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安心して住める「福島」を取り戻すために(3)

滋賀の生協 No.161(2012.12.25)
滋賀県生協連役職員研修
安心して住める「福島」を取り戻すために
~つながろうCOOPアクション・福島原発事故から見えてきたもの~

2012年9月15日 コープしが生協会館生文ホール

講師 熊谷 純一氏(福島県生活協同組合連合会会長理事)

   福島原発事故の深刻さ

 セシウムで比較しますと、福島原発事故で放出された放射性セシウムは一万五千テラベクレルです。広島の原爆は、八九テラベクレル。広島原爆の百六十八個分ですね。チェルノブイリは八万五千テラベクレル。福島原発事故の五.七倍です。

 東京大学アイソトープ総合センターの児玉龍彦センター長は、熱量計算で原爆の二九.六個分、ウラン換算で二〇個分にあたると言っています。

 二〇一二年四月二二日、政府が二十年後までの福島の放射線年間空間線量率の予測図を発表しましたが、それによると、大熊町と双葉町の境界付近(年間被曝線量五十mSv超)と、浪江町、葛尾村(年間被曝線量五十mSv以下二十mSv超)は、二十年後も居住が原則制限される「帰還困難区域」としています。

   福島の原発事故は収束したのか

 「東京電力福島第一原発の地下は、近くの活断層が滑って直下型地震が起こりやすくなっている」との調査結果を、東北大の趙大鵬教授(地震学)らが、二〇一二年二月発行の欧州の専門誌で発表しました。震度五以上の地震と津波が起こると、第四号炉が大変深刻な状況になり、首都圏三千万人の避難計画が現実問題になります。

 それから、メルトダウン・メルトスルーした原発三機の収束の技術はまだありません。

 テロの可能性もあります。冷却水の取水口を止められると、原子炉がダメになります。

 近い将来満杯になる燃料プールの問題。それから、高レベル放射能廃棄物の十万年にわたる安全確保課題。

 福島原発事故の処理は、緒に就いたとも言えない状況です。

   四号炉の深刻な問題

 四号炉の問題をもう少し詳しく言いますと、高さ三〇メートルのところに、四号炉プールがむき出しになっており、そこに千五百三十三本の燃料棒があります。ところがここからわずか五十メートルの共用使用済み燃料プールには、六千三百七十五本の燃料棒があります。福島第一原発全体では、一万千百三十八本の使用済み核燃料があります。

 もしこの四号プールの水がなくなりますと、ひとりでに使用済み核燃料棒は加熱して解けてメルトスルーする。そして同時に何も覆いがありませんから、普通にドンドン放射能を放出する。そのセシウム放射線量は一億三千四百万キュリー。チェルノブイリの八五倍に相当します。(米国放射線防護審議会NCRPの見積もり)

   事故の原因は想定外の津波か

 東電は「地震と津波によって電源が失われた」と言っています。じゃあ電源が生きていれば助かったのでしょうか。

 アーニー・ガンダーセン(米エネルギーアドバイザー)という人が「冷却用海水ポンプの破壊で交流電源が生きていても冷却機能は死んでいた」「なぜ日本政府はこの事実に触れないのだろうか」ということを、自著で述べています。

 NHKは七月二一日の放送で「津波ではなく、地震による配管の損傷でベントできなかったのではないか」と問題提起しています。つまり、まだ原因はわからないということです。

   復旧、復興は進んでいない

 福島の復旧復興は進んでいません。瓦礫が四三八万トン。これは全く未解決です。

 県予算は、一兆五千七百六十四億円。いつもの倍ですけれども、そのうちのほぼ半分が震災原発事故対応の関連予算です。チェルノブイリに行ったとき、ベラルーシの副大臣が「ソ連崩壊の一原因が原発事故だった」と言っていましたが、費用は本当に「底なし」です。その「底なし」の事故を起こした責任は誰もとっていませんよね。

   住民が極端に減る

 福島県の課題の一つは、「人口が減る」ことです。事故から一年後の現在、人口は二百二万四千人から百九十八万人に減少しました。減少の内訳をみると、十九歳以下、三十~四十歳が多く、三十四歳以下で「戻る気がない」という人が四六%います。

 三十年後、福島の人口は半分の百万人になり、しかも超高齢化になります。これで果して自治体が成り立つのか。生協事業存続の危機も見えます。

 ですので、子どもを本当に安全で、なんとか「福島県にいても良いですよ」という、そういう状況を作りたいわけです。

   除染・放射性汚染物・中間処理施設

 二つ目の福島の課題は「除染・放射能汚染物・中間処理施設」の問題です。

 校庭の除染は大体終わりました。しかし再汚染が始まっています。

 通学路、公園、家屋の除染はようやく始まったばかりです。「家屋の除染」は、福島市に一番汚染の濃い「渡利地区」から始めています。

 それから「下水道の汚泥」が溜まっています。袋に入れた汚泥が山のようになっています。夏なんか匂いがするわけです。

 しかし、こういう土砂などをしばらくの間閉じ込めておく「中間処理施設」が決まっていません。「しばらくの間」といっても、三〇~四〇年なのですが…。

 「中間施設を作らなければいけない」ということはみんなわかっています。しかし、「自分の近くに置きたくない」という意識が、どうしても働くわけです。これを「ニンビー現象(NIMBY “Not In My Back Yard”〈自分の裏庭には来ないで〉の略)」と言うそうです。

 それから「里山の除染」です。里山の除染は、木の葉が腐る前に集めて捨てなければなりません。木の葉が腐ると、溶けて水と一緒に田や畑、生活排水に入ってきます。

   賠償問題・風評被害

 三つ目の課題は、「賠償問題」と「風評被害」です。

 東電は絶対に「賠償」という言葉を使いません。必ず「補償」という言葉を使います。「これは人為事故ではなく、自然災害だから」というのが彼らの理屈です。

 県連では「損害賠償請求部会」を立ち上げて、五回の交渉をしました。「避難エリアでの事業の実害」と「風評被害による損害」と「事故対応費用(被曝測定等の費用)」を合わせて、三月までに五千九百四十四万二千円請求しました。一応、三千三百十二万二千円で合意しました。

 しかし、さらに請求していかなければいけません。例えば、ホールボディ・カウンターなども事故がなければ必要なかったわけですから、請求しようと思っています。

 それから、土地・家屋の財物賠償。これは個人の財産ですから、個人の賛同を得なければいけないということで、法の壁があります。特に個人情報保護法で、なかなか一括して請求できないという状況があります。

   風評被害の加害と被害

 風評被害問題も苦戦しています。「風評被害」という言葉は、生産者と消費者の対立を生む言葉です。つまり、被害者である生産者からすれば、「我々は百ベクレル以下の製品を作っている。だから、買ってくれない消費者が悪い」と、加害者は消費者になるわけです。でも実際は、消費者も生産者も東電から被害を受けているわけです。ですから、そこでどうやって協同を作るのかというのが非常に大事な問題だと思います。

   風評被害と生協の役割

 風評被害に対する生協の役割は大変重要です。(1)生協は正しく正直な情報を発信し、組合員が判断して、組合員が選択できる材料を提供するということ。(2)そのため生産者との交流を深め、相互理解をすること。これに尽きると思っています。

 いろいろな考え方がいっぱいあって、私ども非常に悩むのですね。例えば、食品に含まれる放射性セシウムが、一キログラム当たりの暫定基準値五百ベクレルから、新基準の百ベクレルに厳格化されました。これに対して、「それはやるべきではない」という意見もあれば、「百ベクレルでも高い」という意見もあります。私どもは、いろいろな考え方を受け入れていかないといけないと思っています。情報を発信して組合員が判断する。こういうことが良いのではないかと思います。

   安心システムの構築を

 出荷段階での「何ベクレル以下」という基準は抜き打ち検査だけです。流通段階でも、「独自に測っている」と言うスーパーマーケットもありますが、全て測ることは難しいです。

 「風評被害」をなくすためには、「生産、出荷、流通、消費、ケア」の五段階全てにおいて安心システムを作っていく必要があると私たちは思っています。

 (1)小メッシュ(網目状の区分け)で土壌を計測して「汚染マップ」をつくる(2)移行率(農作物が土嬢から放射性核種を取り込み蓄積する割合)調査をやって栽培計画をたてる(3)出荷前調査で百ベクレル以下にする(4)消費者がいつでも計測できる体制にする。(5)そして「自分の体は放射能に侵されている」ということであれば病院へ行くという、ケアが日常的に行えるような体制を作る。

 五、六年かかると思いますが、この安心システムを構築して初めて「風評被害」も消えるのではないかと期待しています。

   汚染地図作成と栽培計画

 実際に福島大学の生協では、農協と一緒に「汚染マップ」を作りました。百メートル単位で土地、田畑のメッシュ(網の目)をつくり、メッシュごとに汚染を計測し、「栽培計画」に役立てます。吸収率(野菜や果物が土壌から放射性物質を吸収する程度)も、作物の種類によって全部違いますので、日本の植物のデータの分析を今盛んに行っています。

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