我々は東北ですから、関西との付き合いがあまりなかったんですけど、たまたま五年前にここに、京都大学から林学、河川生態学、それから水産の博士がお見えになりました。
私たち漁師が山に木を植えるというようなことは、研究者から見れば非常に驚きなんだそうです。今の学問は縦割りで、狭くて深い体系になっておりますから、山から海までどうなっているかということを大学は研究してなかったんですね。
海の潮水だけでは生き物は育たないんです。山に降った雨が川を流れて、淡水と海水が混ざり合っているところで、我々が食べている生き物は獲れているわけです。海藻類がその典型です。播磨灘でも、吉野川や紀の川の淡水と海水が混じり合って海苔が獲れている。わかめも、てん草も、とにかく海藻類は絶対潮水だけでは育たない。厳島の牡蠣も太田川の河口の淡水と海水が混じり合った汽水域で獲れる。
ただ学問的には、こういうことはほとんど解明されていないんですね。京大の先生方も心ある方々はそう思っていらっしゃるんですけれども、なかなか壁を越えることは難しい。今大学は独立行政法人となって、独自のカラーをださないと生き残れなくなったという背景もあるんですね。
林学という学問は非常に広い演習林を持っているんですよ。京大でも北海道の釧路あたりにも何千ヘクタールも持っていますし、京都の周辺では芦生演習林とか、和歌山の方とか、あちこちに持っているんです。でも今林業が凋落してますもので、「そんなに山を持っていてどうするんだ」ということを会計検査院から言われるらしいんですよね。山を持っているとものすごく管理費がかかるんです。まず一つそういう事があるらしいです。
理学部も京大のフィールドは和歌山の白浜にあるんです。水族館も持っていて、海辺にものすごい敷地があるんです。でも大体大学がやっている水族館なんて赤字ですから、「そんなもの持っていてどうするんだ」ということですね。
水産は舞鶴に実験場があるんです。ここは世界で一番魚の標本が集まっているという有名な実験場ですね。でも海の実験場というのは、船もなければならない。また金がかかるんです。そういうことで締め付けがいろいろあるんですね。
これは、それぞれ単体で考えたら持ちこたえられないという事で「森林から海までが全部繋がっている」という格好で、今までバラバラの農学部、理学部の運営だったものを一つの組織にして「京都大学フィールド科学教育研究センター」という組織を作ったわけです。普通自然は森川海ですけれども、環境ということを考えれば、里にいる人間が問題です。自然を良くするのも悪くするのも人間です。自然と人間の関わりも研究しなければいけないということで、文系も絡ませた。さらにもう一つ、「研究」の前に「教育」がついた。一年生の教養課程の学生たちに私も講義をさせられているんです
そうして「森里海連環学(もりさとうみれんかんがく)」という学問を世界で初めて京大からスタートしたわけです。
▲畠山さんのお話を熱心に聞く研修参加者
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