活動のご案内

環境の取組

市民・地域主導による再生可能エネルギー普及 (1)

滋賀の生協 No.160(2012.11.16)
2012国際協同組合年記念企画
市民・地域主導による再生可能エネルギー普及
―安全で持続可能な社会に向けてー

2012年7月31日 滋賀県農業教育情報センター大ホール
主催 2012国際協同組合年(IYC)滋賀実行委員会

講師 和田 武氏(日本環境学会会長)
日本環境学会会長。元立命館大学教授、工学博士。専門は環境保全論、資源エネルギー論。主な著書に『脱原発、再生可能エネルギー中心の社会へ』『環境と平和』(以上あけび書房)、『飛躍するドイツ再生可能エネルギー』(世界思想社)など。



 エネルギー資源の枯渇問題、地球の温暖化問題、そして福島原発事故を契機として、日本でも「再生可能エネルギー」への国民的議論が高まっています。この二〇年間で再生可能エネルギーを飛躍的に普及させた、ドイツ、デンマークの経験に学び、どうすれば日本社会のエネルギー構造を再生可能エネルギー中心にしていけるのか。和田武日本環境学会会長に語っていただきました。

 昨年の東日本大震災、福島第一原子力発電所事故以降、日本でもやっとエネルギー問題の国民的議論ができるようになってきました。将来に向けて、日本社会のエネルギー構造を再生可能エネルギー中心にしていく必要があります。その際に「私たち市民とか地域の主体が深く関わる必要がある」という話をさせていただこうと思います。

再生可能エネルギー 普及の重要性と、原発の危険性

   再生可能エネルギー普及の重要性

 二一世紀は持続可能な社会にしていく必要があります。地球温暖化、地下資源の枯渇、原発の危険性、こういうさまざまな課題を克服した社会を作っていくためには、再生可能エネルギー中心の社会が最も望ましいことです。

 まずエネルギー資源の枯渇です。確認されているエネルギー資源の埋蔵量を、年間の生産量で割った値を「可採年数」と言いますが、石油で四〇・五年、天然ガスで六六・七年、石炭でも一六四年です。人類が地球上に登場してから数百万年経っていますが、何十年、百何十年というのは人類史で見れば一瞬なのです。ですから、人類のありようとしては今非常に特殊な生活をしている。有限な地下資源を使い続けることはできないのです。

 地球の温暖化問題。気温の観測記録が残っている千年間で、最近の百年だけ気温上昇し続けている。この百年間で約〇・七度上がっています。そのことによって既に世界各国で異常気象が起きている。現在の温室効果ガスの排出量から言って、今の状況が続けば二一世紀は大体摂氏四度気温が上昇するということです。こうなると、どういう事態を招くかわからないぐらいの破滅的な状況が生まれることは間違いありません。

 ですから、産業革命からの気温上昇を摂氏二度以下に抑えるということで、国際的に既に合意されています。そのためには温室効果ガスの排出量を二〇五〇年までに半分以下にしなければならない。先進国は八〇パーセント以上削減しなければいけない。しかし、この削減目標を実現するための国際条約はまだできていません。今ある国際条約は京都議定書のみで、その期限は二〇一二年まででしたけれども、とりあえず延長することになりました。ところが、日本政府はそれに反対して離脱するということをやってのけました。

   原子力と再生可能エネルギー

 発電手段ごとのCO2の排出量は、石炭類、石油、天然ガスの順に多い。最も少ないのは再生可能エネルギーか原子力ということで、日本は原発を増やしてきました。

 日本では、世界中で原発が増えているかのような報道がありますが、先進国では減っています。日本や韓国や中国などのアジアが増やしているだけの話です。(表1)

 二〇〇〇年から二〇一〇年の原発と再生可能エネルギーの伸び率を見ると、世界の再生可能エネルギーの伸び率は原発の伸び率の約五倍。先進国では八倍近い伸び率です。

 日本は原発を大幅に増やしたけれども、再生可能エネルギーはマイナスです。

 温室効果ガスの削減ができない理由として、
 一つ目は、電力会社は、CO2の削減のためと原発を増やしながら、一方で最も排出量の多い石炭火力発電所を一九九〇年比で一・五倍に増やしてきたこと。
 二つ目は、原発を拡大しても危険で不安定なために稼働率が上がらないこと。
 三つ目は、再生可能エネルギー普及の立ち遅れ。
 この三つが、温室効果ガスの削減ができない理由です。

表1:世界と先進国の原子力発電所基数の推移(1989年を基準)

   原子力重視政策の危険性

 原子力発電所は、ウランの核分裂エネルギーを利用する限り、核分裂生成物として高レベル放射性物質を生み出し続けます。一〇〇万kW級の原発が一日運転して生成する高レベル放射性物質は、広島の原爆の約三倍、一年間フル運転すれば約千発分たまるわけです。

 事故が起これば放射能が漏れる。起こらなくても、放射性物質処理処分過程で常に危険を伴う。世界の巨大地震が発生している地域で、原発が集中しているところは日本ぐらいです。世界で一番原発が多いアメリカは、ほとんどが地震のない東海岸にあります。ヨーロッパでも、中欧とか北欧はほとんど地震がありません。それでも福島原発事故後、ドイツやスイスやベルギーでは、原発を使わない方向を打ち出しつつあります。

   放射線被曝による人体への影響

 私は若い頃、原子力の平和利用は良いことだと思って、放射線を化学に活用する研究をしてきました。しかし、チェルノブイリの原発事故後、「こういう危険なものを作り続けるべきではない」と主張するようになり、「いつか日本でも巨大地震でこういう事故が起こり得る」と言ってきましたが、ついにそれが起こり、放射能の汚染が起きている。

 この事故で放出された放射能は、約二割しか地上に降っていません。八割は海側に流れています。全ての放射能が地上に降り注いでいたら、今の五倍以上の被害が出ていました。

 しかし、二割の汚染でもおそらくこれから、低線量被曝で影響がでてきます。

 高線量被曝の場合は、「確定的な影響」ということで、例えば放射線照射の被曝量が七シーベルトを超えますと、どんな医療を施しても死に至ります。

 低線量被曝の場合には、「確率的な影響」が出ます。例えば三〇ミリシーベルトの被曝をした土地に十万人が十年間居住した場合、千五百人の方が亡くなるという数字が出てきます。癌の中で一番早く出てくるのは甲状腺癌です。チェルノブイリ原発事故の後、五、六年後から甲状腺の癌が出てきます。子どもを中心にした癌で、当面注視する必要があります。成人の癌は二〇年ほど経過してから現れるので、因果関係が分かりにくくなります。

 もし、大飯原発で事故が起これば、福島の原発事故の比ではありません。

 福島の場合は汚染の八割が海に流れました。仮に福井周辺で冬から春にかけて原発事故が起きたら、北風が吹きますから大部分が関西を中心に地上に降り注ぐでしょう。

 しかも、福島の場合は、風で北方向に向かうはずの汚染が、千五百メートル級の山脈に阻まれ関東に広がりました。セシウムは重いから山を越えられない。福井と近畿の間には、千五百メート級が連なる山脈はありません。風に乗って鯖街道を通り、滋賀県に流れ込むのは明白です。(図1)

図1:京都市左京区北部も大飯原発50km圏内

   日本の原発推進政策の背景

 原発推進の費用は私たち国民が負担してきました。一キロワット時で、約二三円の電気料金を払っていますが、そのうち三七・五銭が「電源開発促進税」。平均的な家庭で毎月約一三〇円。総額で約三千五百億円。これが原発立地地域の交付金の財源です。

 原発推進政策は利権集団の利権を保つために継続してきました。原発推進で儲かる電力会社や原子力産業。そこからお金が流れる政治家。天下り先の原子力関連機関を確保する官僚。そして推進の科学者たち。東大には東京電力からだけで五億円近い寄付金が流れています。

 学校やマスコミも動員した原発推進の世論作りもこのお金が流れています。文科省は「原子力ワンダーランド」というテキストを使って小学生教育をやってきました。

 一方で原発を批判する人々に対しては、監視をするとか、昇進させない等の圧力をかけてきたわけです。

 私たちは今、そういう背景があったとことを忘れずに、国民の意見が反映できるような、政策決定プロセスを作っていく必要があると思います。

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