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食の安全・安心

食の安全・安心シンポジウム 「食品のリスクを考える ~食品と放射性物質~」(2)

滋賀の生協 No.157(2012.2.29)
滋賀県食の安全・安心シンポジウム
「食品のリスクを考える ~食品と放射性物質~」

放射性物質に係る食品健康影響評価(案)の概要について
2011年10月19日(水) コラボ21 3階大会議室

内閣府食品安全委員会事務局 
リスクコミュニケーション専門官 
久保 順一氏

   放射線の基礎知識

個別核種に関する検討

 暫定規制値は、個別核種によって、放射性物質の種類毎に規制値が定められています。たとえばヨウ素が何Bq(ベクレル)、セシウムが何Bq(ベクレル)というような基準の決め方になっています。その流れの中で、それ以外のプルトニウムとか、放射性ストロンチウムとか、ウランといったものの「安全性、健康への影響について評価をしてください」という要請をいただいたのですが、いろいろ調べさせていただいた結果、調査したのですけれども、残念ながら個別の核種について、はっきりとあらわせるデータが見つかりませんでした。

 唯一ウランにつきましては、放射線による影響より、化学物質としての毒性が高いということで、食べても良い量と、耐用一日摂取量(TDI)という重量(体重)で管理できるということでお答えをさせていただいているところです。「食べても良い」というようなことは、なかなか受け入れがたいとは思うのですけど、これはいろいろなデータから見て、これぐらい0.2μg(マイクログラム)/kg体重あたりを、毎日365日、一生涯食べても全く健康に影響が出ないという量を示させていただきました。これは科学的な評価の結果ということです。

 放射性の強さから言いますと、年あたり0.005mSv(ミリシーベルト)に相当します。体重60kgの人がTDI相当量のウランを摂取した場合、放射線の体に与える影響としてもかなり少ないレベルのものであるということになります。

 化学的な毒性と放射線の毒性を比べても、問題ないという数値という位置づけになりました。

 残念ながら、他のヨウ素、セシウム、プルトニウム、ストロンチウムにつきましては、ここまではっきりと評価ができるようなデータ、調査、研究結果がなかったという形になってしまいました。

低線量放射線による健康影響(発がん性)の評価結果案

 このとりまとめの結果で一番重要なポイントは、発がん性に対する影響という、少ない線量で長い間被ばくした場合のものということですけれども、私どもが調べた中で、放射線の影響が見いだせるのは、生涯の累積の実効線量として、およそ100mSv(ミリシーベルト)以上。一生涯かけて積み重なった線量が100mSv(ミリシーベルト)以上になってくると、ぼんやりながら浴びた量とがんになってしまう関連性がでてきます。

 100mSv(ミリシーベルト)未満につきましては、残念ながら信頼できるデータが見つかりませんでした。つまり、累積の追加線量としての100mSv(ミリシーベルト)未満の部分については、健康に影響があるとかないとか、白黒つけるようなものが、現在得られている知見からは言えなかったという、非常に歯切れの悪い内容になってしまいました。

放射能、線量、単位、係数の関係

 ここからちょっとおさらいですが、放射能と放射線とはどういったものか。放射能というのは、放射線を出す能力ですね。要は懐中電灯が光を出す。そういった能力を放射能といいます。ですから、500Bq(ベクレル)の放射能というのは、一秒間に500個放射線を出しているということを意味することです。中から外に出す。それがあたったら被ばくという形になります。

 もう一つSv(シーベルト)という単位がでてきているのですけど、これは放射線を浴びた時にどれぐらい体に影響を及ぼすかという、影響の強さを表す単位です。これは内部被ばくも外部被ばくも同じSv(シーベルト)という単位で表しています。

 内部被ばくの場合は中から放射線を浴びるということで、排出されるのに一定時間がかかります。Bq(ベクレル)からSv(シーベルト)に置き換える時に、実効線量係数というそれぞれの核の種類とか放射線の種類に合わせて係数が定められているのですけれども、そういったものを掛け合わせてSv(シーベルト)という単位で表わすようになっています。

 これはその瞬間だけではなく長期間影響を及ぼすという前提で、一回限りの摂取としても摂取から50年間、お子さんであれば70歳までの積み上げの線量という形で、実効線量Sv(シーベルト)と表すことができるようになっています。

外部被ばくと内部被ばく

 これはもう詳しくは説明しませんけれども、外にある放射性物質から出てくる放射線が皮膚を通して入ることを外部被ばくと言います。これは線量率(mSv(ミリシーベルト)/時)で、何時間当たり何mSv(ミリシーベルト)、何μSv(マイクロシーベルト)というふうに公表されていますけれども、簡単に言えば真っ裸で突っ立っていると、突っ立っている時間の単位あたりにこれだけ被ばくしますという形で、被ばく線量を表すことができます。

 内部被ばくの場合は、中に入ってしまいますので、先ほど申し上げた実効線量係数(mSv/Bq)を掛け合わせて、被ばく線量を表します。

 ですから、外部であろうと内部であろうと、Sv(シーベルト)という単位で表すと、体に及ぼす影響を同じ土台で評価できるという仕組みになっているものなのです。Sv(シーベルト)という単位に合わせれば、影響の度合いは内部被ばくの方が大きいのですけれども、一つのSv(シーベルト)で合わせれば同じ強さで評価できるというような仕組みになっています。

半減期(物理学的半減期、生物学的半減期

 もう一つ、「半減期」という言葉を聞いたことがあると思うのですけれども、放射性物質がいつまでも放射線を放出するものではありません。懐中電灯もスイッチを入れっぱなしにすると、いつかは電池が切れて消えてしまいます。それと同じで「物理的半減期」ということで、強さが半分になる時期なのですけれども、長いものもあれば短いものもあります。

 今問題になっているセシウム137というのは、三十年でようやく半分の力になるというような性質のもので、非常に心配されている向きはあるのですけれども、これが体が内部被ばくする場合は、ずっと三十年間体にいるというわけではありません。いわゆる代謝という、体が本来持っている能力で一定時間で排出されます。尿とか便とか、そういう代謝というサイクルの中で少なくなってきます。これを「生物学的半減期」と言います。

 一歳までのお子さんだったら約九日間で半分の量が入れ替わる。年をとってくるとちょっと時間がかかりますけど、七十日くらいで半分入れ替わるということで、「物理学的半減期」に依存してずっと体に中に居続けて、放射線を放出するというものではありません。蓄積されてずっと体に居続けるというイメージがあるのですけど、そうではないということになります。

低線量放射線の健康影響検討の前提(1)

 この低線量放射線の健康影響検討を行った前提として、三千余りの文献、いろいろな文献があります。高度な文献もあれば、本格的な手法とか計算でおこなわれたとみなすのが難しいものもあります。その中で、実験動物よりも人における知見を優先しました。動物の結果を人に反映させる場合、どういうファクターをかけていいか、安全係数をかけていいかというのはなかなかわからなかったので、人における知見を優先しました。

 それから疫学的データを活用させていただきました。疫学というのは後でご説明しますけれども、がんへの因果関係を示すものはかなり長期間、それがいろいろな集団の中で、がんになってしまういろいろなファクターがあるのですけど、それを排除しながら、純粋に放射線とがんになる因果関係がわかる手法として疫学的データを活用させていただきました。

 疫学の中でも、線量の情報の信頼度が高いもの、それから調査研究手法が適切なものということで、そもそも何mSv(シーベルト)あびてしまったかということがはっきりしないと、その結果どれくらいがんになったかということもかなりあやふやになってしまいますので、ここらへんがはっきりした文献、研究をピックアップさせていただきました。

疫学とは(1)

 いろいろな人間集団がいて、疾病になるいろいろなファクターがあります。食生活もあります。性別の面もあります。それをマトリックスでどんどんどけて行って、例えば煙草を減らせば肺がんになる人が少なくなるということが結果的にはわかる。それをこれからの健康増進のための施策に反映していく。そういった手法に用いられるのが疫学ということです。

疫学とは(2)

 疫学を考えるのに一番問題になるのが「交絡(こうらく)」です。これは、「交絡要因」とも言うのですけれども、がんになる原因というのは、放射線だけではなく、飲酒とか、喫煙とか、食生活とか、いろいろなパターンがりますので、こういったものをどんどんとふるいにかけて、純粋に因果関係をはっきりさせる。この「交絡要因」を排除するというのが疫学のデータを見る時に一番重要視されることになります。

低線量放射線の健康影響検討の前提(2)

 耳慣れない言葉が出てきていると思いますけれども、生涯における累積線量による評価。

 今は規制値というのは一年間何mSV(ミリシーベルト)というような、例えばICRPが言っている実効線量では、「年間10mSv(ミリシーベルト)以内に抑えたほうがいいよ」というようなことが指摘されているのですけれども、そういった形で年間何mSv(ミリシーベルト)というような、短期間の割り切り方で研究されたものはなかったということです。

 当然、がんの要因ということですので、長期間の調査が必要で、その場合は一年間ではなく数年にわたる累積線量の推計で検討が行われています。

 繰り返しになりますけれども、がんというのは確率的にあらわれるので、短期間では測り得ないということで、アウトプットの表現形としては、「生涯における累積線量」というような、ちょっと理解しにくい形になってしまいました。

累積線量のイメージ

 累積線量のイメージですけれども、こういった形でどんどん積みあがるものという形になっています。たとえ今般のように、一時期高い線量が出ても、あと十分管理できれば、影響が出ると言われている程度のレベルまでは積みあがらないということで、そういった長期のタームで見ることが必要ということになっています。

自然放射線から受ける線量―一人あたり年間線量(日本平均)は1.5mSv

 放射線というのは、今回原発の事故が起こって、急に現実的な脅威を感じられているかもしれませんけれども、実は、こういった自然放射線というのを、われわれは絶えず被ばくしながら生きているということも一つご理解していただきたいところです。

 日本の場合は年間約1.5mSv(ミリシーベルト)。外部被ばく、内部被ばく合わせて、被ばくしているという現状があります。これは、日本は比較的低く、全世界では平均2.4mSv(ミリシーベルト)/年になっていますので、どこに逃げようと、自然放射線からの被ばくというのは逃れようがありません。宇宙に逃げようとしても宇宙線という高線量のものがありますので、被ばく濃度はかなり高くなるのではないかなという気がいたします。そういった放射線が身近にある中でわれわれは生命を紡いできたということを、まず理解の念頭におかないと、あらぬ心配のし過ぎということが出てきてしまう可能性があります。

 これは日本の平均なのですけれども、日本国内でも低いところもあれば高いところもあるということです。

人体中の放射性核種についての試算(参考)

 当然地球を構成している物質の中には、必ず放射性核種というのが含まれています。一番ポピュラーなのは、われわれに重要な構成元素である炭素。炭素14という構成物質があって、3600Bq(ベクレル)相当分が体の中に入っています。あと、カリウム40。これは3900Bq(ベクレル)入っています。こういったものは除くとか、避けるといったことはできません。

 体重65.3kgの男性の場合だと7589Bq(ベクレル)の放射能を有しているということになります。

 だからよく「1Bq(ベクレル)も摂りたくない」という方が多くいらっしゃって、そういう影響のない遠いところにと、福島から遠いところへ避難しているという方がいらっしゃいますけれども、たとえそんなことをしても、こういったものからは逃れられない。「1Bq(ベクレル)も摂らない」というのはそもそも物理学的にありえない世界にわれわれは生きているということを、まずわかっておけば少しは気が楽になるのではないかという気がいたしますけれども、どうでしょうか。

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