組みが進んで行きました。

 五月五日、そういう中で、核兵器を持っている五大国が「共同声明」を挙げました。これも大事です。「我々は核保有国として、NPT条約第六条の義務を達成するという誓約」つまり「明確な約束を再確認する」と自ら宣言をしました。

 五月七日、今度は谷口稜曄(すみてる)さんが、自らの写真を掲げながら、たった一二分間でしたけれども被爆者として演説をすることが許されました。「核兵器がなくなるまで、この世からなくなるのを見とどけなければ安心して死んでいけない」と、切々と訴えられました。

 五月一四日、そういう全てをうけて、カバクチュラン議長が「最終文書」の草案を発表しました。

   核兵器廃絶の行程表を第一委員会(核軍縮)の報告草案

 この草案はまさに画期的なものでした。削られてしまった部分※(6)は、残念ながら日の目を見る事はありませんけれども、まさにこういうことが議論されたということは、これは残ります。

 「明確な約束」はもちろん再確認された上で、具体的な行動計画の中で、僕らが予想した以上の、期限を切った「廃絶への行動」というのが提案されたのです。当然それは大激論になって妥協するためにそれは降ろされましたけれども、そういう形で「最終文書」が実現をしました。

 まだその「最終文書」を確認することができていませんけれども、少なくとも「明確な約束」の再確認は行われました。そして「そのために具体的な措置をとる」ということも約束されました。「軍縮の義務」を「核保有国が果たす」ということも約束したようです。次回の「再検討会議」で「進捗状況を報告する」ことも約束されたようです。

 「法的な枠組み」、「核兵器禁止条約」についても言及がなされたと聞いています。

 二〇〇〇年の「再検討会議」に比べれば、何歩も前進した「最終文書」が得られました。二〇〇五年は「最終文書」すら採択できませんでしたから、そういう意味ではオバマ大統領が投げかけた「一条の光」に手を差し込んで「全開」とまではいきませんでしたが、「かなりのところ」まで開くことができた。それはひとえに、署名をしていただいた、あるいは署名を集めて、ニューヨークへ持って行っていただいた、皆さんの奮闘が実を結んだのだと思っています。

※(6)

「核保有国は、核軍備削減・廃絶における具体的な進展を促進するために、2011年までに協議を開始するものとする」(「行動6」)
「具体的な時間枠内での核兵器の完全廃絶のためのロードマップについて合意をする方法と手段を検討するため2014年に国際会議を召集する」(「行動7」)

   キッシンジャーら四氏のよびかけ

 こうした「NPT再検討会議」が大きな成果を上げ、そこからさらに前進を勝ち取らなければならないという状況を切り拓いてきた背景に、実は核兵器廃絶を求める新たな声の広がりがありました。

「オバマ大統領のプラハ演説」に先立つこと二年ほど前からいろいろな動きがありました。

 キッシンジャー、サム・ナン、シュルツ、ペリーたちが「核兵器のない世界へ」と呼び掛けたことが始まりでした。

 アメリカの政権中枢で、実際に核兵器に手を掛けていた連中が「われわれはこれまで発明された最も破壊的な兵器が、危険な者たちに落ちるという現実の危険性に直面している」と言いだした。「危険な者」とは「テロリスト」です。つまり核戦略の中枢にいた人たちが、「核兵器は抑止力ではないかもしれない」と疑問を持ったということです。

 このキッシンジャーたちの呼び掛けを準備したのは、カンベルマンという人物だと言われています。この人物は「九・一一テロ」を見て背筋が凍りました。核兵器を持っていたら彼らは絶対使っていたはずです。しかし、テロリストはまだ持っていない。「だったらすぐなくす必要がある」ということで、シュルツのところへ駈け込んで、「すぐに核兵器廃絶のための準備をしよう」ということで、七年間準備をして、この呼び掛けにつながったと述懐をしています。

 ちょっとこれは笑っちゃったのですけど、彼らは「核兵器をなくすためにどうしたらいいかというと、核兵器をなくすという目標を最初に宣言することだ」と言っているのですね。僕らと同じことを言っている。部分的措置を積み上げることではなく、「核兵器をなくす」と決意する。そうすると、「下方に向かって螺旋状に動き出す」と言っているわけです。

 これが、「グローバル・ゼロ・キャンペーン」という「支配者たちの反核運動」へと発展していくのです。

 今、政府の「反核運動」である「新アジェンダ連合」や「非同盟諸国」と、僕らの草の根と、元政府高官、元大統領、元国連大使、元国防長官たちの「反核運動」が三つ巴になっているわけです。

   支配層の間に広がる「核拡散」と「核テロ」への恐怖

 「グローバル・ゼロ・キャンペーン」は正直にこんなことを言っています。「テロや核拡散の脅威が世界的に広がっているが、核を求めるテロリストを説得することは困難である。よって、核兵器そのものを廃絶して行くしかない」。

 「説得する」とは、理性で説得するという意味ではないですよ。力を背景に「報復」をちらつかせて「もし使えるものなら使ってみろ。十倍の仕返しをするぞ」と脅して相手を思いとどまらせることです。この「十倍返し」というのは冗談で言っているのではなくて、「核抑止力論」というのは、「相手の十倍で返すということを言うことで有効になる」という理論があるのです。「十のX倍の理論」と言います。その「抑止力」で説得をする。

 この「抑止力論」を含めて「相手を説得するのは困難だ」と言っているのです。テロリストは「「殺すぞ」と脅しても「はいどうぞ。私は死にに行くのですから」と言うわけですから、絶対に説得できない。

 「説得できない」ことに気付いた時、「核兵器は抑止力なのか?」と疑問に思ってしまった。「我々は、とんでもないものを持っているのではないか」と急に背筋が凍った。そういう意味で彼らは、日本の政治家と違って非常に正直です。

   「テロと拡散」に対する唯一のオルタナティブは?

 支配層に核テロに対する恐怖が広がって、「核兵器廃絶」の方向に動き始めている。これまで核兵器を自分たちのものとして扱っていた連中が、「これは抑止力なのだろうか?」と疑問を持っちゃった。

 ブッシュが「テロと拡散に対しては、核兵器の先制攻撃をしてでも防止するのだ」と言ったのに対して、「核兵器の廃絶しか、対する方法はないのだ」と僕らが言ってきたことを、キッシンジャーたちも受け入れたということなのです。

   「核抑止」論はもはや時代遅れに

 今、「核抑止力論」というのが「時代遅れ」になろうとしている。

 キッシンジャーたちが「抑止力の有効性は低下する。一方で、危険性は増大している」と「核抑止力」に疑問に思っている今こそ「核兵器をなくせ」と畳み掛けることが求められているのです。

 笑っちゃったのは、鳩山さんが今頃「勉強をして、抑止力の大事さに気付いた」って。一巡遅れてるんですよね。

 キッシンジャーたちは今でも冷徹な政治家です。だから「核抑止は効かないかもしれない」と思った。要するに、「世界は『抑止力』によって支配できる時代ではなくなったのだ」ということです。

   私たちの原点を再確認しつつ

 それをめぐって今「NPT再検討会議」が動いている。私たちの原点は、「被爆者の願い」です。

 キッシンジャーたちは違う。彼らは「根っからの戦争屋」だから「核抑止力」に疑問を持った。

 だからこそ今チャンスになっている。この私たちの原点を再確認しつつも、今核兵器を無くすために全力を挙げるべきだろうと思うわけです。

   政権交代と鳩山新首相の外交デビュー

 鳩山さんは政権交代した直後は、ちょっと良いことを言いました。この外交デビューはすごかったですね。まだ国内政治で何もする前に突然国連に行って、「被爆国としての道義的責任を果たす」と言った。

 でも、実際は「NPT再検討会議」で、何の責任も果たさなかった。首相も、外相も来なければ、外務副大臣がちょっとやって来て、演説して帰った。その後、最終文書の調整の過程でも何も良い役割を果たしませんでした。

   政権交代をもたらした力は...

 「それでも政権交代ってしてみるものだなあ」と思ったのは、長年隠されていた「密約」が出てきた。どんなだらしない政権であったとしても、政権交代をしたという事実は、こういう歴史的な発見につながりました。

 政府は、「あれは密約ではなくて、認識の違いだったのだ」とか、いろいろ言いわけはしていますけれども、でも、文書があったという事実は、もう何とも言いわけをすることはできませんでした。

 この「密約」の所為で、トマホーク、核ミサイルが日本の港に持ち込まれてきたわけです。政府は妨害しようとしましたが、ついにアメリカはトマホークの退役も決めてしまいました。さしあたり、日本に核兵器が持ち込まれる危険性はなくなったわけです。こういう「密約」を公表されざるを得なかったということはすごく大事です。

   日米同盟と世論の間で...

 結局鳩山さんは、普天間の問題でもゆれ動いて元に戻ってきちゃいましたね。ここでも問題は「抑止力」だったのです。沖縄で頭を下げて、「いろいろ勉強したら抑止力は大事だということが分かりました」と言いました。

 核武装した第三海兵遠征軍が「抑止力」なのか。「抑止力」だったら必要なのか。本当はそういうところを問い掛けていかなければならないはずです。

 この「核抑止」を同盟国にまで広げると「拡大抑止」と言います。俗に言う「核の傘」です。もし「唯一の被爆国としての道義的責任」とか、「核兵器のない世界への共鳴」と言うのなら、ここから脱却することが必要です。その時にまさに日米同盟が問われるということになります。

   被爆者の願いと平和的生存権

 核兵器廃絶を求める圧倒的世論をさらにつくっていくしかない。特に日本では、「核抑止力論」「拡大抑止(核の傘)」を打ち破ること。そういう世論と運動を作っていくことが必要だと思います。それは「辺野古の問題」「日米軍事同盟の問題」ともつながります。要するに「日米同盟が抑止力なのか」ということも問われることになります。

 「報復」を言わずに「核兵器の廃絶」を唱えた「被爆者の崇高な願い」。これが我々の依拠する一つの原点です。

 もう一つの原点は、日本国憲法前文に「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」と書かれている「平和的生存権」です。「平和的生存権」とは「世界中の人々が恐怖から免れる」ということです。核兵器によって脅しつけ、恐怖で相手の手を縛る「核抑止力論」は日本国憲法の「平和的生存権」と真っ向対立するのです。

 僕らは「被爆者の願い」と、「平和的生存権」という、二つの原点を持っています。これが、私たちがこれから進んでいく道で、今までも、そしてこれからも全く揺るぎがないものだと思います。

   Yes,We Can!!

 この一カ月の「NPT再検討会議」。素晴らしい会議だったと思います。それを演出したのは、もちろんカバクチュラン議長にも感謝をしたいですけれども、何よりもその議長に七百万近い署名を積み上げて勇気づけた我々の運動、そして世界諸国民の運動だということを再確認して、「核兵器はなくせるか」「Yes,We Can!!」という言葉で締めくくりたいと思います。

 どうもご静聴ありがとうございました。

NPT再検討会議ニューヨーク行動

国連前広場に集結した690万筆の
「核兵器のない世界を」の署名

学校に被爆関連の英訳本を贈呈

国連総会議場

行動をともにした被団協メンバー

国連ロビーでの原爆パネル展をサポート

国連本部までのパレード
(グランドセントラル駅前)

核兵器廃絶のためのNGO行動行動集会
タイムズスクエアにて

NPT再検討会議の成果と課題(2)

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