活動のご案内

消費政策の取組

『消費者団体訴訟制度』の取組みについて(1)

滋賀の生協 No.140 (2007.3.20)
2006年度消費者(政策)学習会
『消費者団体訴訟制度』の取組みについて
1月31日(水)10時から12時30分 
ピアザ淡海207号室 滋賀県生活協同組合連合会主催
消費者支援機構関西(KC's)検討委員会・委員長 黒木 理恵弁護士

 今年の六月より施行される消費者団体訴訟制度(団体訴権)のための知識を学び、近畿圏における適格消費者団体を目指す消費者支援機構関西(KC's)を紹介し、この間の活動の紹介と、今後の活動予定を聞きました。
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講演される黒木理恵弁護士
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消費者団体訴訟制度とは
 おはようございます。ただいまご紹介いただきました黒木と申します。今日は「消費者団体訴訟制度」についてご紹介をして、それに取り組むために作ったKC'sという団体のご紹介と、現在どういう活動をしているかということをお話したいと思います。

 まず「消費者団体訴訟制度」。実際何ができるのかということですけども、この制度自体は日本では画期的な制度ではあるんです。どこが画期的かというと、今までになかった訴訟の形だという点で画期的なんですね。

 普通の訴訟は、例えば被害にあった本人がその賠償を求めて訴訟をおこすとか、部屋を借りて出て行く時に、クロスの張替えから全てのお金を請求され、「どうしてそこまで払わないといけないのか」と疑問に思って、「敷金が返ってこないから」ということで返還の訴訟を起こす。自分が締結した契約でおかしいと思ったり、それによって被害を被ったと思った時に、その被害を回復するために訴訟を起こすのが、普通の訴訟の形なんですね。

 ただ、それだと、「消費者問題」とか「消費者被害」と言われるものについては、みんなが全部やらないといけないのかということになりますよね。同じような被害がたくさん起こっているんだったら、「どこかで一つやってくれたらいいじゃない」という発想が出てくる。「それじゃあ、そういうものも導入しよう」。それから「消費者被害」というのは、大概同じような形で同じような金額の被害が広がったりする。「それだったら被害が広がる前に何とか食い止める方法はないのか」というような考えで作り出されたのが「消費者団体訴訟制度」です。

 それまでは被害にあった本人が訴訟をおこすものだった。しかし、この新しい制度では、一定の消費者団体が、「こういう被害が広がりそうだ」とわかった時に、それ以上広がるのを防ぐために、被害を起こしそうな事業者に対して、「被害を起こすような行為をやめなさい」と訴訟を起こすことができるようになったわけです。

 そうすると、もう既に被害にあった人の「損害回復」は自分でやらないといけないけれども、それ以外にさらに広がったりすることは、その団体が活躍することで止めることができるということになるわけです。

 ただですね、何でも止められるかと言うと、そういうわけではない。まだ導入されたばかりで、去年の五月末に法律ができて、六月の初めに公布され、動き出すのは今年の六月七日なんですけれども、そこで導入されたのは、「まずは『消費者契約法』の範囲内で、この『消費者団体訴訟制度』を動かしましょう」ということになっています。
消費者契約法・従来からあった規程
 「消費者契約法の範囲内で」ということは、「消費者契約法」に違反した行為がされている、若しくはされるおそれがある時に、それを差し止める権利を消費者団体に与える形で、「消費者団体訴訟制度」を動かしましょうということになったわけです。

 ただ、制度自体は訴訟の制度ですから、別に「消費者契約法」に限る必要はなくて、今後、広がっていくと思います。既に「公正取引委員会」がよくお使いになっている「独禁法」とか「景品表示法」には入れられることになると思いますので、そういうふうにドンドン広がっては行くと思います。ただ今年の六月から動き出すのは、まず「消費者契約法」の範囲内ということです。

 なので、具体的に今年の六月から動く「消費者団体訴訟制度」で何ができるのかというのをご理解いただくために、「消費者契約法」で何が禁じられているのかを簡単にお話しておきます。

 去年の六月に増えた部分は「消費者団体訴訟制度」について決めている部分ですので、増える前の前半部分は大きく分けて二つのことが書かれています。

 一つは、事業者の「不当な勧誘行為」で契約をした場合に、その契約を取り消すことができるという部分が、大きな柱の一つです。

 それから、もう一つの柱は、事業者が決めた「契約条項(約款)」に、消費者にとって不利な、事業者にとって一方的に有利な条項があった場合には、それがあまりひどいと「無効ですよ」ということです。
事業者の不当な勧誘行為
 もう少し具体的に言いますと、「不当な勧誘行為」。何が不当な勧誘行為なのか。

 一つは「不実告知」と言われるものです。これはどういうものかと言うと、商品とかサービスの性能とか内容、消費者が最終的にどれだけお金を出さなければいけないのかとか、要はその契約の重要な内容について事業者が事実と異なる説明をして、消費者がそれを信じて「契約します」「買います」とか「サービスを受けます」と意思表示をした時には、消費者はそれを取り消すことができるということです。

 それから「断定的判断の提供」。本当のところは将来の変動が不確実であるにもかかわらず、事業者の方が「必ず儲かります。信じてください。絶対大丈夫」と「断定的な判断」を提供して、消費者が「プロが言う事だから大丈夫なんだろう」と信じて契約をした場合には、これも取り消すことができるということになっています。

 それから三つ目は、事業者が消費者にとって有利な点だけを強調して、消費者にとって不利な点、若しくは負担になる点、そういうマイナス面をあまり説明しなかった場合。全く説明しなかったということでなくても、例えばパンフレットの隅っこにチョコッと書いていて、ほとんどそこには触れずに良い事ばかり説明して、消費者が「良いことずくめやなあ」と思って契約をした場合には、これも取り消すことができます。

 最期は「不退去・退去妨害」。ちょっと毛色が違うんですけど、「不退去」というのは事業者が消費者の自宅にいらっしゃって、消費者が「もう帰って欲しい」「結構です」「契約したくない」とに意思を示したにもかかわらず「まあ、そう言わず」ということで粘って、その結果消費者が根負けをして契約をしたというような場合には、取り消すことができる。これが「不退去による取り消し」ですね。

 逆に「退去妨害」は、消費者が事業者のお店に行った。で、いろいろな勧誘を受けて「もういい加減帰りたいなあ」と言ったんだけれども、帰してもらえなかった。それで根負けをして契約したというような場合には、これも取り消すことができるということです。

 「不退去・退去妨害」というのは、「帰ります」とか「帰ってください」とか、なかなかはっきり言えないと思うんですけれども、「そろそろご飯の時間だから」とか、お店に行った時は「もう友達との待ち合わせの時間が迫っているし」とか、人が聞いたら「もう帰りたいんだけど」と言っているのがわかるぐらいで言えば、それでいいということになっているですね。そういう状況で引き止めて契約をしたら、それは取り消すことができるということになっています。

 今挙げたこれら四つぐらいの行為が「不当な勧誘行為」だということで「消費者契約法」が決めているものです。また変わるかも知れません。増えるかも知れませんけどね。今見直し中なんですね、この部分は。
事業者が定めた不当な契約条項
 もう一つの柱です。「不当な契約条項は無効だ」という部分ですけど、なにが「不当な契約条項」なのか。それも四つぐらいあります。

 一つは「事業者の損害賠償責任等を免除する条項」。例えば「うちの施設内で、どんな事故が起こっても、一切責任を持ちません」とか、そういう規程は無効ということになっているんです。もちろん何の過失もなかったら責任を負わないのは仕方がないんだけれども、自分のところの管理が行届いてなくて、誰かが滑って転んで怪我をしたというような時に、それでも「うちは一切責任を負いません」というのはおかしいですね。消費者にとっては不利なので、そういうことはいくら決めておいても無効です。

 二つ目は、「平均的な損害額を超える違約金等を定める条項」。これは「キャンセル料」のことだと思ってもらったらいいんですね。消費者は、さっきの「取消権」があって取り消す場合には、別にキャンセル料を取られる筋合いのものではないわけです。そうじゃなくて、消費者の都合で、「途中でやっぱりやめます」ということもあるわけですね。そういう場合に「キャンセル料」という規程がよくあると思うんですね。「契約から何日以内に解約した場合にはキャンセル料は、何パーセント」とか書いてある場合ってよくあると思うんだけど、その規程で、「キャンセル料があまりに高いことを定めていてはダメですよ」ということなんですね。

 どこまでだったら許されるのか。その時期に契約を解約されると、その事業者がこれくらいの損害は被るだろう。例えば、新しい予約を入れられない確立がどれくらいかとか、いろんな事務経費が掛かったとか、平均的に考えられる損害まではキャンセル料として取っても良いです。だけど「それを越える部分は無効ですよ」という規程になっています。

 三つ目は、例えば消費者が事業者に代金を払うのが遅れた時、「遅延損害金を払ってもらいますよ」という規程があると思うんですが、その遅延損害金があまり高すぎちゃダメなんです。「年利で14.6パーセント」までしかとれないことになっています。

 それから、最後は「一般条項」と言われるもので、「その他、消費者の利益を一方的に害する条項」です。いろんなものがこれに当たります。例えば、「一回契約をしたら、一切解約はできません」なんていうのもこれにあたるんです。「これはあまりにも事業者のほうに有利で、消費者に不利なんじゃないの」という条項は、この「一般条項」を使って「これは無効じゃないか」ということを言っていけるということになっています。
消費者契約法・新たに導入された制度
 例えば、ある事業者がどうも「絶対儲かりますよ」みたいなことを言って消費者を勧誘しているらしいというようなことがわかった時に、「適格消費者団体」と言われる団体が「そういう断定的判断を提供するような勧誘はやめなさい」ということを請求することができる。言っても聞いてもらえない時には「そういう行為はやめろという判決をください」という「訴訟」を起こすことができるというのが新しい制度です。

 例えば、キャンセル料がすごく高くて「50パーセント、60パーセントはキャンセル料を取りますよ」という「約款」を配っている事業者が見つかった場合には「その契約条項は使わないでください」「契約書は破棄してください」と求めることができる。聞いてくれない時には裁判所に行って「この事業者の使っているこの契約書の何条は無効だ。使ってはいけないという判決をして頂戴」という「訴訟」を起こすことができると決めたのが新しい制度だということです。今回認められたのはこの「差止請求権」だけなんです。

 本当だったら、実際に被害を被ってその損害を受けている人たちに代わって「適格消費者団体」が「お金を返せ」と「訴訟」をしてくれたら大変良いのですが、今回はそこまで認めてもらえなかった。

 今後は、「そういう制度も入れていった方が、より消費者の被害回復や、被害救済に役立つやないか」という運動をすすめていって、是非入れてもらいたいと思いますけど、今年から動き出すのはそこまでは入っていません。「金銭的な請求権」というのはないんです。「差止の請求権」だけなんですね。

 具体的に何が言えるかと言うと、内閣府に「適格認定」を受けた消費者団体が、「不当な勧誘行為」であるとか、「不当な契約条項」を使っているという事業者に、直接「そういう行為をやめるように」と言うことができる。

 それから、もしそういう行為を、まだしていないけど行いそうだったら、予防として、「そういうことが起こらないようにして頂戴」と言うことができる。

 それから、例えばパンフレットとかですね、おかしな勧誘に使っている「良いこと尽くめ」のパンフレット等があった場合には、「そういうものを廃棄しなさい」「使っちゃいけません」「もう要らないものなんだから捨てて頂戴」と言うことができる。

 それから、その他いろいろ、被害が起こらないように、広がらないようにするために、こういうことが有効なんじゃないかというようなことを「やって頂戴」と言うことができるということです。

 で、もう一段階あって、その事業者に例えば「適格消費者団体」が「やめて頂戴」といったところで、その事業者が「いや、うちがやっているんじゃない。うちが使っている、代理人がやっているんだ」とか、「請け負わせているところがやっているんで、差止と言われてもやめようがない」と言われたら困るわけですね。もちろん「不当な勧誘行為」をしている代理人とか、受託先の事業者に対してその行為をやめるようにということは言えるんですよ。だけど、「うちの下請けがやっているんだ」みたいなことも言わせないために、「じゃあ、その代理人に対して、変な勧誘行為をしないように是正の指示をしてください」ということを求めることができる。

 それから、例えば元の事業者が「勧誘マニュアル」を作って、代理人に「これでやってくれ」という場合には「おかしな勧誘を教唆することをやめてください」ということを求めることができる。その他有効なことをいろいろ求めることができるということです。
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