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環境の取組

市民・地域主導による再生可能エネルギー普及 (2)

滋賀の生協 No.160(2012.11.16)
2012国際協同組合年記念企画
市民・地域主導による再生可能エネルギー普及
―安全で持続可能な社会に向けてー

2012年7月31日 滋賀県農業教育情報センター大ホール
主催 2012国際協同組合年(IYC)滋賀実行委員会

講師 和田 武氏(日本環境学会会長)
日本環境学会会長。元立命館大学教授、工学博士。専門は環境保全論、資源エネルギー論。主な著書に『脱原発、再生可能エネルギー中心の社会へ』『環境と平和』(以上あけび書房)、『飛躍するドイツ再生可能エネルギー』(世界思想社)など。

再生可能エネルギーの特性と普及動向

   再生可能エネルギー資源の特性と普及

 再生可能エネルギーは、太陽光・太陽熱・水力・風力・バイオマスなどの太陽由来のエネルギー、地熱という地球由来のエネルギー、潮汐力という月の重力エネルギーなど、いろいろな形態で存在します。こういうエネルギーは、原子力や化石エネルギーなどの地下の資源を使うエネルギーとは違った特性を持っています。

○資源の賦存量
 原子力と化石燃料は有限で枯渇しますが、再生可能エネルギー資源は太陽や地球がある限り無限に存在します。
 現在の科学力で太陽エネルギーは、世界の年間エネルギー使用量の三倍。風力でも約一・四倍。地熱は十倍以上。バイオマスでも六割は賄える。トータルで十六、七倍あります。
 日本の場合でも、環境省によると、再生可能エネルギー発電のポテンシャルは約五兆キロワット時。日本の電力年間消費量が一兆一千億キロワット時ですから、日本でも百パーセント再生可能エネルギーにすることは不可能ではないのです。

○資源の存在形態
 原子力と化石燃料は、特定地域に集中的に密度高く存在します。石炭は炭鉱に、石油は油田に、ウランはウラン鉱山にしか存在しません。そして日本は輸入に依存しています。
 ところが、太陽光はどこにでもあります。地熱も「地中熱」と言って、どこでも一定の深さを掘れば一定の熱が出てきます。風力は風の強い所、水力は水の流れる所、バイオマスも広範な地域にあります。どこにでも少量ずつ分散的に存在し、農山村地域に多く、国産で賄えるという特性を持っています。

○生産手段の形態と普及主体
 原子力と化石燃料は、大規模集中型の方が効率的です。ところが再生可能エネルギーは小規模分散型です。例えば、一家庭三キロワット時の太陽光発電をつけたとして、原発百万キロワット時の原発と同じ出力を得ようと思えば、三十三万家庭につけなければならない。出力一〇〇〇kWの風力発電機なら千基つけなければならない。
 そういう特性を持った生産手段を普及するには、電力会社とか大企業にお任せというわけにいかない。市民を含む広範な主体が取り組まない限り、この再生可能エネルギーで十分なエネルギー量を確保することはできないのです。

   再生可能エネルギーが急増する世界

 世界では明らかに再生可能エネルギー中心の普及が進んでいます。

 二〇〇五年から二〇一〇年のエネルギーの種類ごとの年平均伸び率を見ると、エネルギー全体では二パーセント強。ところが再生可能エネルギーは二・五倍伸びています。太陽光発電、太陽熱発電、風力発電、バイオ燃料などは二十パーセント以上。二ケタ以上の年間伸び率を示したのは全部再生可能エネルギー。原子力の伸び率はゼロです。

市民・地域主導による再生可能エネルギー普及と社会の発展
ドイツ、デンマーク等の事例を踏まえて

   再生可能エネルギーが飛躍的に進んだ理由

 日本とドイツとデンマークの再生エネルギー発電量を一九九〇年から二〇一〇年までの変化で見てみますと、日本は増えていません。しかも構成比率は未だに水力中心です。
 ドイツは、一九九〇年代は水力が中心でしたが、今では風力が二倍以上、バイオ燃料も水力を上回り、トータルでも約六倍になっています。
 デンマークは約十倍。平らな国土で水力は使えません。森林も豊富ではありません。それにもかかわらず風力と、農業廃棄物などを活用するバイオマスを使って、日本より高い再生可能エネルギー比率になっています。

 ドイツやデンマークで、再生可能エネルギーが飛躍的普及した理由は、積極的な普及推進政策をとってきたこと。もう一つは、その普及推進政策のもとで、普及の主体が市民、地域中心であったということです。

   温暖化・エネルギー政策

 日本と、ドイツとデンマークの政策を比べてみましょう。

 非常に高い温室効果ガスの削減目標をこの両国は持っています。(表2)日本は、鳩山政権時代に「二〇二〇年に二五パーセント」と言いましたが、今政府は①原発をゼロにする②原発一〇から一五パーセント③原発二〇から二五パーセントという選択肢と一緒に、温室効果ガスの排出量削減目標を出すという、あいまいな姿勢です。

 ドイツやデンマークは非常に高い目標を持ちながら、原発に関しては、ドイツは段階的廃止、デンマークは不所持だという政策をとっています。だから再生可能エネルギーの電力買取り制度とか、熱利用や燃料利用の普及政策を積極的にとっているわけです。

表2:温暖化エネルギー政策:日本、ドイツ、デンマークの比較

   電力買取り補償制度とは?

 電力買取り補償制度とは、再生可能エネルギー発電設備所有者の電力の買取りを電力会社に義務付ける。そして、適切な買取り価格や買取り期間を設定し、所有者の総経費が売電収入で補償される制度です。今世界の八〇か国・州以上で導入されています。
 その費用は社会全体で負担すると同時に、電力会社も一定額を負担します。なぜ電力会社も負担するかと言うと、再生可能エネルギーを入れた分だけ、電力会社は火力発電所などを動かさなくても済みます。その浮いた費用分(回避可能費用)を負担するわけです。

   デンマークの住民所有風力発電普及の背景

 世界で最初に電力買取り制度を導入したのはデンマークです。その結果、普及が進み現在電力の三〇パーセントを風力発電で供給しています。つまり日本が全ての原発を動かしていた時期と同じぐらいの電力を、風力発電で供給しているということです。

 一九七〇年代に二度の石油ショックがありました。この後デンマーク政府はエネルギーの自給政策をとり、北海の油田開発や天然ガスの開発を始めます。

 その時農民を中心に風力発電機を設置し、一九七八年に「風力発電機所有者協会」を設立します。そしてこの市民の主体的活動は、風力発電電力を電気料金の八五パーセント価格で電力会社が買取る「電力買取り補償制度」と、設置費の三〇パーセントを補償する「国の補助金制度」を構築します。風車の生産コストが下がってくると、初期投資の補助金は減らしていって、買取りだけで損をしないような条件にしていくわけです。そして、風力発電機設置地域のみ所有可能という、地域に根差す住民参加のルールを構築しました。

 そして今、デンマークの家庭の約八割は風力発電機の所有者です。

   風車と住民トラブル

 デンマークには「たとえ企業が作った風力発電所であっても、その二〇パーセント以上は、地域住民の所有にしなければいけない」という法律があります。

 日本では、風力発電は適切な再生可能エネルギーではないと思われる方がたくさんおられます。騒音問題とか、低周波問題とか、報道がそういう取り上げ方をしてきたからです。

 デンマークやドイツの国土面積当たりの風車の密度は、日本よりはるかに高い。しかし、そういうトラブルはほとんど起こりません。

 これは所有者の違いによるのです。大企業が住民軽視で建てる日本と違い、地域の住民が自ら協同組合や市民会社を作って風力発電所を建てる時に、自分たちに迷惑がかかる建て方はしません。しかも売電収入で利益をもたらす風車です。反対する人はいません。

 普及をスムーズに進めるには、地域住民が関わるということが一番重要なのです。

   デンマークの地域暖房

 デンマークでは「地域暖房」と言うのがあります。

 コジェネ発電所から、往路、復路の断熱管パイプを敷き詰めて、摂氏百度くらいのお湯が住宅含めて送られて、摂氏五十度くらいに冷えたお湯が戻って来る。そしてまたそれが使われる。こういう密閉系で暖房が行われています。(コジュネレーション:熱電併給=発電の際の廃熱を冷暖房などに利用する。様々な発電方式に応用できる。)

 人口の六〇パーセント以上がこのシステムに加入しています。地方に行くと麦わらや木屑を燃料にしています。デンマークは畜産国家ですから、畜産のし尿でメタンガスを発酵させるコジェネ発電でも供給しています。

 最近は、こんなに北の国なのに多くのソーラー温水器を並べて使っています。コペンハーゲンでは地中熱も使っていました。三千メートルの深さから摂氏七〇度のお湯をくみ上げて暖房に使い、それをまた地下に戻す。地下ではまた温まりますから、永遠に使えるわけです。

   ドイツの再生可能エネルギー普及の推移

 ドイツの北端にシュレスヴィッヒホルシュタイン州があります。この州の農村地域の 住民が中心となって風車の設置が進み、一九七九年「ドイツ風力発電協会」が発足しま す。ドイツは、デンマークの風力発電の普及を見て、一九九一年に「電力供給法」が施 行され、電気料金の九〇パーセント価格で電力が買われるようになります。

 太陽光発電の買取補償制度は、一九九五年にアーヘン市という小さな町が初めて導入 します。電気料金の一〇倍の値段で買取る制度でした。このアーヘンモデルも、実はS FV(太陽光発電普及協会)という市民団体が要求をして作り上げました。

 こうして風力発電も太陽光発電も損をしない制度ができ、四〇ぐらいの都市に広がります。そして、二〇〇〇年には「再生可能エネルギー法」が施行され、全国であらゆる電力が損をしない価格で買われる制度が生まれるのです。

 この「再生可能エネルギー法」は、水力・バイオマス系・地熱・風力・太陽光、それぞれ違う価格で買取られる。二十年間買われることでどれも損をしない。

 その結果、二〇一一年までに原発約二十基分の自然エネルギー発電所が生まれ、総電力の二〇パーセントを賄うまでになっています。再生可能エネルギーの普及に積極的な地域は、国土の五十パーセントを超えています。風は温度差によって発生しますから、ドイツで風があるのは、北部の海と陸の温度差があるバルト海と北海の沿岸地域です。そういう沿岸を中心とした四州では、電力の五〇パーセント近くを風力で賄っています。

 しかも、この風力発電所の大部分は地域住民の所有です。デンマークで八割、ドイツでは九割ぐらいが地域住民の所有で入られている。太陽光発電もバイオマス発電も市民や地域住民所有で各地に作られています。こうして「再生可能エネルギー百パーセント地域づくり」が、あちこちで取り組まれています。

   ドイツでの普及事例

○フリードリッヒ・ヴィルヘルム・リュブケ・コーク村
 北海の埋め立て地にある百六十人の村ですが、村の消費電力の五百倍の電力を風力で、三倍の電力を太陽光で生産しています。
 この干拓地は、一九五八年くらいから入植が始まります。最初二百八十人ぐらいまで人口が増えましたが、一九九〇年代の初めには百六十人にまで減りました。
 ここは風が強くて寒い。土地がやせている。農作物も菜種と小麦ぐらいしか作れない。そんなところで農業やったら貧しいのは当たり前です。だからみんな離村していった。
 それに危機感を持った四十四人の村人たちが、買取り制度が始まった一九九一年、風車を建て始めます。共同出資会社を作り三二基、一・八万キロワットの風力発電機を次々に立て、今では一人あたりの売電収入が年間約五百万円になっています。
 そして、村はさらに変化します。全村民が参加するようになり、総出力四万キロワットもの風力発電所になっています。さらに拡大して六万キロワットにする予定です。
 ブルンヒルデ・ニッセンさん夫妻は、一九五八年に入植し四人の子どもを儲けました。とにかく貧しかったが、他に行くところがありませんでした。だから、この村でがんばってきました。彼らが子どもたちに言い続けたことは、「こんな厳しい農業を継がせるわけにいかないから、力をつけて自分の仕事を見つけなさい」ということです。子どもたちも一所懸命勉強をして、上の三人は大企業や官庁や教員になって就職していきました。
 ところが、最後の一人は、「農業収入と風力発電の売電収入があれば自分の生れた村で生きていける」と農業を継いだのです。もう結婚して子どもも二人生まれ、しかも今、村長をやっています。
 こういう後継者難が解消されたお宅が次々出始めています。村は過疎化から脱却しつつあります。今、この老夫婦はリタイアしてマンション暮らしをしています。「風力のおかげだ」と言っています。

○ロイセン・ケーブ村
 フリードリッヒ・ヴィルヘルム・リュブケ・コーク村の二倍の人口で、四倍の十六万キロワットの風力発電を持っています。四つの市民風力発電会社を持ち、自分たちで変電所まで作っています。この村も以前より豊かになり、過疎化も止まりつつあります。

○ローデネ村
 デンマーク国境の北端の村です。村人が全員で出資をして、「市民草原太陽光発電所」を作っています。計画段階で世界中の太陽電池十基ほどを並べて性能比較し、一番発電効率の良かったシャープ製に決めました。二千六百キロワット時の発電所施設です。
 ここの太陽電池は、日本で設置している太陽電池の三割増しの発電をしています。理由は太陽光追尾式自動制御架台です。五分ごとに向きを変え太陽の光を追っかけます。だから二十年間の買い取り期間ですが、初期投資分は六、七年で元を取ります。その架台は自分たちで生産し他所にも販売しています。太陽光発電設置の手伝いをする市民会社を作って、四百数十人の村で七十人の雇用を生んでいます。新たな産業と雇用を生み出し、活性化しています。

○発電の一部を住民に開放する企業
 バイエルン州で五万四千キロワット時のメガソーラー設備を民間企業のキャピタル社が設置している。その企業は、五万四千キロワット時のうち三千キロワット時は、地域住民所有に開放しています。
 地域住民に売電収入が入るように配慮をし、地域に受け入れられているわけです。

○バイオガス発電所
 畜産農家の多い村では家畜屎尿の発酵で得られるメタンでコジェネ発電をやり、出資した畜産農家は売電収入だけで元がとれます。さらに、農家にとっては畜産し尿自家処理負担がなくなります。メタンを抜いた後のカスは液肥として利用できますので肥料代も掛からない。地域はバイオガス発電所を作って以降、ドイツで有数の有機農業地帯に変わっています。

○反原発から再生可能エネルギーへ
 リューヒョウ・ダネンベルク郡にあるゴアレーベン村が放射性廃棄物処分場の候補地になった時、住民たちは猛烈な反対運動をしました。彼らの運反原発だけにとどまらず、百パーセント再生可能エネルギー地域づくりに転換しています。バイオガスで動く車を使い、風力や太陽光を使い、エネルギーの六五パーセントを再生可能エネルギーで賄うまでになっています。

○都市部の取り組み
 都市部でも取り組みはあちこちにあります。ハンブルクの市民が作った郊外の風力発電所。女性だけの団体が作った太陽光発電所。風力発電なども作っています。大学生が地域の住民たちと作った、サンブレラ・プロジェクトという太陽設備もあります。

   再生可能エネルギー熱法

 ドイツでは、新築の建築物には再生可能エネルギーの熱利用を法律で義務付けています。一定の面積の建物には、バイオマスや太陽熱や地中熱を使わなければいけなりません。
 約四百万の家庭があるバイエルン州には、ペレットストーブが二百十万個あります。

 今年、ヨーロッパは厳冬でしたが、ドイツは電力不足にならなかった。原発中心で電力中心に暖房をして電力不足となったフランスは、ドイツから大量の電力を輸入しました。

   再生可能エネルギー普及の影響

 再生可能エネルギーでの温室効果ガス排出回避量は、一億二千万トン。ドイツの温室効果ガス削減量の半分以上は再生可能エネルギーの普及によるものです。また、再生可能エネルギー産業の売上高は伸び続けています。二〇〇八年で二八八億ユーロ。五年間で二・九倍という急成長産業です。雇用も増え続けています。二〇一〇年で約三七万人。六年間でほぼ二・三倍です。

 国際的も貢献しています。ドイツは世界に呼びかけて「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)」まで作りました。現在の加盟国は、一五九か国とEUです。日本は遅れて加盟しました。

 市民や地域主導で再生可能エネルギーの普及が進み、それが促進された結果、環境保全や産業発展、雇用創出、エネルギー自給率の向上、農山村の発展、社会の環境意識の向上、国際貢献、こういうさまざまな社会的に良い影響をもたらしているのです。

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