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食の安全・安心

食の安全・安心シンポジウム 「食品のリスクを考える ~食品と放射性物質~」(3)

滋賀の生協 No.157(2012.2.29)
滋賀県食の安全・安心シンポジウム
「食品のリスクを考える ~食品と放射性物質~」

放射性物質に係る食品健康影響評価(案)の概要について
2011年10月19日(水) コラボ21 3階大会議室

内閣府食品安全委員会事務局 
リスクコミュニケーション専門官 
久保 順一氏

   食品健康影響評価の基本的考え方

通常の食品に含まれる放射性物質(カリウム40)

  カリウム40。カリウムというのはなんとなしに体に良い、健康に良いというイメージがあるのですが、カリウムがたくさん含まれている食品には、自動的に放射性物質のカリウム40も相当たくさん含まれているということになります。干し昆布だと約2000Bq(ベクレル)/kg含まれている。これはセシウムと直接比較はできません。体に対する影響から言うと約半分の力と計算していただければと思います。ですから、セシウム換算すると干し昆布が約1000Bq(ベクレル)/kgくらい。それでも暫定規制値をオーバーしてしまうくらいということになります。

 ただ干し昆布1kg食べるというのは現実的にはあり得ない。たとえば、牛乳であれば1リットルくらい飲んでいる人もいるかもしれませんけど、それだと25Bq(ベクレル)は飲んでしまう。ビールだと大ジョッキ一杯ぐらいで約5Bq(ベクレル)は体に取り込まれるという計算になりますので、「1Bq(ベクレル)も…」という考えは、自然の摂理から言ってもあまりそこまで問題にしないし、するならば、これらの関連性がどうなるかということを見つめる必要性が出てくると思います。

食品から年間1mSv被ばくするということは…(セシウム137の場合)

 Bq(ベクレル)とSv(シーベルト)との関係ですが、桁がかなり違います。暫定規制値だと100Bq(ベクレル)単位ですし、Sv(シーベルト)だとミリとかマイクロとか、かなり桁が小さいです。

 「昔の数値の1mSV(ミリシーベルト)に戻してください」というご意見をよく聞きます。1mSv(ミリシーベルト)というのは、「それくらいなら大丈夫ですよ」というICRPという国際機関がお墨付きを出している数値です。それを食べ物から摂取した場合、どれくらいの量なのか。

 1mSV(ミリシーベルト)相当を食べ物で換算すると、セシウムなら、76900Bq(ベクレル)を一度に口にすると1mSv(ミリシーベルト)の被ばくというふうな計算になります。これは、関東の方で出てきている大変高い数値のレベルに相当します。ですから、偶さか数千ベクレルのものを一回口にしたところで、安全と言われているレベルを超えるにはかなりの余裕があるというふうにご理解していただければなあと思います。

 暫定規制値500Bq(ベクレル)/kgの食品だと、年間約154kg。年間というのは別に1回154kg摂取すると1mSv(ミリシーベルト)に達成するぐらいのもので、案z年といわれるレベルを凌駕するには、かなりの高い放射性のものをたくさん食べないと、この数値にも相当しないということで、今の検出の程度からみましても、少なくともこのへんにお住まいの方はそんなにご心配する状況になっていないというふうに私どもは考えております。

   低線量放射線による健康影響評価を考える(評価結果案のみかた)

放射線の人体への影響(放射線による確率的影響(はつがん))

 これが本丸になってくるのですけれども、放射線による体への影響というのは、要するにDNAを損傷してがんになってしまうということで一番心配になっているのですけれども、先ほど申し上げた通り、放射線というのは体を構成している元素からもバンバンと飛んでいるという状況です。そんなところでイチイチ分裂するたびにDNAが壊れてしまっては、われわれは進化できていない。ちゃんと生命を維持するためのいろいろなシステムが備わっています。

 ちょっとくらい切れたところで正常に修復されますし、かなり壊れてしまうとその細胞自体が自滅して、新たな細胞分裂を行わなくなってしまいます。万一それが異常細胞ということで増えだしたとしても免疫系の細胞が除去するというように、何重もの防護組織があります。

 それを超えてしまうとはじめてがんが発症するという形になりますので、放射線即がんという形にはなかなかなりにくい。それは確率的影響と言われれば確率だと思います。

 年齢を重ねてしまうと、この生体防護能力が徐々に弱まってきてしまいまして、昨今、日本人の死亡の率でがんが多いというのは、そういう高齢化の進展と、がん以外でなくなる要因がどんどんと医療の進歩によって改善されてきたので、どうしても根本的に治すことが難しい生体機能の低下によるがんの発病が出ている。日本人の死亡の原因でがんが多いというのはこういうことからだと考えられているところでございます。

評価の基本となった文献

 評価の基本となった100mSv(ミリシーベルト)の根拠ですけれども、ある程度の大きな集団ではっきりしたことがわかるというところで、この点での知見を強めていただいております。

 一つはインドの高線量地域での評価結果で、累積線量として500mSv(ミリシーベルト)以上において発がんのリスクも増加がみられなかったという報告がありました。これは、二〇〇九年です。

 あと二つは、これはわれわれ日本が経験した被爆ということで、70年以上前ですけれども、研究がずっと続けられておりまして、Shimizuが一九八八年に発表したもので、白血病での死亡リスクの文献。

 それから、二〇〇三年にPrestonという人が、固形がんでの報告文献が見つかりました。

広島・長崎の被爆者における白血病での死亡のリスク

 その内容を簡単にご説明いたしますと、Shimizuさんの文献は、被ばく量として200mSv(ミリシーベルト)と0mSv(ミリシーベルト)被ばくしていないものと対照したところ有意な差があったということを報告されているものです。逆に、200mSv(ミリシーベルト)以下であれば差がないというような報告が一つございます。

 200mSv(ミリシーベルト)というのが一つの切れ目ということです。

広島・長崎の被爆者における固形がんでの死亡のリスク

 Prestonさんの報告は、考え方が違っておりまして、0mSv(ミリシーベルト)から125mSv(ミリシーベルト)を一グループとしてみたときは被ばく線量とがんになる死亡リスクの直線性が認められた。

 しかし、そのグループの上限ですね、125mSv(ミリシーベルト)を100mSv(ミリシーベルト)に下げたところ、さっきまで見られていた関連性がバラバラになって、相関がみられなかったというような報告がされています。

 この三つの500mSv(ミリシーベルト)、200mSv(ミリシーベルト)、100mSv(ミリシーベルト)という数字が出てきているのですけれども、わたしどもとしては一番厳しい、安全の側に立った数字をとりまして、一応被ばく線量と健康に影響がはっきりわかる一つの目安として100mSv(ミリシーベルト)あたりが大体のところだというような形で評価案をまとめさせていただきました。

小児、胎児に関する文献

  それ以外に、一番ご関心のあるところだと思うのですけれども、小児、胎児に関する文献も整理させていただきました。

  一つはチェルノブイリで、白血病に関するリスク。それと甲状腺がんに関するリスク。三つ目は被ばく線量が高いので、低線量とは言えないレベルですけれども、1Sv(シーベルト)以上だと胎児に対しては精神遅滞があらわれる。0.5Sv(シーベルト)以下、500mSv(ミリシーベルト)以下であれば健康影響がみられなかったという文献も発見できました。

  ただ、上二つにつきましては、残念ながら線量の推定等に不明確な点があるということで、本体の数字を左右するには知見としてはたらないという結論に至りました。

低線量放射線による健康影響の評価結果案

 これは先ほどお示ししたところで、ただ十分な根拠とは言えないのですけれども、可能性としては否定しきれないということで、一応可能性の部分につきましても示させていただいております。

 100mSv(ミリシーベルト)という数字を出していますけれども、101mSvが危なくて、99mSv(ミリシーベルト)からならがんにならないといったものではなくて、確率的な関連性があらわれるというのは、約100mSv(ミリシーベルト)以上からということで、健康影響が出るとか、でないとか、そういった境界を示しているものではないということで、ご理解をいただきたいと思います。

リスク管理に関して考慮すべき事項

 実際に食品衛生法なり、ルールを定める時には、今の放射性物質の検出状況とか、日本人の食生活の状況、何をどれくらい食べているかという実態を踏まえて、実効的な管理を行うべきということも付け加えさせていただいております。

   食品健康影響評価の後は?

今後の予定

 今こういう状態で取りまとめをしている最中で、今後厚生労働省大臣に通知し、それを踏まえて管理措置が検討されるということです。要は実際のBq(ベクレル)で、何Bq(ベクレル)で規制されるかということは厚生労働省にゆだねられているという状況になっております。

 「暫定規制値をもっと厳しくしろ」というご意見は、それを決める厚生労働省の方にお伝えいただくのが一番有効だというふうにわたしどもは考えています。

食品安全委員会ホームページ

 放射線に関する情報というのは、いろいろなところにいろいろな形で出ているのですけれども、私どものホームページも一度に見られる形で整理させていただいておりますので、ご関心のある時は時々ご覧にきていただきたいと思いますし、あと、お手元にメールマガジンのご案内がございます。そういった新しい知見とか情報がございましたら随時メールマガジンで研究情報という形でお伝えしておりますので、是非ご協力していただければと思います。

 どうもご清聴ありがとうございました。

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