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特定秘密保護法学習会(4)

滋賀の生協 No.167(2014.7.22)
特定秘密保護法学習会
特定秘密保護法とは?
~どうなる私たちのくらしと知る権利~

2014年3月21日14:00~16:30 コープしが生協会館生活文化ホール
主催 滋賀県生活協同組合連合会/ピースアクション二〇一四・しが実行委員会

講師 近藤 公人氏
(弁護士・滋賀弁護士会会長・滋賀第一法律事務所所属)

第七 法律の問題点
   秘密事項が秘密

1. 行政機関が「特定秘密」を指定
 そもそも「特定事項」が秘密になっていることが、今回の「特定秘密保護法」の大きな問題です。何が秘密かということは、行政機関が指定していきます。国民にはわからないのです。
 「特定秘密」は、防衛事項、外交事項、特定有害活動の防止事項、テロリズムの防止に別れています。大体四〇万件ぐらいあるのではないか。今「秘密」と言われているところがそのまま「特定秘密」になってくるようです。
2. 行政機関が作成・収集した情報は、すべて対象となり得る
 秘密に関しては、行政機関が作成・収集した情報は、すべて対象となります。
3. 民間企業や大学学生・収集した情報も一部対象
 今回「特定秘密保護法」制定にあたって、日本版NSCと言われる「国家安全保障会議」が設置されています。この組織がアメリカから提供される情報は漏らしたくないということで、「特定秘密保護法」の対象になっています。
 民間企業や大学生が、収集した情報も対象となります。これは研究とか、民間企業の防衛の部分の開発などの情報も一部対象になります。
4. 特定秘密を取り扱う者の審査(適正評価制度)
 「適正評価制度」と言われていますが、行政機関の職員、民間研究者・技術者・労働者などが対象となっています。調査事項は、人定事項、学歴、職歴、テロやスパイ活動のへ関与、犯罪歴、信用情報、外国への渡航歴、薬物・アルコールへの影響などです。本人だけではなく、家族、親族も調査されます。

 また、国会には国政調査権がありますが、今回の法律では、何が秘密かも、国会に提出するかどうかも、行政の判断にゆだねられ、民主的コントロールが一切できない状況になっています。
  国会へ情報を開示する場合も「秘密会」になり、一部の議員のみへの情報提供となります。また、その議員たちは情報を第三者に漏らしてはいけません。漏らすと処罰の対象となります。ですから、集団による検討ができないのです。

   未遂を処罰

 刑法は 既遂を処罰するのが原則です。しかし、今回の法律は、未遂を処罰することができます。

 誰かに伝えようとしたが伝えられなかった。手紙を書いたが相手に届かなかった。メールを出したけれど、相手のアドレスが違っていて届かなかった。これらも処罰の対象です。

 持ち出し禁止の特定秘密を、パソコンにデータを保存して持ち帰った。漏洩する意思がなく、仕事のために持ち帰っても処罰の対象です。内心はわかりませんので、外形から判断し、持ち出し禁止である以上、漏洩の意思の推定が働きます。

   過失も処罰

 過失も処罰されます。不注意で保管していた書類を紛失した。データを消し忘れて特定秘密が他人の目に触れてしまった。Winnyで情報が漏れた。みんな知っている事項だと信じて、特定秘密を話してしまった。自衛隊員の妻が、夫の出張先を言う。これら全てが、処罰の対象になり得えます。

   共謀・教唆・扇動も処罰

 共謀、教唆、扇動も処罰の対象になります。

  「共謀」とは、ある犯罪行為の実施・遂行について、具体的計画を複数の者が謀議すること。「教唆」とは、他人をそそのかして犯罪の実行を決意させること。「扇動」とは、他人に犯罪の実行を決意させ、あるいはすでにある決意を助長するような勢いのある刺激を与えることです。

 今、日本の刑法では、「共謀罪」は処罰されていませんが、「特定秘密保護法」では、実行行為に着手しておらず、未遂罪にもならないものまで処罰の対象になります。思っただけで処罰することは、近代刑法の原則に反するものです。会議で、取材や調査研究活動を企画して、特定秘密の故意による漏えいや取得行為を共謀した場合「共謀罪」になります。

 扇動した者の言葉で、扇動された者が決意をしなくても、決意させようとする勢いがあれば、例えば「核密約があったはずだ。その資料を出せ!」と大声で言えば、「扇動罪」になります。

   自首減刑

 未遂罪、共謀罪のいずれかを犯した者が自首すれば、必ず減刑または免除されます。「自首」とは、罪を犯したことが捜査機関に発覚しないうちに名乗り出ることです。刑法では、自首をしたときは、任意でその刑を軽減することができます。任意とは「場合によって軽くしますよ」ということですが、今回は「必ず減刑または免除する」ということになっています。

 これは「密告のすすめ」です。「国家の秘密は、国民の情報で国民に返すのが本来の姿だ」「特定秘密を開示できるようにしよう」という議論していて、その中の一人が「こういう話していました。これ共謀に当たりますよね」と警察に自首すれば刑を免除される。

 「おとり捜査」も充分考えられます。政党・市民団体・労働組合の切り崩しに活用される危険があります。一人の人が「それ重要なことだから、国民に知らせた方が良いよね」と扇動しても、その人は自首することで罪を免除される。また、虚偽の自白をさせて事件をでっち上げるということも充分可能な状況になります。

 記者の取材行為はどうなのか。「こういう情報を教えて」と言えば、教唆行為に当たります。

 政府は「記者の取材行為は正当な行為だから処罰されません」と言って、条文にも書いてあります。ただ法律家から言わせると、「違法性の阻却」と言って「一応犯罪なのだけれど、必要性があるから許してあげるよ」ということです。刑法の場合、「君はこんな悪いことをしたのだよ」ということは、国の方が立証しなければならない。しかし、今回の記者の取材行為に関しては、記者の側が「それは正当だった」と立証しなければなりません。

 政府は、不当な行為には該当しない例として、夜討ち朝駆けの取材行為、頻繁なメール等、入出が可能な状態になっている部屋に侵入して閲覧可能な状態になっているパソコンの画面を見る行為等の行為は、一応大丈夫だと言っています。

 ただ、当初、森雅子内閣府特命担当大臣は「報道の自由を守るため、秘密 漏えい事件があっても、報道機関のオフィスに家宅捜索が入ることはない」と言っていましたが、谷垣法務大臣は「具体的な事例に即して判断すべきもので、一概に言うことは難しい」と述べ、報道機関が捜索対象になり得るとの認識を示しています。基本的には家宅捜索が入るということです。これは、記者の取材行為に対して、やはり抑止的に作用するのではないかと思われます。

第八 一般人の生活とは関係ないのか?
 まず、一番関係あるのは、自衛隊、その家族、親戚です。どこで訓練するかは秘密になりますから、うっかり話すと「過失」という形で処罰されます。

 公務員にも、外交関係で関わってくる人は対象となるでしょう。

 原発など重要な建物を作る建築業者も対象となります。対象となっている建物が、どういう構造なのかというのも「テロリズムの防止」の事項に入っています。建物の壁の厚さなどは、ミサイル攻撃などに関係があります。ちなみに市民団体が、沖縄防衛施設の建築確認の図面の情報公開を申し出た時に、防衛省は防衛機密を理由に断って、裁判になった例があります。テロとの関係、または防衛の関係で「特定秘密」になります。

 医療関係者や科学者の場合ですが、少し前に「テロリストに情報を与えることになる」という理由で、鳥インフルエンザの論文掲載に、アメリカからストップがかかったことがありました。
政府側が「一般人には関係ない」と言っても、どんどんその対象は広がっていく。戦前は写真を撮っても処罰された。戦後も横須賀で、米軍を得意先とするクリーニング屋さんが、空母入港の時期を聞いて処罰されました。一般人の生活でも、いろんなところ、思わぬところで関わってくる可能性があるのです。

 イギリスでは、記者が機関に潜り込んで情報を仕入れて、新聞記事にしているようです。アメリカで有名なのは、ニクソン大統領が失脚した「ウォーターゲート事件」です。政府高官の内部告発した者が、外交機密を漏らしたということで、刑事事件になりそうになりました。しかし、連邦地裁判事は、政府に不正があったということで、起訴自体を却下しています。

 米国家安全保障局(NSA)による情報収集活動を暴露した、CIAのエドワード・スノーデン元職員は、今もロシアで亡命生活をしています。情報を漏らせば、普通の生活が出来なくなるというのがこの法律です。

第九 最後に
 最後に、私が好きなマルティン・ニーメラーという牧師さんの詩を紹介させてください。

ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は共産主義者ではなかったから
社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった
私は社会民主主義ではなかったから
彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は労働組合員ではなかったから
そして、彼らが私を攻撃したとき
私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった

 「私はあなたの意見には反対だが、それを主張する権利は命をかけて守る。」と言ったのは、フランスの哲学者ヴォルテールですが、言論の自由、表現の自由は重要性を認識させる言葉です。

 日本弁護士会は、このような言論の自由をなくす法律は、「廃止を目指しましょう」と呼び掛けています。

 ヨーロッパにも、「機密は保護しなければならない」という考えはあります。やはり保護すべき情報は保護しなければならない。でも、どこまでの情報を開示するのか非開示にするのかという規定は民主的な議論を通じて定めるべきです。

 国家安全保障と国民の知る権利のバランスを正しく保つために、国家機密はどこまで開示すべきか。また、どういう手段を講ずるべきか。そういう協定がヨーロッパにはあります。少なくとも、この協定に基づく基準にすべきと考えています。

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