だから海のことを視野に入れないと温暖化問題は解決しない。しかし、それは森と川と海との関係をちゃんとしておくことが条件なんです。 沿岸域に「鉄」はどこから来るか。森から来る事がわかったんですね。これが我々漁師が山に樹を植えている理由です。樹齢百年のぶなの 木には葉っぱ三十万枚ついている。その葉っぱが秋に落ちますね。腐葉土ができます。腐葉土ができますと、土の中に酸素がないところがで きる。酸素がなければ土に含まれている「鉄」が水に溶けます。ところがこれが川に流れていくと酸素がありますから、また酸化してしまう 。酸化鉄はでかすぎて植物の細胞膜を通過できない。しかし、海では、海苔もわかめも採れる。牡蠣もあさりも獲れる。どこからか「鉄」が 来ているんですね。調べていたら、この森林の腐葉土ができる時に、「フルボ酸」という酸が出て、これが「鉄」と相性が良いんです。くっ ついて「フルボ酸鉄」になります。これは小さい塊の「鉄」で、しかも酸素と出会っても酸化しない。これが川から海に流れて、植物に取り 込まれるまで漂っていられる「鉄」なんです。 沿岸域の河口地域はどこへ行っても魚や貝が獲れるのは、こういう鉄が供給されているからなんです。文字通り「森と海は恋人」なんです ね。日本列島は真ん中に山脈があって、日本海と太平洋に、二級河川まで含めると二万一千本川が流れ込んでいます。 大阪の関空は今水産の世界では有名なんですよ。あのまわりにものすごい海藻が生えているんです。魚もすごいんです。あんな汚い海にね 。「それはなぜか」関空って地盤沈下がひどいじゃないですか。それで、最初ここに「鉄鉱石」を入れたんです。 「もののけ姫」の映画はね、タタラ(踏鞴)が舞台になっていて、鉄を作ることが罪を作る。森林を切って、鉄が武器になって、それで戦 争になっちゃう。宮崎駿は「鉄」のイメージがすごく悪いんですよ。だけど「鉄」のこのメカニズムを盛り込んで物語を書けばまた違った世 界が見えてくるはずだと思うんです。 これは広島大学の先生から聞いたんですけれども、昔、山口から中国地方、京都のあたりまでタタラ場があった。タタラは炭をおこして、 三日三晩だか風を送り込んで「砂鉄」を溶かす。その塊を細かく割って玉鋼とかいろんなものをとりますね。残った「鉄」は全部山に捨てて いたわけです。それが今すごく残っているわけです。そうするとまわりは森林ですから、葉っぱが落ちてイオン化した鉄と「フルボ酸」が結 びついて「フルボ酸鉄」になって瀬戸内海に流れているんですよ。瀬戸内海はね、立方メートルあたりのプランクトンの生産量が世界一高い 海なんです。 それから北海道の日本海側の「磯やけ」。昔昆布がいっぱい採れたところが、今、真っ白になって何にもないんですよ。山を伐ってしまっ たということと、海岸を全部道路にしてコンクリートで固めているわけですよ。そうすると森の「鉄」が海に来なくなる。そうすると、海が 真っ白になったんです。じゃあ緊急策ということで、新日鉄が「鉄鋼スラグ」という、鉄を作ったカスに腐葉土を混ぜたものを袋に詰めて、 穴を掘って海に埋めておいた。すると昆布がもう、信じられないほど生えてきたんです。 ということで若干文句を言ってくる人もいる かもわかりませんけども、私たちは今まで地球温暖化には絶望しかなかったけれども、ジョン ・マーチンの研究一つ知っただけでも希望を与えられるんじゃないかと思うわけです。六月末に発表される拙著「鉄が地球温暖化を防ぐ」( 文藝春秋)を是非読んでみて下さい。思わぬ世界が見えてくるはずです。 ▲入り組んだリアス式海岸で知られる宮城県の唐桑半島。その内に分け入ったところにひっそりと位置する舞根湾。ここに畠山重篤さんの牡蠣の養殖場があります。 | ▲畠山重篤氏は「森は海の恋人」(文春文庫)をはじめとして何冊も著作を出版されています。それを販売される奥さん。 | ▲これから船で舞根湾の牡蠣の養殖場を見学。向かって右端が息子の畠山信(マコト)氏。中央は加納県連会長。 | ▲研修の最後には、たき火で牡蠣やホタテ貝を焼いていただきその美味を味わいました。 | 畠山氏の新著「鉄が地球温暖化を防ぐ」(文藝春秋刊)は六月二十五日発売の予定です。 | |