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消費政策の取組

パネルディスカッション〜エシカル・コンシューマー(倫理的な消費者)をめざして

滋賀の生協 No.174(2016.08.22)
パネルディスカッション
エシカル・コンシューマー(倫理的な消費者)をめざして

コーディネーター
土井 裕明氏(弁護士、 NPO法人消費者ネット・しが理事長)
アドバイザー
島田 広氏(弁護士、島田法律事務所)
パネリスト
山崎 伸子氏(滋賀県県民生活部県民活動生活課)
竹ケ原 経子氏((一社)滋賀グリーン購入ネットワーク)
西山 実氏(滋賀県生活協同組合連合会)

 エシカル・コンシューマー
土井 島田先生、まず「エシカル・コンシューマー」ついて解説お願いします。
島田 明確な定義はないです。「持続可能な消費」は、「後世の需要を損なうことなく、基本的な需要が満たされ、より質の高い生活を支える製品とサービスを利用すること…資源と有毒物質の利用、廃棄物と汚染物質の排出を最小限に抑える…」と国連で定義されています。
土井 私たちの支払ったお金が、生産者に適切に配分されることもポイントだと思います。生協はフェアトレードに関して、どんな取り組みをしていますか。
西山 全国の生協で開発している商品は、ブラジルのコーヒー、セイロンの紅茶の二種類です。一杯換算で約三〇円と少し割高です。ですから、フェアトレードの価値を伝えないとご利用いただけない。伝えきれていないのが現状です。
島田 価格で差が出るのは致し方ないと思います。だから、「全部フェアトレードに」と頑張らなくても良いから、「月に一回でも」と呼び掛けることが大切かなと思います。
土井 「エシカル消費」の観点で、他にどんな取り組みをしておられますか。
西山 環境寄付商品に関しては、「コアノンロール」(トイレットペーパ)は一パックで一円を積み立て、アンゴラ共和国の「子供にやさしい学校づくり」の支援募金としています。
 コープの衣料用洗剤は一点一円を、ボルネオの森林の保全のために使っています。
 コープしがでも、サンゴの再生基金になる「もずく」、琵琶湖環境保全の寄付も進めています。
 「産直米育ちさくらたまご」は、休耕田の問題と、家畜飼料の海外依存の問題を、県内の四JAと連携した飼料米栽培で解決する試みです。飼料米は、主に県内の養鶏農家で使っていただき、現在、飼料の一五%は籾での給餌となっています。鶏糞も田んぼに戻すことで、地域循環、耕畜連携取り組みとしています。また、予め利用登録いただきますから、生産者の安定供給、持続可能な生産と、環境負荷軽減にもつながっています。

 グリーン購入
土井 「グリーン購入ネットワーク」とはどんな組織ですか。
竹ケ原 「滋賀グリーン購入ネットワーク」は、一九九九年に設立され、二〇一三年に法人化しました。「グリーン購入をはじめとする環境負荷低減活動」を推進しています。現在、約四七〇の企業、民間団体、行政が加盟しております。行政は、滋賀県及び県内の市町全てが会員です。
 一九九四年、滋賀県が全国に先駆けて「滋賀県環境にやさしい物品の購入基本指針」を策定し、滋賀県機関で採用する「環境対応製品推奨リスト」に基づく調達を開始しました。その取り組みは県内の市町村や企業にも広まりました。滋賀県が日本で初めての組織的なグリーン購入の取り組みを行ったのです。
 当時の環境庁が、「これは面白い。全国に普及したい。」ということで、一九九六年に「グリーン購入ネットワーク」という全国組織が設立されました。
 そしてその三年後、滋賀県により「滋賀グリーン購入ネットワーク」が設立されました。 土井 再生紙以外にも、どんな商品がありますか。
竹ケ原 適切に管理された森林から得られた木材でつくった紙、琵琶湖の葦(ヨシ)を使った紙、例えばコクヨのリエデンシリーズもその一例です。
 その他、低燃費、低排出ガスの自動車を選択する、統一省エネラベルで星の数が多い家電製品等を選んで買い替える、長く使えるLED電球を使う、といったこともグリーン購入と考えています。
 さらに、滋賀GPN会員お勧めの環境負荷低減商品リスト「いちおしグリーン商品リスト」を作成・配布することで、会員同士がグリーン購入をしやすい環境を作っています。会員間で商品開発等が進むともっといいですね。
 事業者は、エンドユーザー向け、BtoB向けの製品開発だけでなく、製造過程でのCO2削減、工場敷地内の生物多様性保全、従業員向け環境教育等も熱心に取り組んでおられるところがたくさんあります。「環境に配慮しなければ、取引をしてもらえない」というお声も最近はよく聞こえるようになりました。

 消費者教育
土井 消費者教育に関して、県はどんな計画で進めようと思っていますか。
山崎 平成二四年に、消費者教育推進法で、消費者教育推進計画策定が県の努力義務と定められました。県では本年三月、消費者施策を推進する「第三次消費者基本計画」を策定しました。この五年計画は、「消費者教育と学習の推進」を消費者行政の重点施策の一つとし、幼児期から高齢期までの各段階に応じた消費者教育を体系的に推進していくこととしています。
 具体的には、昨年度、小、中学校向けの教材を作成しました。小学校は「すごろくゲーム」、中学校は「グループワーク」を通して、「選択して購入する」ことを考える仕掛けです。モデル授業も行い好評でしたので、これからどんどん普及していきたいと考えています。
 その他にも自治会、老人会、高校への出前講座や講演会、ショッピングセンターでの消費者啓発のイベントなど、各年代に対する教育を行っています。
土井 どんなすごろくですか。
山崎 「マナビィと学ぶお買い物ゲーム」というタイトルで、遠足のおやつとお弁当の材料の買い物に行きます。サイコロを投げて進みながら、自分で考えて商品を選択できる、計画的にお金を使うことができる。そんな消費ができるようになろうというものです。
島田 自分で考えて商品を選択する教育は大切です。人間の選択には、「熟慮システム」と、短絡的に決めてしまう「自動システム」があって、勧誘のテクニックの多くは、この短絡的選択の「自動システム」を研究し尽くしています。
 ですので、広告や、勧誘の言葉を批判的に見る目を日頃から養うことが、消費者被害に遭わないためにも、持続可能な消費、社会に役立つ消費をする上でも大事なポイントだと思います。

 何が重要なのか
土井 消費者教育の到達点と今後の課題についてお話しいただけますか。
山崎 昭和五〇年代に琵琶湖に赤潮が発生した際に、県民主体の「せっけん運動」が始まりました。合成洗剤ではなく、粉せっけんを選択し水環境を守ることは、消費行動を通して社会を変えるエシカル消費の先駆けだったと思います。
 行政としても、エシカル消費の考え方をもっと広めていきたいと考えています。
島田 人は「緊急で、重要」なことに一番時間を使う。ところが、重要でない事を「重要だと錯覚」すると、ある日突然嫌になって「緊急でも、重要でもない」ことに時間を使ってしまう。豊かな人生を送っていくためには、「緊急ではないが、重要」なことを自覚し、自分らしく時間を使うことが大事だと、スティーブン・R・コヴィー(作家)という人が言っています。
 これは消費にも当てはまることです。広告に流され、欲求に駆り立てられて消費するのではなく、「何が自分にとって重要なのか」を考えられる消費者になる。これがこれからの消費者教育の基本になってくるのだろうと思います。

 学びの場の提供
土井 消費者が力をつけていく上での、教育への期待は大きいですが、行政は学校の先生に対する支援をどのように考えておられるのですか。
山崎 徐々に始めている段階です。先ほどのモデル授業は今年度も予定しています。
島田 学校の先生が優れているのは、子どもたちに伝える力です。行政、事業者、環境団体等が学校の先生とタッグを組んで、良いコンテンツを作っていくことが大事だと思います。
土井 生協でも組合員の学習の機会を設けておられると思うのですけど。
西山 生協は供給する組織という一面もありますが、組合員が自らの暮らしを良くするために、利用と学びで自立した消費者になっていく一面もあります。
 例えば、「コープ倶楽部」という組織があります。五年前に「学びの場を広げたい」と始めました。一回二時間、年九回ぐらいの開催です。今年は県内三〇か所の予定で、三七八人の組合員が、毎回「子育て」「平和」「賢い消費者になるために」等のテーマで語り合います。八割以上が育児中の組合員で、無料託児も設け、息抜きの場にもなっています。
土井 滋賀グリーン購入ネットワークでも、講師派遣をしておられますよね。
竹ケ原 設立当初から、会員のみなさんにも講師をお願いしています。
 二〇一五年からは、県内の大学他でも、事務局だけではなく、会員企業、団体のみなさまに「グリーン購入とは」「各企業、団体での環境に対する取り組み」等のお話をしていただいています。
 一般の方々向けには、地域への出前講座の他、年一回、「三方よしエコフェア」というイベントを開催し、グリーン購入の理解を広げています。

 みんなの強みを活かす
土井 最後に、今後の取り組みと決意を一言ずつお願いします。
西山 選択に資する情報をどれだけ正しく、わかりやすくお伝えできるか、そして価格だけでなく、生産者や組合員の声等、多様な情報を発信できるかが生協の責務だと考えています。
 そして消費者としての選択の重みを、学習を通じて知り、広め合っていきたいと思います。
竹ケ原 会員団体の従業員、家族を含め、約十万人の方々に環境配慮行動をしていただくと、社会は変わるのではないかと思います。買い物は「円の投票」だと考え、一人の百歩ではなく百人の一歩が世の中を変えると信じ、今後も啓発等に邁進します。 山崎 「事後的な救済策」(消費者トラブルの解決のための相談業務)は勿論のこと、「予防的な施策」(消費者トラブルに遭わないための消費者教育、啓発)がますます重要になってくると認識しております。また、消費者教育の施策を進めていく上で、エシカル消費の概念を広めていくことにも、今以上に取り組んでいきたいと思っております。
島田 「みんなの強みを活かせ」ということが大事だと思いました。
 消費者や事業者や消費者団体、環境団体、学校の先生がつながることで、大きな力も生まれます。そういうつながりの場を作るには、行政のコーディネート力が必要だと思います。
 それから、「一歩踏み出す」ということも大切です。難しい課題がいろいろありますけれども、一歩踏み出すことで、行動することの意味、楽しさが心の中に残る。それが積み重なって行動できる消費者になっていくのだろうと思います。
 三つめは、「学び合う」ということ。それぞれの消費の中での工夫や、環境への思いをお互い学び合う。それが、これから取り組んでいく課題を認識する上でも、新しい知恵を生み出す上でも大事になってくるだろうと思います。
土井 どうもありがとうございました。

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