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二〇一三年度国際協同組合デー記念学習・講演会(1)

滋賀の生協 No.163(2013.9.6)
二〇一三年度国際協同組合デー記念学習・講演会
ポスト国際協同組合年 これからの協同組合に期待すること
~組合員とともに、つながりを強めて~

二〇一三年七月四日(木) ピアザ淡海207会議室
主催 IYC記念滋賀県協同組合協議会

講師 増田 佳昭氏(滋賀県立大教授)



 協同組合の強みは、組合員の参加にあるのではないでしょうか。ICA(国際協同組合同盟)がまとめた「協同組合の一〇年に向けたブループリント」でも「参加と持続可能性」を強調しています。今協同組合に求められているのは、「組合員とともに」という視点と、「地域に根ざし、地域を支え、支えられる」自覚と責任と誇りではないでしょうか。

【一】協同組合の強みをどう考えるか?

   社会的必要性と市場競争

 六月のはじめに「JAは誰のものか」(家の光協会)という本を出しました。JAのガバナンス、運営の仕組みを、実証研究に基づいてまとめました。

 私はこのところ、市場競争が激化する中、「協同組合が生き残るためにはどんな条件が必要なのか」という問題意識を持っております。十年ほど前、日本協同組合学会の大会で「協同組合の基本は組合員の参加にあるのではないか」という問題提起をいたしました。報告の後、ある生協関係の方から「参加なんてえらい古くさいことを言っているね」と言われ、「じゃあ協同組合の競争力とは何ですか」と聞きましたら「ブランド・ロイヤリティだ」と言われました。
それ以上詰めた議論はしなかったのですけど、それ以来、協同組合の競争力について気になっています。「協同組合の強みはなにか」を理論的に整理する。それから「現実の活動や事業の中でどう展開するのか」を考える。そういう作業をしないと、協同組合は簡単に生き残れないのではないかという気がしております。

 たとえば、協同組合の競争力の源泉を、「社会的な必要性」と「市場競争」の二つに分けて考えてみます。協同組合は、設立当時は社会的な必要性から生まれてきます。ロッチデールの先駆者協同組合も、ライファイゼンの信用組合も必要だから生まれてきた。日本の農協も生協も、一般の市場では提供されないサービスを「自分たちで作ろう」と始めるのですね。この「社会的必要性」に沿って設立されることは、協同組合の強みだと思うのです。

 問題は次の段階です。そういう市場に一般資本が進出してきて競争の段階になると、社会的必要性に基づいた協同組合の優位性が薄れ、価格競争、サービス競争になるわけです。そうなった時、協同組合の強みはどこで発揮されるのでしょうか。

 社会的な必要性しかないと考えると、次々新しいものを作ることが協同組合の存在意義になるでしょう。一方、同じようなサービスを提供しても協同組合の優位性があるとすれば、その根拠は何か。論理的にはこういう話ではないかと思います。

   「協同組合」は制約ばかり

 実は協同組合は制約ばかりです。
まず、「顧客の制約」。組合員にしか売れません。あるいは農協の場合、組合員からしか買えません。お客さんを自由に広げられないですね。

 「取扱商品の制約」。商品も組合員が必要とする商品だけ。組合員が利用しないものを売ると法律違反になるわけです。

 「事業エリアの制約」。隣のJAの組合員相手に商売をするわけにはいきません。生協の場合も、隣の京都で売るわけにはいきません。

 それから「資本力の制約」。通常協同組合は経済的弱者が組合員ですから、資本力が弱いのは当たり前です。JAの場合は貯金を集めるなどして資金があるから、状況が違うところがありますが、一般に資本力も制約されています。

 「民主的運営の制約」とあえて言いますが、民主的運営は金もかかるし手間もかかります。株主総会なら、業績が悪ければトップを変えるぐらいですよね。協同組合の総代会は、支店の統廃合計画とか、店舗の廃止とか、事業内容にまで踏み込んで議論します。

   協同組合はなぜ競争力を発揮できるのか?

 弱点ばかりの協同組合がなぜ競争力を発揮できるのか。経営者が優れているからですか?企業と比較しても、条件的には同じではないか。では、職員が優れているからですか?スーパーとの比較でも、協同組合の職員だからレベルが高い、低いということはないでしょう。「経営者力」、「職員力」をつけることは大事ですが、協同組合独自の競争力の源泉とはいえません。

 すると最終的な差は「組合員がいる」というところに行き着きます。協同組合に制約があるのは組合員がいるからです。しかし同時に、組合員をベースに組織がされ、組合員を相手に事業をやることで協同組合は成り立っています。協同組合の制約を補いながら発展しようと思えば、「組合員力」をつけないと競争力は出てこないと考えるわけです。

 では、組合員力をつけるために、具体的にどんなことが検討されなければいけないか。

 組合員が、「役に立つ」「声が反映される」「関われる」「俺たちの組合」「仲間がいる」「役職員も一緒に考えてくれる」と実感できることが大事だと思います。「組合員が関われる場」をたくさん作ることで「組合員力」をつけないと、世代交代や農業者の交代の中で単なる事業体、商売になってしまうのではないかと、JAには問題提起しています。

   「組合員のために」から「組合員とともに」

 例えば、JAのトップも「組合員のために頑張る」とよく言います。しかし、「組合員のために」ではなく「組合員とともに」という視点を大事にしないと、組合員が関わる必要はないという考えや行動になってしまうリスクがあるのではないかと懸念するわけです。

 協同組合の生成期や発展期には、組合員が幅広く関わっていました。しかし安定期に入ると、そういう関わりを忘れられてしまう。ですからもう一回組合員が主人公で、職員は黒子に徹する。「組合員のために」から「組合員とともに」を基本に運営を見直す。こういう視点が必要ではないかと思っています。

 それは、「事業・経営」を無視するという話ではなく、意図的に「組織・活動・共感」をテーマにして、組合員の関わりの場づくりをするということです。おそらくそれがないと、協同組合としての強みを発揮できなくなるのではないかと考えています。

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