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IYC学習講演会

2023926

IYC学習講演会

 

テーマ「協同組合とは何か~果たすべき役職員の役割とは~」

(一社)日本協同組合連携機構 常務理事 伊藤治郎氏

 

みなさん、こんにちは。

 今日は、1995年に採択された、ICA(国際協同組合同盟)の「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」(協同組合原則)について、「協同組合とは何か」、「役職員は一体協同組合において何者なのか」を、改めて考えてみたいと思います。

 

JCAについて

 まず私の自己紹介です。日本生協連に入って既に40年近くになります。現在はJCA(日本協同組合連携機構)で働いています。私のキャリアの前半は事業関係をやっていまして、突然「ICAヘ行け」と言われ、シンガポールへ出向いたしました。その後は『中央会』的な仕事をやって、今のJCA にたどりついたということです。JCAに来てからは、協同組合の連携を呼び掛けて各地の会員組織を回っています。

JCAについて簡単にご紹介します。20184月にできた新しい組織です。日本国内には様々な協同組合がございます。これは日本の特殊性でもありますが、それぞれの協同組合の法律が違っていて、所管の省庁も違い、これまでバラバラに発展してきました。今地域には、いろいろな課題が山積しています。根深い課題もあり、新しい課題も生まれています。地域を基盤に活動をする協同組合は、やはり一緒になって取り組むべきだろう、より強いつながりを持った組織にしようということで、発足いたしました。JCA設立前にも、1956年からJJC(日本協同組合連絡協議会)がありましたが、新たに法人格をもって物事を進めて行こうということで、現在に至っています。

2012年、国連が定めた「国際協同組合年(IYC)」に、連携してイベントをやろうと「IYC実行委員会」ができ、2012年以降、後継組織の「IYC記念協同組合協議会」が設立されたのがJCA発足の一つのきっかけです。また、2015年、政府の「規制改革会議」の提言で「農協改革」の動きが始まりました。それに対し、生協や他の協同組合からも「協同組合はあくまでも自主自立の組織であって、政府からやめろとか言われるのはおかしい」という共通の問題意識が生まれて、絆が深まった。そんなこともあって、「JCAをつくろう」という機運となり、2018年に発足しました。

今、会長はJA全中の山野徹さん、副会長は日生協会長の土屋敏夫さんです。19の協同組合全国組織が会員となって運営されています。職員数は30名弱の小さな組織で、それぞれの会員からの出向職員で成り立っています。協同組合連携を進めるグループと、この組織の母体となったJC総研という研究所出自のグループで構成されています。

会員の協同組合は、各種協同組合の全国組織、そして「1号会員(一般社団法人の社員)」ではないが、中小企業団体中央会、信用金庫。信用組合といった協同組合の全国組織も「二号会員」として加盟いただいています。これで日本のほとんどの協同組合はほぼ網羅されているところまで来ています。

発足して五年。今後、必要な組織になるかどうかは、私たちの働き如何だと思っています。

 

■協同組合のアイデンティティ

 役職員の方は協同組合に入って間もなく、また理事の方は理事になられた時に、研修とか通信教育で「協同組合とは何か」を学ばれたと思います。しかし、それ以降、こういった話をすることはあまりなかったのではないでしょうか。復習という意味でも聞いていただきたいと思います。

・アイデンティティとは

 「アイデンティティ」とは、「自分らしさ」「自分は何者なのか」ということです。他者との違いを明らかにする意味でも、自分を知っておくことは重要だと思います。

 例えば、小・中学生に「協同組合って何か」を説明するのは、なかなか難しいです。

「共済と生命保険の違いは何か?」。加入いただく時に、説明するとは思いますが、その違いを根本まで突き詰めて説明できるか。また、「職員とはどんな存在なのか?」これは私が結論を持っているわけではありません。みなさんと一緒に考えていきたいと思っています。

・ロッチデール公正先駆者(開拓者)組合(1844年設立)

 「協同組合のアイデンティティ」、厳密に言えば「定義、価値、原則」の「原則」のもとになったルールは、「ロッチデール協同組合のルール」です。

特に生協の人たちはロッチデールが生協のパイオニアだと教わってきた。それ以前にも協同組合はありましたが、今につながる協同組合のルーツは、ロッチデール公正先駆者(開拓者)組合です。

工場の労働者たちが、1人1ポンドを積み立て、自分たちで商品を仕入れて販売をしたのが始まりです。現在の1ポンドは約180円で、大した金額ではありませんが、当時の1ポンドは労働者の週給に相当する金額でした。

  ※週2ペンス(後に3ペンス)を積み立て。1ポンド=240ペンス。1840年代ロンドンの工場労働者の週給は1821シリング(20シリング=240ペンス)(友松、駒澤大学経済学論集第43巻第3・4号)

ロッチデールの組合は、ルールをきっちり決めて発展しました。「これは素晴らしい協同組合だ」ということで、G.Jホリョーク(※オウエン思想の社会宣教師としてロッチデール先駆者組合の歴史を記した)が著書で全国に広めていった。それが段々とヨーロッパや世界に広がり、1937ICAパリ大会で、「ロッチデール原則」をもとに、協同組合世界共通の「原則」が定められました。

・ロッチデール以外にも協同組合が誕生

 そして同じ時代、ヨーロッパでは似たような協同組合が生まれます。1851年にJAの方はご存じのライファイゼンの協同組合。これは農協というより農村地域の「信用組合」です。お金を借りることが難しかった農民が「自分たちでお金を出し合って積み立て、必要な人に貸し出す」という仕組みです。1864年には都市部でも、デーリッチが中商工業者を組織し「信用組合」を起こしています。フランスでは1840年代に「生産協同組合」、デンマーク・ドイツでは「農協、酪農組合」と、ヨーロッパ各地で始まっています。

 日本では、それよりも前、1820年代に二宮尊徳の「五常講」、1838年に大原幽学の「先祖株組合」等、協同組合的な組織をつくっています。

・賀川豊彦(18881960年)~生協運動の父・JA共済の父

 生協やJA共済の方は馴染み深いと思います。賀川豊彦は、クリスチャンの友愛の精神で、救貧活動、農民組合、消費組合、共済組合の運動を提唱しました。「ガンジー、シュヴァイツァー」と並ぶ現代の「三大聖人」と世界で注目されましたが、日本では歴史から忘れ去られた方です。今年は「関東大震災100年」ですが、神戸で活動をしていた賀川は、関東大震災の翌日には東京に行き救済活動を始めています。災害復興で「ボランティア」という言葉を初めて使ったのは賀川とも言われています(当時は「ボランチャー」という言葉を使用)。協同組合関係者の中では、賀川豊彦に改めてスポットライトを当て、イベントやシンポジウム等の準備をしています。

 また、賀川は「協同組合の精神を一口に言えば助け合い組織である」と言っています。また、「協同組合の中心思想」として、「➀利益共楽②人格経済⓷資本協同④非搾取➄権力分散⑥超政党⑦教育中心」の7つにまとめています。ICA7原則と数はたまたま同じですが、似たような考えを持っていたことがわかります。

 今ラグビーのワールドカップが行われています。「一人は万人のために。万人は一人のために」という標語は、ヨーロッパの古くからの「言い伝え」だと言われています。日本では賀川豊彦が始めた「灘購買組合」で、1932年から商品価格表に記載されていた記録が残っています。

・ロッチデール組合のルール

 「ロッチデール組合のルール」の一部です。

     主として自らの出資金により開店する

     可能な限り純粋な生活物資を供給・分量をごまかさない

     掛け売りをせず、労働者の負債を防止する(現金主義)

     市価で販売し、商人と競争しない(利用高配当の原資に)

     組合員をして利益を組合銀行に貯蓄せしめ、節倹を教える

     全剰余の 2.5%を教育に充てる

     1 1 票の民主的表決権

     犯罪や競争のない産業社会を建設するため協同組合の商工業を発展させる

     「自らの出資金により開店する」。

②の「純粋な物資」「ごまかさない」というのは、「協同組合の価値」の「正直・誠実」につながります。③「掛け売りをしない」は、今はクレジット・カード等がありますが、当時は高利貸しの犠牲になるということもあり、まずは現金主義というルールになりました。④「市価で販売して競争しない」は、当時はあえて商人と競争せず、年度末に利用高に応じて割り戻しをしたことがポイントです。これが後々、利用高配当だけを目的に利用する。そして割り戻し目当てが増え、協同組合らしさをなくしていく一つの原因になっています。⑥「全剰余の 2.5%を教育に充てる」⑦「1 1 票」は、今でも生きているルールです。⑨の「犯罪や競争のない産業社会を建設する」ですが、ロッチデールの組合は、生協というよりも「様々な事業を行うことによって健全な社会を作っていく運動だ」ということを明記しています。

・協同組合アイデンティティの変遷

 1860年の「ロッチデールのルールブック」から始まった「協同組合のアイデンティティ」は、変遷を重ねます。1937ICAパリ大会で採択された「協同組合原則」は、1966年と1995年の2回の改訂を経て現在に至っています。1992年にアジア初のICA大会が東京で開かれました。日本の協同組合も積極的に議論に参加し、1995年マンチェスターでのICA100周年記念大会で現在の「アイデンティティ声明」が採択されたわけです。

 それを受けて、2年後の1997年に農協では「JA綱領」が定められる。生協でも「生協の21世紀理念」が定められる。2003年に漁協の「JF綱領」が、2009年には森林組合の「JForest綱領」が採択されます。これらは全てICAの「アイデンティティ声明」をベースにつくられたものです。

 1995年以降、2001年「国連協同組合ガイドライン」、2012年「国際協同組合年」、2015年「SDGs」、2016年「ユネスコ無形文化遺産」等、国連組織の場で、協同組合が次々と位置づけられていきます。

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・「協同組合原則」から「協同組合のアイデンティティ」へ

 1995年の「ICA声明」までは、「ロッチデールのルール」をベースにした「原則」だけでした。しかし、協同組合は生協だけではない。いろいろな協同組合が様々なルーツから発生しています。だから、特定の協同組合のルールをベースにした「原則」ではしっくりこないという声がありました。同時に、1980年代は「株式会社等と何が違うのか」が不明確になってきた時代で、改めて「協同組合とはいったい何なのかを示すべきではないか」という議論が出て来た時代です。

 そうして、「定義:協同組合とは何か」「価値:大切なもの、理想の姿」「原則:価値を実践するための指針」の三点セットで「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」が定められたわけです。

・背景~政治・経済・社会の変化(197080年代)

 1970年代から80年代、市場経済が急速に拡大した。「貿易の自由化」「新自由主義」の考えが広がり、「多国籍企業(グローバル企業)」が規模を拡大し、国境を超えて影響を及ぼすようになった。つまり、「投資家所有の企業(株式会社)」が発展した。また、社会主義国が崩れ資本主義経済に変わっていく。一方、協同組合は協同組合らしさを失い、競争に破れて倒産や、株式会社化する事態となった。そういう状況下、協同組合は「価値のあるものなのだ」ということを内外に示す必要性が生まれたわけです。

ICAにおける議論と日本の協同組合運動

 「協同組合はこれでいいのか」「21世紀に向けてどういう協同組合をつくるのか」「解決策は自分たちで考えろ」と提起した1980年の「レイドロー報告」から始まり、「マルコス報告(1988年ストックホルム)、「ベーク報告(1992年東京)といった協同組合のリーダーの問題提起をもとに展開された議論は、最終的に現在の「協同組合のアイデンティティに関するICA声明(1995年マンチェスター)」に結実されていくわけです。

その過程で日本の協同組合は注目をされ、その影響は今の「アイデンティティ声明」に大きく反映されています。ヨーロッパでは、組合員はただのお客さん。買い物する以外ほとんど関りを持っていなかった。一方、日本の協同組合は、JAは農村地域に根差した活動を行い、地域住民、農民の社会的な生活インフラになっていた。生協も伸び盛りで組合員はどんどん増え、共同購入を中心に組織が大きくなり利用も増えていった。また班をベースに組合員が運営参加し、様々な議論がされていた。また生協が女性の社会参加の場にもなっていました。こういう背景の中、1992年、東京で開催されたICA大会で実際に日本の活動を目の当たりにした世界の協同組合は、「組合員へ帰れ」というメッセージを共有します。

 「定義」の中に「経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たす」というフレーズがあります。この「文化的」という言葉は、「ただの生活だけでなく、より文化的で豊かな生活を実現しよう」という日本の生協の思いが反映されています。

また、1992年は「国連環境開発会議(リオ+20)」が開催され、「持続可能性」が大きなテーマとなりました。「生協の21世紀理念(1997年)」にも「持続可能な社会」という言葉が入っています。

・「レイドロー報告」における日本の総合農協

 レイドローは「協同組合地域社会実現のためには、日本の総合農協の視点で捉えなければいけない」と述べています。「営農」だけでなく「信用」「保険」「生活物資の提供」「医療サービス」まで「生活インフラ」として提供し、それを組合員参加で進めていることがインパクトを持って受け入れられました。

※「協同組合地域社会なるものを創設するという点で、都会の人々に強力な影響を与えるためには、例えば日本の総合農協のような総合的方法がとられなければならない。従来の消費生協では不充分である。すなわち、都市の住人をいろんな点で護っていないからである。

    日本の総合農協が何をし、どんなサービスを提供しているのか考えてみたい。日本の農協は生産資材の供給、農産物の販売をしている。貯蓄信用組織でもあり、保険の取扱店であり、生産物資のセンターでもある。さらに医療サービスや、ある地域では病院での診療や治療も提供している。農民に対しては営農指導もし、文化活動のためのコミュニティ・センターも運営している。要するに、この協同組合はできるだけ広範な経済的社会的サービスを提供している。もし総合農協がなければ、農民の生活や地域社会全体の生活は、全く異なったものであったろう。(アレックス・レイドロー「西暦2000年における協同組合」日本生協連訳)

・協同組合と株式会社、NPOとの違い

 「アイデンティティ」は、「協同組合と、投資家所有の株式会社、不特定多数の人たちにいろいろな活動を行うNPO等非営利組織との違いを明確にする」ということで定められました。1995年に「アイデンティティ声明」が定められた頃も「差がなくなってきている」と言われましたが、いま改めて協同組合と株式会社との境がなくなってきているのではないかということで図をつくってみました。

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・なぜ今アイデンティティを議論するのか

 「SDGs(持続可能な開発目標)」が折り返し点を過ぎ、2030年まで7年を切りました。日本生協連も「SDGs行動宣言」を定める等、協同組合は具体的取り組みを行っています。

 一方で株式会社の側も、株主への配当だけではなく、「ESG投資〈Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)〉」等、投資家が環境や人権問題はじめ、いろいろ目配りをして課題解決に関わることを要求してきている。株式会社の方も考え方を変えなければいけない時代になっています。

 また、「ステークホルダー資本主義」も台頭してきています。株主だけでなく、従業員、顧客、地域、原料産地の人権まで配慮した事業活動を行うことが求められています。社会的課題を解決するためにつくられた社会的企業、認証制度でBBenefit)コーポレーションといった制度もできています。

 株式会社が、これまでの協同組合のジャンルにすすんできて、宣伝もうまくテレビでは様々な企業がSDGsとか社会的な取り組みを派手に宣伝しています。

 改めて「協同組合って何だろう」と考えることが提起されています。

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・労働者協同組合

 202012月、「労働者協同組合法」が超党派で可決・成立。202210月に施行されました。働く人たち自ら出資し、それぞれの意見を運営に反映し、自分たちで事業を行う協同組合の法律ができました。

 この活動自体は40年以上前から行われてきましたが、これまでは法律がなかったため、NPO法人や企業組合等の法人形態で運営してきました。このたび改めて労働者協同組合として位置付けられました。行政からの事業受託、生協の物流施設の業務、からフードバンク、子ども食堂等地域における活動まで、労働者自らがお金を出し合って運営している。そういった協同組合です。

 法人形態の転換だけでなく、各地で新たな労働者協同組合が生まれていますので、ぜひ、IYC記念滋賀県協同組合協議会としても連絡を取っていただき、協同組合の仲間として受け入れていただきたいと思います。

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■協同組合のアイデンティティに関するICA声明(1995年)

・〈定義〉=協同組合とは何か

  ※協同組合は、人びとの自治的な組織であり、自発的に手を結んだ人びとが、共同で所有し民主的に管理する事業体をつうじて、共通の経済的、社会的、文化的なニーズと願いを叶えることを目的とする。

 協同組合は、人と人とがつながる自主自立の組織であると同時に事業を行っている。これが特徴です。これは(お金のつながりが基本の)株式会社や(事業を行わない)NPOとは違うところです。

・〈価値〉=協同組合が大切にしていること

  ※協同組合は自助、自己責任、民主主義、平等、公正、連帯という価値を基礎とする。協同組合の創設者たちの伝統を受け継ぎ、協同組合の組合員は、正直、公開、社会的責任、他人への配慮という倫理的価値を信条とする。

一般的な価値の中で、協同組合が特に重視すべき価値を挙げています。ポイントは、「自己責任」。日本社会ではネガティブな意味ですが、「自分たちの協同組合は自分たちの責任で維持発展させていこう」という意味の「価値」です。もともと、ライファイゼンの「価値」の中にあったものです。

・〈原則〉=協同組合原則は、協同組合がその価値を実践するための指針である。

1原則自発的で開かれた組合員制

  ※協同組合は、自発的な組織であり、性による差別、社会的、人種的、政治的、宗教的な差別を行わない。協同組合は、そのサービスを利用することができ、組合員としての責任を受け入れる意思のあるすべての人びとに開かれている。

 「協同組合に入ってください」とお誘いする時にはメリットばかり説明して「責任・義務」は言いづらいですけど、第1原則は、「サービスを利用」できる「権利」だけでなく、「利用して参加する」という「責任や義務」もあることを示しています。

2原則組合員による民主的管理

  ※協同組合は、組合員が管理する民主的な組織であり、組合員はその政策立案と意思決定に積極的に参加する。選出された役員として活動する男女は、すべての組合員に対して責任を負う。単位協同組合の段階では、組合員は平等の議決権(一人一票)を持っている。他の段階の協同組合も、民主的方法によって組織される。

 これは「一人一票」という言葉に代表される内容です。

3原則組合員の経済的参加

  ※組合員は、協同組合に公正に出資し、その資本を民主的に管理する。少なくともその資本の一部は、通常、協同組合の共同の財産とする。組合員は、組合員になる条件として払い込まれた出資金に対して、利子がある場合でも、通常、制限された利率で受け取る。組合員は、剰余金を次のいずれか、またはすべての目的のために配分する。

・準備金を積み立てて、協同組合の発展に資するためーその準備金の少なくとも一部は分割不可能なものとするー

・協同組合の利用高に応じて組合員に還元するため

・組合員の承認により他の活動を支援するため

 「参加」についてです。「経済的参加」ということですが、「出資をして剰余金をどのように分配するのか」しか書かれていない。JCAとしては「利用についても何か入れられないか」と考えています。

 ここは、事業をつうじて生み出された剰余は全て株主に配当するのではなく、利用に応じた還元だということを確認しています。

4原則自治と自律

  ※協同組合は、組合員が管理する自治的な自助組織である。協同組合は、政府を含む他の組織と取り決め行なう場合、または外部から資本を調達する場合には、組合員による民主的管理を保証し、協同組合の自治を保持する条件のもとで行なう。

 協同組合は自治的な組織であるというのは、私たちには当たり前のことですが、旧社会主義国とか、発展途上国では、国策の手段として協同組合が利用されてきたことがあり、「自主自立」ということは言いづらかったわけです。しかし、1995年当時はすでにアジア・アフリカの新興国は独立し、社会主義国は民主的な方向に進みつつある時代でしたので、新しい考え方ということで、95年に加わりました。

5原則教育・研修および広報

  ※協同組合は、組合員、選出された役員、マネージャー、職員がその発展に効果的に貢献できるよう に、教育と研修を実施する。協同組合は、一般の人びと、特に若い人びとやオピニオンリーダーに、協同することの本質と利点を知らせる。

 ここ以外に「役員、マネージャー、職員」が位置づけられている原則はありません。

 また、この間講師として参加させていただくと、各地の協同組合関係者から、「広報が下手だよね」「なかなか協同組合の良さが、内外に伝えられていない」という声が多く聞こえます。自分たちが「協同組合の良さ」を理解していないと伝えられない。改めて協同組合の特長について考えていただきたいと思います。

6原則協同組合間の協同

  ※協同組合は、地域的、全国的、(国を越えた)広域的、国際的な組織を通じて協同することにより、組合員にもっとも効果的にサービスを提供し、協同組合運動を強化する。

 これも新しい考え方です。JCAも「協同組合間協同」を進めるために出来た組織です。

7原則地域社会(コミュニティ)への関与

  ※協同組合は、組合員が承認する政策にしたがって、地域社会の持続可能な発展のために活動する。

 これも1995年に加わった原則です。協同組合は、組合員のニーズを満たす「共助・互助」の組織です。組合員の生活や生産力・所得を上げるのが第一の目的。しかし同時に、地域に根差した組織でもあります。地域の発展なくして協同組合の発展もないわけで、地域に関わっていくことは必要不可欠です。

 ただ、制限なく全てやるのではなく、「組合員が承認する政策にしたがって」という条件が加えられました。生協でも、「子ども食堂」「フードバンク」等への協力については、総代会等で組合員の了承を得るプロセスを踏んでいると思います。

・国際社会の協同組合に対する認識

 ILO(国際労働機関)や国連等は「協同組合は持続可能開発、貧困解消等に大変役立つ」ことを、国際的枠組みで確認をしています。「アイデンティティ」についても、「国連の協同組合ガイドライン」(2001年)や「ILO193号勧告」(2002年)等で位置づけられています。このルールは「国際公報」に準ずる扱いとなっています。

  ※【ILO193号勧告「協同組合の振興」(2002年】(前略:アイデンティティをそのまま引用)雇用創出、資源動員、投資創出、経済寄与における協同組合の重要性、協同組合が人々の経済・社会開発への参加を推進すること、グローバル化が協同組合に新しい圧力、問題、課題、機会をもたらしたことを認識し、協同組合を促進する措置を講じるよう加盟国に呼びかける。

 「アイデンティティ」は各協同組合法の下地にもなっていますが、「農協法」も「生協法」も戦後すぐにできた法律で、「1995年原則」は反映されていません。

 

■協同組合のアイデンティティの見直しについて

ICAソウル大会(202112月)

 202112ICAソウル大会で「必要であれば、今のアイデンティティを見直そう」と提起されました。1995年から30年近く経って、社会経済の環境は大きく変化しています。今の「協同組合アイデンティティ」は、現代社会において適応できているかを改めて検証しようということで、議論が進んでいます。早ければ2025年のICA総会で改定が決まるということになります。

・論点となり得る事項()

 今の「アイデンティティ」で論点になりそうなテーマの「JCAのたたき台」です。

 ➀「地球環境」:「ガイダンスノート」(ICAが発行しているアイデンティティの解釈指針)の中には第7原則「コミュニティへの関与」の中に「持続可能な環境」の概念が入っているが、1995年に比べ、「気候危機」は待ったなしの課題になっているので、改めて「環境」というものについて明記すべきではないかという論点。②「平和・非暴力」:ロシアによるウクライナ侵攻は出口が見えていない。⓷「多様性・包摂性」④職員(従業員)の位置づけ」➄「組合員の経済的参加」:出資についてしか記載されていないので、より広い経済的参加へという論点。さらに「運営への参加」という概念も考えていくという論点。そして第7原則にも関わってくる「地域社会の課題に対応する活動への参加の保証」という論点。

 

■協同組合の職員

・「協同組合のアイデンティティ」における役職員

 現在、「第5原則教育・研修および広報」以外、マネージャー、職員に言及している原則はありません。

・ロッチデールの時代

 職員・従業員問題の議論は、ロッチデールの時代までさかのぼります。

 「トード・レーン(1844年の最初の店)」の当時は、小麦粉、バター、砂糖、オートミール」の4品を提供するだけでした。G.Jホリョーク著の「ロッチデールの先駆者たち」には、ロッチデールの28人の出資した先駆者自身が「出納係」「販売係」等と、店の運営を担っていたと書かれています。

・規模拡大にともなって

 しかし、時代とともにお店が増えて、30年後には16のお店(支部)ができました。組合員自らが働くことができなくなり、従業員を雇います。規模の拡大とともに、組合員と職員が分かれていきました。

さらに、もともと紡績、織物工場の労働者が出資し合って立ち上げた組合です。1855年には協同組合による紡績工場も立ち上げます。紡績工場で得られた利益は、出資金に対する配当だけでなく、働いた組合員にも労働に対する配当が分配されました。この段階では職員=組合員だったと思います。物資を供給する生活協同組合なら「出資金に対する配当」と「利用高割り戻し」の二つですが、生産組合では「出資に対する配当」と「働いた見返りとしての利益分配」が行われたわけです。これは、出資だけの組合員には面白くない。反対者が増えてきて、最終的に、働いている組合員への利潤分配はなくなりました。

この議論はロッチデールだけでなく、他の地域、イギリスの国内、さらにはヨーロッパの中でも、ICAの場でも議論が広がり、20世紀初頭の国際的な場では、職員に対する利益の配当は消滅しました。

1995年アイデンティティ議論に向けた職員問題

「レイドロー報告」では、「労働者は単なる"雇われ者"というより、よき"共働者"」と位置づけています。

 また、1992年のICA東京大会にむけた「ベーク報告」では、「これまでは組合民主主義に焦点をあててきたが...(職員の)意思決定や資本調達、福利などへの職員の参加という問題が次第に重要になってきた」と指摘、さらに「共同経営(コ・パートナーシップ)モデル」を提案。そこでは「職員は所有権を持つと同時に、正組合員と共に組合員の資格も持つ」べきではないかと言っています。これは今言われている「マルチステークホルダー型協同組合」にも通じるものだと思います。

ICA協同組合原則へのガイダンスノート」(2015年)

 「協同組合原則へのガイダンスノート」という文章があります。1995年の「ICA声明」が出た時も、「背景資料」という説明文書がありました。それを2015年に現代的に書き直したものです。

 この「ガイダンスノート」の「第1原則:自発的に開かれた組合員制」に「職員は、協同組合に貢献し、その成功を見届けたいと思う重要なステークホルダーである」という説明があります。

 このように言われるようにはなっていますが、まだアイデンティティ上では明確な位置づけはされていないということです。

・マルチステークホルダー型協同組合

スペインの北部にバスクという独自の民族文化を持ち、独立運動も活発な地域があります。ここをベースに「モンドラゴン」という、地域ぐるみの協同組合企業グループがあります。働く人たちが出資し合い、家電工場や金融等、様々な企業体をつくっている労働者協同組合ですが、生協事業も行っています。

その生協部門の協同組合を「エロスキ」と言います。日本の生協でも組合員になっている職員がいますよね。でもそれは労働者の立場ではなく、あくまでも利用者の立場です。しかし、「エロスキ」の場合は、労働者の立場での組合員と消費者の立場での組合員がいます。「モンドラゴングループ」の労働者組合員の平均出資金は約150万円ですが、消費者の組合員は、2ユーロ(500円以下)です。総代会での、労働者の総代数と消費者の総代数は250人ずつ。代表の比率は全然違いますけど、総代会の場では数は一緒なのです。意志決定は「1人1票」ですので、利害対立しないのかなと思いますけど、彼らは「大丈夫だよ」と言っています。いろんなタイプの組合員がいるという「マルチステークホルダー型協同組合」です。

日本の医療生協も、一般市民(患者さん)と、医療従事者(お医者さん、看護師さん)が一緒に組合員になっています。これも生協法上での区別はないのですが、医療従事者側の組合員と市民の側の組合員が一緒になって運営しているという意味では、「マルチステークホルダー」ではないかと思います。

・協同組合職員の地位と役割

 協同組合は、「事業体(enterprise)」であると同時に、自発的に手を結んだ自治的な「人の集まり(association)」という、二重性があります。簡単に言えば。エンタープライズは事業を進める側面と、アソシエーションは、組織の運営や組合員活動を行う側面とに分けられています。

 ただこれは、事業が発展していくにつれ、事業優先の意思決定になりがちです。経営する方々にとっては、組合員に利用していただき事業を成功させていかないと、協同組合自体の存在が危うくなるわけですから、そこは当然かなと思います。

 しかし、一方で事業が強くなって、事業と組織運営や活動が分化していくと、事業の利用しかしない組合員が増えていく。職員はサラリーマン的な働き方になってしまう。

 週末や夜にいろんな活動が行われますと、職員も参加しにくくなるし、経営側からすると無理に働かせて労働問題にも発展しかねない。やりづらい時代になってきましたが、これもまた現実です。

 一方で、組合員の側も、例えば農協で言えば、兼業農家が増えていく中で、日中は勤め人の方が多い。生協でも、かつて専業主婦の方々を前提につくったモデルが機能しなくなってきた。今までの前提が崩れてくるわけです。参加の仕方が、難しくなってきています。

 協同組合の職員には二重性と4つの側面があると思います。「労働者性」の中には、①「従業員」としての側面と⓶「専門業務従事者」の側面があります。農協で言えば営農、信用、共済、購買事業等のスペシャリストとしての活動です。また「運動者性」の中には、⓷組織活動を行う「組織者」の側面と④組合員と共に協同組合の発展のために活動する「共働者」の側面があります。

 さらに役職員は、「連結者」という、それぞれをつなぐコーディネーターの役割があります。一つは、役員には職員から出てきた方と組合員から選ばれた方がいらっしゃる。そういった方々の間をつなぐのが職員です。もう一つ、協同組合と外部社会をつなぐのも大きな役割です。

 例えば、「生活協同組合しまね」の活動から生まれた助け合い組織「おたがいさま」です。これは生協の中の組織ではどうしても制約があるので、外に出して社協やJA、医療生協、行政とつながる。そして、協同組合の職員が、地域と協同組合をつないでいく。そういう役割を果たしていると思います。職員のみなさん、JAで言えば支店の担当の方々が、地域の方々、組合員のみなさんといかにつながっていくのか。これからさらに問われてくると思います。

例えば、JAや漁協の職員は機能別に分かれていますよね。「信用」の方はずっと「信用」、「営農」の方は「営農」とスペシャリスト化して、横のつながりができづらくなっています。

生協で言えば、個配も業者委託の生協が増えています。一方で、生協の職員として直接雇用していくという動きも出ています。これから、「2024年問題(年間の時間外労働時間の上限が960時間に規制されることによって生じる運送会社の売上・利益の減少、ドライバーの給料の減少・離職などの問題)」もあり、働ける人が減っていく。「いかに自前でやっていくのか」ということが問われてきています。

また、いろいろな研修を通じて、生協のこと農協のことをよく理解していただいている委託労働者もいらっしゃいます。条件面とかありますが、そういった方々にも「協同組合の良さ」を実感してもらえるよう、努力していく必要があると思います。

 事業を進めていく人たちにも「運動者性」を学んでいただく。運動中心の方々にもビジネスマインドを身につけてもらう。それには人事異動とか、交流を深めていくことに尽きるのかなと思います。

 例を挙げますと、JAグループ兵庫では、職員を3つの階層別に、年に45回「塾」を開いています、私が講師をした中堅クラスの「みどり塾」には、コープこうべの職員も参加して、「協同組合らしさ」を学びました。「県内でもJAが違うとやっていることも違うし、刺激もある。さらに生協の人とも触れ合うことができて、視点が変わり視野も広がるいい機会でした」とおっしゃってくださいました。

 また、兵庫県協同組合連絡協議会では協同組合の枠を超えた研修会を、特に若手中心に年3回、泊まり込みで開催しています。単に学ぶだけではなく、同じ人が研修会を3回受け、その中でグループをつくりいろいろな課題解決のプランをつくって、それを実践に移す活動をやっています。例えば、瀬戸内海では、農業者の高齢化等により、ため池の適正な管理が困難になってきており、ほとんどのため池で昔から行われていた「かいぼり(池干し、泥ながし)」が行われなくなっています。一方、下水道整備が発達したことで、海の栄養塩濃度が低下し、漁獲量が低下したり養殖海苔の色落ちが問題化するなどしています。それを、いろんな協同組合が連携して、ため池の「かいぼり」をして、海に栄養を戻そうという活動に発展しました。

 

■協同組合間連携のススメ

・協同組合連携について

 JCAでは、都道府県の協同組合連携組織に「ラウンドテーブル(円卓会議)」で率直な課題の共有から始めて地域課題において協同組合間連携を進めることを提起しています。今17の都道府県で会合が持たれ、「自分の県の課題」「一緒に何ができるか」をを話し合い、実際に行動に移っている県域もあります。異なる協同組合間が連携することで相乗効果が生まれ、足りないところを補い合う。「同質の協力は"和"にしかならないが、異質の協力は"積"になる」は、労働者協同組合法成立にも尽力していただいた笹森清元中央労福協会長・連合会長の言葉です。

・滋賀県における協同組合間連携

 滋賀県では「2012国際協同組合年(IYC)」を契機に、20133月に、6団体が連携して「IYC記念滋賀県協同組合協議会」が設立されました。

 20214月、コープしがとJA全農しがが「滋賀県産農畜産物産地の維持拡大に関する協同組合間協同の協定書」が締結されました。20226月、コープしがとJAレーク滋賀が「地場産提携に関する協同組合間協同の協定」を締結しています。こういった事業を通じた連携も大事です。

・他県における協同組合間連携

青森県では、後継者不足や高齢化による人手不足に悩む農業者と、農業をサポートしたい消費者を結ぶ「援農ボランティア事業」を行っています。

神奈川では2012年に労福協と協同組合が母体となり、「フードバンクかながわ」が設立されました。今フードバンクへの寄付減少が報じられる中、JAが精米機を提供、イトーヨーカドーや山崎製パン等からも多くの寄付が集まっており、活発に活動しています。またこの連携組織を通じて、JAでは、生協との提携を中央会が単協に斡旋・紹介をする活動も行っています。神奈川県協同組合連絡協議会には、連合会・中央会組織だけでなく単位組合も、協同組合だけでなくNPO組織、消費者団体や労働者福祉協議会等も、80を超える組織が加盟しています。

奈良県では、ならコープ、JAならけん、奈良県森林組合連合会、奈良県生協連が連携し「吉野共生プロジェクト」で、吉野の森と水を守るための募金活動などを行っています。

・協同組合間連携のキャッチフレーズ

 「ゆるやか あいのり やってみる」これは協同組合連携のキャッチフレーズです。

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 できることから。どこかが良いことをやっていれば乗っかる。ゼロから考えるよりも楽です。失敗してもいいじゃないか。ぜひ小さいことから、みんなで、進めて行ければなと思います。

 ぜひ私達JCAもご協力させていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。