滋賀の生協 No.167(2014.7.22) |
特定秘密保護法学習会 特定秘密保護法とは? ~どうなる私たちのくらしと知る権利~ 2014年3月21日14:00~16:30 コープしが生協会館生活文化ホール 主催 滋賀県生活協同組合連合会/ピースアクション二〇一四・しが実行委員会 講師 近藤 公人氏 (弁護士・滋賀弁護士会会長・滋賀第一法律事務所所属) |
第一 知る権利の重要性 |
なぜ、知る権利・表現の自由が必要か |
「特定秘密保護法」に関して、日本弁護士連合会も全単位会で「反対」の会長声明を上げています。普通だと会長声明で終わるのですが、弁護士会が東京や大阪ではデモ行進を、滋賀弁護士会も駅前でビラを配るなど、「特定秘密保護法を成立させてはいけない」という活動をしてきました。 「弁護士会は強制加入団体なのに、なぜ政治課題に取り組むのか」とよく言われます。弁護士法の第一条には、「弁護士の使命」として、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。二.弁護士は、前項の使命に基づき、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない」と書いています。問題がある法律には、当然反対する。ですから、弁護士の使命として、この法律に反対していくことになりました。 「なぜ、この法案が問題なのか」を考えるキーワードは、「知る権利」「表現の自由」です。日本国憲法では、「経済的自由」や「職業選択の自由」など、様々な人権を規定しています。どれも重要な人権ですが、憲法の教科書では「表現の自由は、優越的な地位を有する」と書かれています。 そもそも日本国憲法は、「人権を守る」。これが基本です。人権保障のためのシステムとして、民主主義と権力分立があります。 「内閣」は、「国会」に対し衆議院の「解散」権を有し権力を抑制します。「裁判所」に対し裁判官を「指名、任命」する権限があります。 「国会」は「内閣」に対し「首相の指名、内閣不信任」で権力を抑制します。「裁判所」に対しては、裁判官の弾劾裁判があります。 「裁判所」は「国会」に対し、「その法律は違憲ですよ」という「違憲立法審査権」があります。「内閣」に対しても、「この行政の行為は違憲ですよ」という「違憲審査権」の権限があります。 「内閣」「国会」「裁判所」、それぞれが権限をもって、権力を分散し、かつ抑制しています。 「民主主義」のシステムは、「国民」が選挙に基づいて「国会議員」を選ぶ。選ばれた「国会議員」は「国会」で法律を制定し、予算を組む。「国会」で決まったことを施行するのは「内閣」です。これが「民主主義」という流れです。 |
「自己実現の価値」と、「自己統治の価値」 |
この「民主主義」の前提として「表現の自由」が大変重要です。「表現の自由」は二つの大切な価値を持っています。「自己実現の価値」と「自己統治の価値」と言われています。 「言論、発言を通して人格を発展、成長させる」のが「自己実現の価値」です。 最近「はだしのゲン」の漫画が話題となっています。「きちがい」とか「こじき」とかの表現は良くないだろうという意見です。確かに良くないと思います。ただ、それを見せないでいいのか。それとも見せた上で「やはり問題だろう」ということを認識するのか。 人間は、いろいろな発言をしたり聞いたり、音楽を聴いたり、小説を読んだりして成長していくものです。「表現の自由」は、人間が成長の意味で重要で、「自己実現の価値」として重要だといわれています。 もう一つ、「自己統治の価値」とは、言論によって国民が政治的意思決定に関与するという、「民主制に資する社会的な価値」といわれています。 「国民」が、国会議員を選ぶ「選挙」活動で意見表明したり、あるいは「国会」に対して「こういう法律を作ってほしい」という「請願権の行使」で意見表明をする。それを受けて、「国会」は、いろいろ議論をして法律を作る。法律を作ったら「内閣」が「政策」を実施する。しかし、「政策」の実施段階で不合理な点が出てきたとします。その場合、国民はその不合理な政策を知ることによって、再度「その政策を変えてくれ」と、選挙等を通じて修正をしていく。これが「自己統治」です。そういう意味で民主主義において、「知る権利」「表現の自由」は重要です。
これは教科書の記載です。「表現の自由」が他の人権と比べて重要であって、裁判所はもし「表現の自由」が制限される場合には、その法律の目的が正しいのか、「表現の自由」の制限が必要最小限度になっているのか、積極的にかつ厳格に審査しなさいといわれています。 では、この「表現の自由」が制限されるとどうなるのか。【図1】
国会が「法律」を決め、「内閣」で「政策」を実施する。しかし「知る権利」がないと、その政策が「不合理な政策」であることが分からない。しかも表現の自由がないと、「国会」に対して「それはおかしいよ」と「意見表明」もできなくなる。 このように、「表現の自由」を一度失うと、修正ができなくなるということで、「表現の自由(知る権利)」は大変重要だと言われています。 自民党の改正草案では、国が認めれば、表現の自由を制限できる条文を新設し、もっと、表現の自由、知る権利を奪おうとしています。
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第二 戦前の法律 |
「間諜罪(スパイ罪)」「軍機漏せつ罪」 |
戦前、刑法で「間諜罪(スパイ罪)」と「軍機漏せつ罪」がありました。これは戦時を前提とした法律だったようです。 平時でも、軍の秘密は守らなければいけないということで、「軍機保護法」が明治三二年にできました。最高懲役刑が一五年だったのを、昭和一三年に死刑に変えています。 その前年である昭和一二年の七月にシナ事変が起きています。その後中国に侵略し、昭和一四年に「軍用資源秘密保護法」が、昭和一六年三月に「国防保安法」ができます。「国防保安法」は、軍事機密だけでなく、外交、経済財政面にも適用されました。 そしてその九か月後、「真珠湾の奇襲攻撃」で「太平洋戦争」が始まります。 また、軍港の近くを撮影したり、スケッチするだけで検挙される「要塞地帯法」もありました。 |
家永三郎教授著「戦争責任」(岩波書店) |
「教科書裁判」で有名な家永三郎教授は「戦争責任」についてこう書いています。 一九三七年(昭和一二年)頃になると「反戦又は反軍的言説を為し或いは軍民離間を招来せしむが如き事項」や「我ガ国ノ対外国策を侵略主義なるがごとき疑惑を生じせしむ虞れある事項」などの記事は新聞紙上からことごとく消え去り、国民は中国との戦争の真相を知る手段を失う。したがってこれを批判するための知識も持つことができなかった。 要は、「侵略戦争」につながる事項については、新聞紙上からことごとく消えた。国民は中国との戦争の真相を知る手段を失い、批判するための知識を持つことが出来なかったということです。 さらに、昭和一六年の太平洋戦争開始以降は、「もはや戦争批判どころではない、真相報道と批判的言語とが一切禁止され、国民は、国際・国内状況の真相を知らされず、すべての批判的見解を聞く機会を失い、政府・軍の指導を全面的に信頼して、黙々とその施策に協力するほかはない境遇に追い込まれるのを免れなかったわけである」と言っています。 「知る権利」「表現の自由」を失う怖さとは、「政府が何をやっているかわからない。何かを言えば処罰される。そういう状況で、国民はどんどん戦争に協力していくようになる」ということです。 |