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IYC記念滋賀県協同組合協議会講演会(3)

滋賀の生協 No.170(2015.4.28)
IYC記念滋賀県協同組合協議会講演会
不確実性の時代をよむ
~“アベノミクス”は暮らしにどう影響を及ぼすか~

三月一九日(木) ピアザ淡海(県立県民交流センター)203会議室

講師 柴山 桂太氏
(滋賀大学経済学部准教授)

   日本の問題①格差拡大

 日本の抱えている問題をいくつか指摘します。一つは、二十年続いている格差拡大です。
 アメリカは現在、所得の上位一%が、国民の所得全体の二〇%近くを占有している。上位〇・〇一%の年収は、平均二五億円。持っている資産は約七百億円です。
 日本は、相続税は高いし、デフレでしたから大金持ちはいない。だけど、小金持ちは少しずつ増えています。上位一〇%の平均年収は、九百十三万円。上位一〇%を除いた九割方の人たちの平均賃金は、百九十四万円です。格差がどんどん開いている状況です。

 これからは、アベノミクスで間違いなく格差が広がります。景気回復のために、デフレ脱却は必要ですが、一方でお金持ちから税金を取る仕組みを作っていかないと、アメリカのような社会になる可能性があります。しかし、消費税を上げ、法人税を下げるのが安倍さんの考えです。普通逆ですよ。低所得者層の所得税は下げて、消費税は上げないで、法人税は長期的には上げる方向にもっていかないといけない。

   日本の問題②東京一極集中

 二つ目は、東京一極集中の問題です。この二十年間、東京、埼玉、千葉、神奈川等の東京都市圏だけに人口が集中し、それ以外は人口減という、極端な差が出はじめている。
 他の先進国と比較してもニューヨーク、パリ、ロンドン等の集中度は、人口比、GDP比ともに、一〇%から二〇%の間です。(表4)
 日本は、東京と横浜間だけで、人口比二九%、GDP比三四%と集中しています。埼玉、千葉まで入れると、おそらく人口比三五%、GDP比四〇%以上になるでしょう。
 このままいくと、東京にしかお金、人があつまらない。田舎で高校を卒業しても東京に行かなかったら仕事がないという状況になるのではないかと思います。


(表4)

   日本の問題③震災リスク

 今、地震は活動期に入っているのは間違いないようですね。
 日本は、プレートが三つぐらい重なっている。そして、地震は連動するということがわかってきています。過去、三陸沖で地震があれば、必ず前後一五年以内に、西日本と首都直下で大きな地震が起きています。(表5)
 今回、三陸沖地震が起きました。三〇年以内に首都直下の大地震が起こる確率は七割。最近はもっと高いと言われている。東京圏内に人口が四〇%近く集中している状況で、首都直下地震が起こったら、国家存亡の危機です。
 今回の地震で分かったことですが、道路が崩壊するから、被災地に救援物資を運ぼうと思ってもルートがない。早く首都直下型地震対策を立てないと、大変な事になります。


(表5)

   日本の問題④大企業の税逃れ?

 四つ目は、大企業の税金逃れです。今、自民党はずいぶん財界寄りになっています。今、大企業も銀行も税金をほとんど払っていない。にもかかわらず、経団連の要望もあって、法人税を下げると言っています。

 アマゾンという会社は、一円も日本に税金を払っていません。アップルやグーグルも、ほとんど払っていません。アップル、グーグルは、アメリカにも税金を払ってない。本社を税金の安い怪しげなところに移して、法人税の税逃れをやっています。
 スターバックスにとって、日本は世界第二位の市場だそうです。しかし、日本での利益のほとんどは、アメリカ本社へ持って行き、そして株主への配当となっています。

 昔の財界人は「税は国民の義務で、企業は納税と雇用が社会的責任」という考えでした。今は「税はコスト」で、利益は株主に還元すべきものというのが大きな流れです。

 節税対策コンサルタントという職種があります。資産登記をタックス・ヘイヴンに移すという資産対策で、税金逃れをアドバイスします。例えば、阪急電車の電車の登記は、今バミューダ―海峡です。
 これは日本だけではなく、世界的な現象です。アメリカでもイギリスでも相当問題になっていて、懲罰的な税金を課すべきだという議論になっています。日本でもそういう議論を始めるべきですが、安倍政権は財界に弱くて全然そういう議論が出ませんね。

   日本の問題⑤TPP

 五つ目は、TPPの問題です。
 「農産物重要五項目(コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の原料)」を守るなんて嘘ですから。日本は譲歩する気満々です。しかしアメリカは譲歩してくれません。
 それどころか、アメリカは国内事情で、TPPは今止まっています。理由は二つです。
 一つは、アメリカは今景気が良いので、ドル高で輸入が爆発的に増えています。この景気の良い状況でTPPに入り、二・五%の自動車関税を下げるとなると、ただでさえ、トヨタ、日産にやられているのに、フォードとかGMは全滅しかねない。日本では主として農業関係者がTPPに反対していますが、アメリカでは自動車産業が反対しています。
 二点目は、TPP問題は、オバマ政権の信任問題に発展しています。TPPはオバマが推進したものです。だから、今秋から始まる大統領選挙をにらんで、議会はオバマに得点を稼がせたくないのです。議会は共和党が多数派ですから。共和党は、オバマ政権にやらせるよりは、ジェフ・ブッシュが大統領になってからやっても良いわけです。なので、アメリカはTPPを急がなくなってきた。
 そういう中で、早期には妥結しない可能性が出てきました。だけど、安心はできない。おそらく、この問題は永遠に続きます。アメリカの政治情勢が変わればまた出てきますし、交渉が長引くほど日本は譲歩する可能性がありますから、ある段階でぱっと決まってしまうかもしれない。

   「日本は鎖国している」のウソ

 例えば、マスコミ等は「日本は鎖国している」と言います。どこが鎖国しているのですか。ビザなんか発給しまくりで、中国人があんなに日本に来ているじゃないですか。貿易に関しても、日本の平均関税率は、全品目平均で五%以下ですよ。中国は一〇%、インドは一二%、韓国でも一二%あります。日本は、先進国でもアメリカと並んで、世界で最も関税の低い国です。外国人が土地やマンションを買っても規制が有りません。外国人規制がないものだから、逆に農地とか、水源とか買われて問題になっているじゃないですか。こんな国がどこにありますか。むしろ規制を強めた方が良いぐらいです。

   国際企業の利益を優先

 ただ、鎖国はしていないと言っても、譲れないものがある。それが農業ですよ。補助金漬けのアメリカの新大陸型農業と、まともに勝負して勝てるわけがない。だから、日本の国土にあった大事な品目だけは守らせてください。それも輸入数量制限等ではなく関税にして、国際ルールにあわせて守っている。何の問題もない。当然の権利を主張すればいい。
 それを、日本の農業が弱いのは、農家や農協が怠慢だからという理屈にすり替えて、それで今の改革をマスコミ、世論が後押ししている。

 二つ目に、非関税障壁。安全基準、衛生基準に関しては、アメリカのアグリビジネスの要求が通りやすい状況になっています。TPPに入ろうが入るまいが、遺伝子組換え食品の流入等の流れは止められないのではないかという気がします。
 知的財産の問題に関しては、全部アメリカの言いなりです。

 それから、紛争解決条項(ISDS条項)の問題です。簡単に言うと、企業が国を訴えることができる。これがISDSです。
 実際アメリカは訴えまくっています。アメリカには産業廃棄物をメキシコに埋める会社がある。それで、メキシコの州政府が「環境基準を厳しくする」と言ったら、アメリカ企業が「俺たちを排除している」と、北米自由貿易協定(NAFTA)のISDSに訴えて賠償金をとっています。
 あるいは、カナダが薬の認可基準を厳しくして、イーライリリーという製薬会社の薬の認可を拒否しました。そしたら、イーライリリー社が訴訟を起こして、今訴訟中です。五億ドルという桁違いの損害賠償を請求しています。

 それから、公営企業の取り扱いの問題。何でも民間にすればいいわけではないです。公営企業で国民生活を守る部分もあるわけです。それを認めないのがTPPの方針です。
 東南アジアでも、こういう基準がどんどん緩くなる。「新しい植民地主義ではないか」という、懸念もあるぐらいです。
 アメリカ国内でも、議会を中心に反対の声は小さくない。その声はどんどん大きくなっている。しかし、安倍さんは「絶対やる」と、TPPやる気満々です。

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